第15話 不機嫌

「はぁー、もう死んでもいい。むしろ死んでいるのかもしれないな」


 もふもふし終わる頃には、動物達に囲まれて寝ていた。


 虎の毛は思ったより硬めだが、毛の流れに沿って触れると手が流れるほどだ。


 そんなことを思っていると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。


 僕を現実世界に戻す人は誰だろうか……。


「カナタどこだー!」


 その声に反応したのか、動物達がどこかに行ってしまう。


 抱きかかえていたポメラニアンは、腕の中から飛び降り、振り返ってこっちを見ている。


「またもふもふさせてくれますか?」


「ワン!」


 その声に反応するように、他の動物達も鳴いている。


 異世界の動物達は頭も良いんだろう。


 本人達が良いならまた会った時にでも、もふもふさせてもらおう。


 約束をすると彼らはどこかへ走って消えてしまった。


「あれ? カナタこんなところで何をしてたんだ?」


「クロウさんのせいでみんないなくなったよ。せっかく天国気分を味わってたのに……」


「天国? まだ生きてるぞ?」


 クロウは僕に近づいてくると、鼻をクンクンとして匂いを嗅いでいた。


 この人もどこか犬ぽいよな。


「なんで他の男のにおいが混ざってるんだ?」


「男のにおい? 多分さっきまで動物達を撫でていたからかな? この世界の動物ってお利口だし、みんな優しいね」


 さっきまでのことを考えると笑顔が止まらない。


 きっと気持ち悪い顔をしているのだろう。


 クロウの顔も次第に不機嫌になってきているからな。


「動物ってあの馬鹿な――」


「あっ、団長仕事は終わったんですか?」


 すると遠くからラニオン達が走ってきた。


 みんな揃って走ってくるその姿は、どこかスッキリしておりみんな笑顔だ。


 何か良いことがあったのだろう。


「お前らは今から訓練場100周だ」


「えっ、流石にそれはいじめじゃないですか?」


「はぁん? だってカナタからこいつらのにお――」


「カナタさんもっと言ってくださいよ!」


「カナタさん!」


「カナタ! カナタ!」


 気づいた時にはカナタコールが鳴り響いていた。


 流石に100周は僕も人間が簡単に走れる距離ではないと思う。


 さっきまでは動物達に夢中になっていたが、この訓練場は大きさ的にも学校のグラウンドぐらいはある。


 グラウンドの一周が約200m以上だとすると、軽く20kmを走ることになる。


 すでにハーフマラソンのレベルだ。


「流石に半分以下にしたらどうですか? 皆さん騎士だから体力があっても、何かあった時に動けないのは大変ですよ」


「それだと時間が――」


「時間ってなんの時間ですか?」


「ぐぬぬ」


 クロウはこの後何をするつもりなんだろう。


 それよりもクロウが団員を走らせる理由がわからない。


「そうやって自分の都合で部下をいじめるのパワハラって言うんですよ!」


「くっ……これは訓練だ」


「なら100周でなくても良いですよね?」


「わかった。お前ら30周だ!」


「ウォー!」


「ただ、そのままで30周だからな! くそ! カナタがいなければ……」


 どこに僕が関係しているのだろう。


「えっ? なぜ僕?」


「もう許さないからな!」


 気づいた時には僕の視線は地面を向いていた。


 クロウに抱き上げられ肩に担がれていた。


 あれ……?


 なぜ僕はまた運ばれているんだ?

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