第14話 異世界は天国

「はぁー、本当に体が疲れてたんだな」


 あれから団長室に戻ると、ベッドに寝かしつけられると、どこか安心する匂いに気づいたら意識を失っていた。


 体を起こし隣の部屋を確認するが誰もいない。


 外から声が聞こえてくるため、きっと何かやっているのだろう。


 僕は気になり反対側の扉を開けた。


 そこには大きな運動場のような開けた場所が併設されている。


 それよりも気になるのが、目の前が動物園なのかと思うほど様々な動物が寝転んでいた。


「あわああああ」


 僕の存在に気づいたのか、こちらを見て目をぱちくりさせていた。


 ああ、僕は天国に来たのだろうか。


 昔から動物が好きで自然保護官になりたくて大学に通って、勉強していたぐらいだ。


 結局両親が亡くなって夢を諦めることになったが、動物が好きなのは変わらない。


「しかもポメラニアンまでいるよ」


 気づいた時には僕の足元にポメラニアンが座っており、じーっとこちらを見ている。


「こっちにおいで!」


 手を出すと恐る恐る近づいてきた。


 小さな尻尾をふりふりとする姿に僕は釘付けだ。


「はぁー、癒される。可愛いな」


 少しずつ近づき足元まで来たら、あとはこっちのものだ。


 僕はポメラニアンを持ち上げるともふもふした。


 もう、もふもふを超えて犬吸い状態だ。


「それにしてもここは動物園なのかな?」


「動物園って――」


 声がした方に振り向くと大きな虎がいた。


 ただ、驚いたのはその後すぐに手元にいたポメラニアンが虎を蹴り飛ばしたのだ。


「ラニオンさんなんで蹴る」


「静かに! カナタさんは私達が獣人だと気づいてないです」


 何かこそこそと虎とポメラニアンが話しているところを見ると、さすが異世界だと実感できる。


「虎さん大丈夫ですか?」


 僕は虎に近づくと嫌そうな顔をしている。


 確かにネコ科の虎が弱々しいと思われるのは嫌だろうな。


 そんなことを思っていると気づいた時には動物達に囲まれていた。


 イヌ科やネコ科だけではなく、シカ科やネズミやイタチ科など近くで見ることがない動物達に僕の感情は溢れ出ていた。


「あー、もう死んでもいい。一層のこと食べられるのも悪くない」


「くっ……」


 その姿を見て動物達も笑っているような気がした。


「さぁ、誰でもいいから僕のところに寄っておいで」


「……」


 手を大きく広げるが、まだ警戒しているのだろう。


 きっとここのボスを仲間につければ、自然と動物達も寄ってくるだろう。


「ポメラニアンさんおいで……」


 まず虎を蹴るぐらいの力があるのなら、多分ここのボスはポメラニアンに決まっている。


 僕は再びポメラニアンに近寄ると尻尾を振っていた。


「あああ、尊い! その愛くるしい毛に埋もれさせてください」


「くくく」


 もう僕は自我を手放すことに決めた。


 今日は満足するまでもふもふするんだ。



「さぁ、虎さん、シカさん、ネズミさん寄ってこーい!」


 ああ、異世界にきてよかった。


 妹のことでバタバタしていたが、これが毎日続くのならこの世界にいる意味があるだろう。


 その後本当に天国に行った気持ちになっていた。

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