第12話 よしよしして
僕は夢と楽しく朝食を食べ……れるわけがなかった。
目の前にブラン殿下と呼ばれている人が一緒に座って食べているからだ。
「どうしましたか?」
「いえ、綺麗だなって思いまして……」
突然声をかけられたからそのまま答えてしまった。
動作一つ取っても、所作が丁寧で気品溢れており、見惚れてしまうほどだ。
本当に漫画やアニメの世界にいる王子様が目の前にいる感覚に近い。
「褒めていただきありがとうございます」
わずかに微笑んだ顔はやはり優しそうな顔をしている。
僕が女性だったら今の段階で彼に惚れていただろう。
「それでお兄ちゃんはあのあと何をしていたの?」
「倒れたあとってこと?」
「うん」
そう言われればあのまま気絶して記憶はない。
どこか心地良い感覚とお尻に違和感があったぐらいだ。
「あのまま寝ていたから何もなかったよ? 朝になってシャワーを浴びたけど、どうやら僕は魔力がなくてラニオンさんに朝も手伝ってもらったよ」
「ラニオンさん?」
「第二騎士団の副団長さんでとても優しい方なんだ。ほら、あそこにいるのが騎士団長の――」
僕はクロウを指差すとイライラした顔で何かを考えているようだ。
見ているのに気づいたのか、手を振ると大きく手を振りかえしていた。
「どこか犬ぽいですね」
「ははは、僕も思ったけど今は彼らしか助けてくれる人がいないからね」
夢と一緒に召喚された時から助けてくれたのはクロウだった。
妹のためなら命をかけることもできるが、正直剣を向けられた時のことを考えると、また体が震えてしまいそうだ。
「お兄ちゃん?」
「うん?」
「なんか元気ないけど?」
「ちょっと疲れちゃったかな」
迷惑をかけないように夢に微笑んだ。
仕事が忙しい時に寝不足になることは多かったが、それよりも今は体が疲れている。
「じゃあ、朝食はここまでにしようか」
殿下は何か指先で文字を書くと、小さな鳥の形になり飛んで行った。
「今のは……?」
「ああ、今のは連絡する魔法ですね」
――コンコン!
「失礼します」
扉を叩く音がするとすぐにメイドや執事達が入ってきた。
テーブルにあった食事を片付けると、今度はお茶の準備を始めた。
流石にもう食べられる気がしない。
「もうお腹いっぱいなので……」
「お兄ちゃんもちゃんと寝るんだよ」
「心配してくれてありがとう」
僕は夢の頭を撫でると、しばらく休むことにした。
そういえば僕はどこで寝ればいいのだろうか。
「カナタは今日寝ていたところに
「さすがクロウさんですね」
僕の気持ちがわかっているのか、近くに来たクロウは耳元で呟いた。
「では先に席を外させてもらいます」
「お兄ちゃんまたね!」
「ゆっくり休んでくださいね。あと騎士団長は後で戻ってきてください」
「わかりました」
どこかクロウと話す殿下は僕や夢と違った印象を受けた。
やはりそこは王族と騎士団という決まった地位が関係しているのだろうか。
部屋を後にすると、突然クロウは立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「ん!」
「えっ?」
クロウは僕に頭を突き出している。
若干頭突きをされて痛いが……。
「聖女様にはやっていたよな? 俺は護衛もしたぞ」
どうやらさっき頭を撫でたところを見ていたのだろう。
これは頭を撫でろということだろうか。
僕はそっとクロウの頭に手を置いた。
「ははは、クロウさんも頑張りましたね」
クロウの頭を撫でるとどこか嬉しそうに笑っていた。
ああ、本当にこの人は犬みたいだな……。
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