第11話 朝食

 僕はまたクロウに抱えられて、どこかへ向かっている。


 あの後、何かに気づいたのかすぐに向かうことになったが、あまりにも走るのが遅すぎて運ばれいるのだ。


「クロウさん、僕自分で走れ――」


「カナタは足が遅いから運ばれていればいいんだ」


 そう言ってはいるが、どこかクロウの顔はニヤけていた。


 ただでさえ心臓の鼓動が早いのに、走って大丈夫なのかと僕は心配になる。


 なぜこんなに急いでいるのかといえば……。


「第二騎士団騎士団長のクロウだ」


「ああ、ブラン殿下と聖女様がお待ちだ」


 やはりクロウにはどこか冷たい気がするのはなんでだろう。


 クロウは僕を下ろすと帰ろうとしていた。


「帰っちゃうんですか?」


「えっ……」


 流石に昨日の出来事を思うと僕も正直怖い。


 あの時は夢の聖女としての力で命を繋ぎ止めれたが、流石に一人にされると恐怖で体が震えそうになる。


「カナタの護衛だ。一緒に入らせてもらおう」


「いや、第二騎士団を聖女様に近づけてはならぬ」


 鎧を着た男達はクロウに槍を向けた。


 第二騎士団と違いしっかりとした鎧を着ているため、違う騎士団所属の人達なんだろうか。


「俺に喧嘩を売る気か? こんな棒一本で俺に勝てると――」


――バン!


「お兄ちゃん!」


 扉を開ける音とともに夢が部屋から出てきた。


 きっとクロウの声が部屋の中にまで聞こえてきたのだろう。


「聖女様あぶないです」


「私がどうするかは私の勝手でしょ」


 夢は鎧の男達の間を通り、僕に近づいてきた。


「首は大丈夫? 痛くない?」


「ああ、夢が治してくれたからね」


「本当によかった」


「それにしてもいつの間にこんなに大きくなったんだ?」


 夢は僕よりも身長が小さかったはずが、いつの間にか目の高さが同じになっていた。


「私もまだまだ成長期ってところかな?」


 夢は僕の手を掴むと部屋の中に案内した。


 ん?


 どこか反対の手も掴まれている気がした。


「クロウさんも行きますよ。僕の護衛なんですよね?」


「ああ」


 僕の手を掴んでいたのはクロウだった。


 さっきの反応だと騎士団団長でも、関わって良いところとダメなところがあるのだろう。


 だから口では言わず、手を握って僕に助けを求めていた。


 僕としても護衛がいる方が助かるからな。


 僕達が部屋に入ると扉は閉まり、部屋の中には夢とクロウ、そして……。


「昨日は私の騎士がすまない」


 昨日あの場にいたブラン殿下と呼ばれている人が待っていた。


「ブラン様おはようございます」


 クロウもそれに気づき、すぐに跪いて挨拶をしている。


 その様子を見た僕も夢の手を離して挨拶をした。


「おはようございます。ご心配おかけしてすみませんでした」


「お兄ちゃん……」


 僕の行動に妹の夢もどこか驚いている。


 この人が殿下と呼ばれているということは、僕の対応次第では夢に悪影響を及ぼす可能性があった。


「ああ、体の調子はどうだ?」


「この通り体は何事もなく無事です」


 僕は肘を曲げてガッツポーズをした。


「くくく、それはよかった」


 彼は冷たい表情をしているが、どこか笑うと優しい顔をしている。


「お兄ちゃん早く食べないとご飯が冷めちゃうよ」


 夢に引っ張られるように立ち上がるとテーブルに向かった。


「ご飯?」


 そういえば、僕は夢と一緒に朝食を食べるために呼ばれていた。


「ずっと待ってたんだからね! 一緒に食べよ!」


 両親が亡くなってから夢とは毎日一緒にご飯を食べている。


 それが我が家のルールだった。


「クロウさんは?」


「ああ、俺は護衛だからまた後で食べるよ」


「ならお兄ちゃんはここに座ってね」


 僕は夢に勧められるように椅子に腰をかけると隣には夢が座った。


「第二騎士団団長、私の番と馴れ馴れしいぞ」


「カナタは俺の番だ。そもそも自分の番だと言うのなら、その煮え切らない態度をどうにかした方がいい」


「くっ、駄犬に何がわかるんだ」


「自分のことしか考えていないやつにはカナタは渡さない。そもそも腹黒殿下が俺に勝てるわけがないだろ」


 その裏ではクロウと殿下が戦っていたのをこの時はまだ知らなかった。

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