第13話 突然の召喚 ※聖女視点

 異世界に召喚されてから既に2日経った。


「遅れてすみません」


 しばらくすると兄の面倒を見てくれている第二騎士団団長が戻ってきた。


「お兄ちゃんは大丈夫ですか?」


「きっと疲れただけだと思います」


 久しぶりに兄と一緒に朝食を食べたが無理をしているのが見てわかるほどだ。


 いつも兄は私を第一に考えている人だから、きっと今までの疲れが押し寄せてきたのだろう。


「それでお兄ちゃんに魔力がないってどういうことですか?」


「それは私も思いました」


 この世界に来た途端に私も自分の体がおかしくなっていることがすぐにわかった。


 なんとなく感じていた存在が、聖女の力を使った時にその正体が魔力と知った。


 電気をつけるのも、シャワー浴びるのも、何かするにも基本魔力が必要となる。


 その魔力がさっき兄の口からないと言っていた。


「カナタは聖女召喚に巻き込まれた人だからなのかそれとも――」


「Ωが関係しているってことか」


「Ω?」


 聞いたことのない言葉に私は首を傾げる。


「この国には男女の性別の他に三種類の性別が存在しているんだ」


「それがΩですか?」


「はい」


「基本的にα、β、Ωと言われており、私達三人は才能に恵まれているαです。一方カナタさんは……」


「才能に恵まれていない人ですか。それは兄に対して失礼――」


「でも、その才能は努力でどうにかなる部分なんだ」


 αは何をやっても人より優れている程度で、そこに関しては努力をすれば埋めれる差らしい。


 現に城の中でβの人が働いているのは、その証拠だと言っていた。


 Ωに関しては体が貧弱な人が多かったり、そもそもの個体数が少ないため兄は珍しい存在だ。


「じゃあ何が問題なんですか?」


「Ωには定期的に発情期ヒートが起きるんです」


 聞いたことのない言葉に私は戸惑ったが、ブラン殿下に文字で書いてもらうとすぐにわかった。


――"発情期ヒート"


 動物達が定期的に起こる交尾を求める時に起こる生理現象のことだった。


「それがお兄ちゃんに起きているってことですか?」


 二人は戸惑いながらも頷く。


 それで苦しんでいるのなら、今まで一番の味方だった兄を今度は私が助けたいと思うが、どうすることもできないのだろう。


「発情期はαやβを強制的に繁殖行為を誘発させるフェロモンを放ちます。それを吸い込むと――」


「自我を忘れるほど性行為をしてしまう」


 今の兄に起きている体の状態がなんとなくわかってきた。


「その発情期を抑えるには抑制剤か番と言われる決まった相手がいれば問題ないんだが……」


 ブラン殿下は騎士団長を睨んでいた。


 二人がその番に関係しているのだろうか。


「やはり……私の番に何をした!」


 ブラン殿下は突然怒り、騎士団長に掴みかかった。


「別にカナタは貴方の番ではない。さっきも言ったが、運命の番も守れない……いや、守る気もないやつにカナタは渡さない」


 突然の出来事に私は騒然とするばかり。


 さっきの話で問題になったのは、魔力がないということと、抑制剤はあるけど使えないってことなんだろう。


「抑制剤が使えないのに発情期が治まっているってことですか?」


「この駄犬は自分の魔力をカナタに直接入れ込んだ」


「それってどういうことですか?」


「……」


 なぜか二人は答えようとしなかった。


 お兄ちゃんに直接魔力を入れるということはどういうことなんだろうか。


 確か魔力は基本的に体の中を循環していると聞いている。


 日常生活に使うものは、基本的に直接触れることでその魔力を吸い込むようになっている。


 ただ、お兄ちゃんにはその魔力を吸い込む力がないから直接入れる必要があるらしい。


 体の中を循環しているもの……。


 頭の中によぎったのは血液だ。


「それって――」


「こいつは精液を直接カナタに入れたんだ。それが一番手取り早いからな」


 私の想像を遥かに超える答えが返ってきた。


 どうやら大事なお兄ちゃんはこの目の前にいる男に取られてしまったらしい。


「許さない!」


「えっ……」


 私は二人に掴みかかると驚いた表情をしていた。


 だって、今まで大事に見守っていた兄がこんな知らない男らに取られたのだ。


「私の大事なお兄ちゃんは私が守る」


 Ωの男性は女性と同じで妊娠することができるらしい。


 一方αの女性であれば生殖器が変化し、Ωの男性に子供を産ますこともできる。


 だから兄を守るためにも、この手を使わないわけにはいかない。


「私は絶対あなた達を認めないからね! それなら私がお兄ちゃんの運命の番になるんだから!」


「えっ、聖女様それはどういう意味で――」


「おい、駄犬! 聖女様を止めるんだ」


「それは腹黒殿下の役目でしょ!」


 二人の焦っている姿にどこか笑ってしまった。


 実は仲良しなんだろう。


「今度は私がお兄ちゃんが生きやすいように手伝ってあげるよ」


 私は異世界に来て初めて決意を固めた。

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