第8話 出ません!!

 僕は一人でお風呂に入ろうとしたが、なぜかラニオンが中まで付いてきた。


「あのー、どうして中まで……」


「ああ、すみません。きっとカナタさんには使えないと思いまして」


 それは僕が異世界だからシャワーの使い方もわからないと思われているのだろうか。


 流石に異世界に来たとしてもシャワーぐらい使い方は知っている。


「では、何かありましたらすぐにお呼びください」


 ラニオンはそう言ってお風呂場から出て行った。


「ふぅー、久しぶりにシャワーを浴びれるな」


 シャワーの蛇口を回そうとするが、どこにも蛇口のハンドルがなかった。


 まさか本当に異世界のシャワーは仕組み自体が違うとは思いもしなかった。


「ラニオンさーん!」


 早速ラニオンを呼ぶことになってしまった。


「どうしました?」


「シャワーのハンドルがどこにあるかわからなくて……」


「ハンドルですか?」


「はい。お湯を出したくて――」


「ああ、それなら近くにある青と赤の魔石に触れてください」


 魔石とは目の前にある石のことを言っているのだろうか。


 僕は青色の石に触れた。


「冷たっ!?」


 すると急にシャワーから水が出てきた。


 きっとこの石がハンドルの役割を果たしているのだろう。


 ただ、量も少なく冷水だ。


 次に赤の魔石に触れると、こっちも量が少なくわずかに温かくなってきた。


「あのー、シャワーの勢いって強くできますか?」


「ああ、今行きますね」


 ラニオンは浴室に入ってくると魔石に手を触れた。


 僕が触った時よりもたくさんのお湯が出てきたのだ。


「これは魔力に反応するように作られています」


「魔力ですか?」


「ええ、昨日寝ている時に調べてさせて頂きましたが、カナタさんには魔力が宿っていません」


「えっ……」


「勝手に調べて――」


「あっ、それは大丈夫です。魔力がないと何か問題なんですか?」


「この世界にある物は基本的に魔力を使います。なので魔力がない人は今みたいにシャワーが使えないんです」


 ラニオンの話だと魔力という電気みたいな何かが体の中にはあり、それを代わりに使って生活しているらしい。


「それって僕一人だと生活ができないってことですよね」


「そういうことになりますね」


 だからあの時ラニオンは一緒にお風呂場に入ろうとしていたのだろう。


 ただ、魔力が全く無ければ水も出ないはずだ。


「ならなぜ水が出たんですか?」


「あー、それは……団長に聞いた方が良いと思います」


 ラニオンは顔を逸らして出て行ってしまった。


 クロウなら何か知っているのだろう。


 とりあえず今はシャワーを浴びてから考えることにした。





「はぁー、カナタに嫌われてないかな」


 俺は一人寂しく事務仕事に追われている。


 そもそも俺はこういった細かい仕事が苦手なのだ。


 やってもやっても山になった仕事が減っている気がしない。


「団長おはよ――」


「あん!?」


 朝の挨拶に部下達が来たようだ。


 時計を見たらいつのまにか朝礼の時間になっている。


「おまえらか」


「なんか今日機嫌が悪くないですか?」


「そんなことはない」


「珍しく事務仕事もしていますし……」


 俺が机に座って仕事をしていることがそんなにおかしいことなんだろうか。


「ははは、先生はさすがですね」


「いえいえ、カナタさんは礼儀もありますし、人を喜ばすのが上手ですね」


「無駄に年を取っているわけではないですからね」


「あれ? カナタさんはまだ未成年じゃ」


 外からカナタの声が聞こえてきたが、俺の時とは違い、ラニオンと話している時は楽しそうだ。


「おい、今すぐラニオン達を呼んでこい!」


「わっ……わかりました!」


 急いで部下を使って、カナタとラニオンを呼びに行かせた。


 ラニオンめ……この山になった仕事をやってもらわないといけないな。

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