第9話 怒りの団長
僕はラニオンと共に歩いていると急に男の人が走ってきた。
どこかその表情は焦っている。
「ラニオンさーん!」
「トランどうしたんだ?」
「団長を止めてくださいよー。なぜかイライラして……あれ? そちらの方は?」
金髪に黒髪メッシュという少し派手な髪色の男は僕を見ている。
「カナタと申します」
「あっ、俺……いや僕はトランと申します」
男は姿勢を正して胸に手を当てた。
これがこの国の挨拶の仕方だろうか。
僕もマネして手を胸の前に当てた。
「こんな感じで大丈夫……あれ? どうかしましたか?」
二人はなぜかこちらを見て止まっている。
僕は急いで手を元に戻した。
「あっ、間違えていましたよね。ラニオン先生にはもっと教えてもらわないと――」
「カナタさんは俺……あっ、僕達のこと嫌ではないんですか?」
この二人にどこか嫌なところがあるのだろうか。
少し見た目が派手だけど、特に嫌うところはない。
ラニオンやトランも普通の人達だ。
むしろ、昨日会った騎士達の方が僕としては嫌悪感が強い。
「特に気にはならないですよ? ラニオンさんは優しいですし、トランさんも普通に爽やかな男性だなとしか思わないです。あと、話しにくければ敬語とかは使わなくても大丈夫ですよ」
「こんな人間珍しいですね」
「それは――」
「お前らいつになったら戻ってくるんだ!」
奥から大きな音を立てて歩いてくる人がいた。
僕は視線をずらすとそこにはクロウが音を立てながら歩いている。
「あああ、団長がラニオンさんを呼んで来いって言っていたのを忘れて――」
「ほお、お前は俺の命令を忘れるんだな?」
クロウはどこかトランに威圧的な態度を示している。
さっきまでの優しいクロウはどこに行ったのだろうか。
「クロウさんはいつもこんな態度で部下に声をかけるんですか?」
「ふぇ!?」
僕が突然会話に入ったため、クロウは驚いていた。
でもどこから見てもパワハラにしか見えない。
「いくらなんでも酷いと思いますよ。そもそも部下を指導する立場の人間がこんな態度では部下はついて来ないですよ?」
僕が詰め寄るとクロウはあたふたとしている。
あまり立場的にも怒られることもなく、何か言われることもないのだろう。
「ああ、すまない」
しばらくすると反省したのか、誰が見てもわかるほど露骨に落ち込んでいる。
どこか垂れ下がった黒い犬耳と尻尾が見えるのは気のせいだろうか。
あまりにも可哀想に思い、僕は背伸びをしてクロウの頭を撫でることにした。
癖毛のような髪質はふわふわとしており、どこかで撫でたことあるような感触が手に伝わってきた。
「変わった人間もいるんですね」
「それがカナタさんの良いところでしょうね」
僕が手を離すとクロウはこちらを見ている。
すると手をもう一度掴み頭の上に置いてきた。
これはもっと撫でろという意味なのだろうか。
戸惑っているとクロウは諦めたのか手を再び掴み下ろさせた。
騎士団長も仕事が辛い時は慰めてもらいたいのだろう。
どうやら僕達を呼びにきたクロウと共に団長室に戻っていると、僕はいつのまにか壁とクロウに挟まれていた。
「ちょ……クロウさん寄りすぎです」
だんだん距離が近くなっている気はしていたが、僕の隣をくっつくようにクロウは歩いていた。
「ああ、すまない」
そう言って少し離れるが、気づいた時には僕の肩にクロウの腕が触れている。
ああ、もう少し離れないと歩きにくいな……。
この時の僕はクロウのことを変わっている人としか認識していなかった。
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