第7話 謎の筋肉痛

 重たい体を寝返りすると、そこにはもふもふと心地よい感触を体で感じた。


 目を開けるとそこには黒犬が一緒に寝ている。


「クロおはよう」


 僕は黒犬に近づくとゆっくりと抱きしめる。


 この間は抱きつくことができなかったが、今回はやっと触れることができた。


 触られ慣れているのか、黒犬は撫でやすいように僕に頭を向けている。


「このこの、可愛いやつめ」


 昔から動物が好きだった僕にとっては、異世界に来たご褒美だ。


 異世界に……。


「夢は大丈夫なのか!」


 急いでベッドから降りるが、なぜか力が入らずその場で転んでしまう。


 昨日よりは熱っぽさはないし体調も良さそうだ。


 それなのに全身が筋肉痛になっている。


「いたた……」


――ガチャ!


「大丈夫か?」


 きっと大きな音がしたからだろう。


 クロウが心配そうに見に来たのだ。


「筋肉痛で動きづらいだけですよ」


「そうか……」


 どこかクロウは安心そうな顔をしていた。


 それだけ昨日迷惑をかけたのだろう。


「クロは大丈……」


 僕が振り返った時にはクロはもういなかった。


 いつも気づいた時にはいない。


 あの黒犬はここで飼っている犬なんだろうか。


 また会えるならぜひもふもふさせてほしい。


「立てるか?」


 差し出された手を掴むと、飛ばされるんじゃないかと思うほどの勢いで立ち上がった。


 成人男性である僕を軽々と持ち上げるだけの力があった。


「クロウさんすごい力ですね」


「クロウさん・・……」


「どうしました?」


 力があるという言葉がそんなにいけなかったのだろうか。


「カナタさん、お体は大丈夫ですか?」


 そんなことを思っていると、隣の部屋からは僕よりも一回り大きい男の人が声をかけてきた。


 茶髪でアイドルのような爽やかさを醸し出している男性がそこには立っていた。


「騎士団の方ですか?」


「はい、ご挨拶遅れました。第二騎士団長副団長のラニオンです。よろしくお願いします」


 確かクロウが騎士団長だったからその部下だろう。


「昨日は大変でしたね。聖女様もご無事ですので、湯浴みをして体の疲れを取ってから向かいましょうか」


 優しく微笑むラニオンに僕はどこか癒されていた。


 アイドルスマイルの癒し力は半端ない。


「ではこちらです」


 ラニオンは近づき僕の手を取ろうとした。


 だがそれを良いと思っていない人物がいた。


「こいつは俺が案内する」


 ラニオンの手をクロウが払ったのだ。


 昨日も思ったが、この人はそんなに仕事を取られるのが嫌なんだろうか。


「僕は別にラニオンさんでも大丈夫ですよ? 騎士団長は忙しいですよね」


「大丈夫だ。俺の仕事・・・・はこいつに任せれば良いからな」


 ん?


 昨日は自分の仕事を大事にしていたのに、今日になって部下に任せれば良いとはどういうことだろうか。


「僕は自分の仕事をちゃんとしない人に案内はされたくはないです。しっかり仕事をしてください」


「くぅ……」


 何か思い当たる節があるのだろう。


 会ったばかりの僕でもわかるぐらい落ち込んでいた。


「ふふふ、カナタさん行きましょうか! 団長もちゃんと仕事してくださいね」


 僕はラニオンに手を引かれて湯浴みに向かった。


「騎士団長のあの顔久しぶりに見ましたよ」


「えっ?」


「あれでも騎士団の中で一番強いって言われている人ですからね」


 僕を軽々と持てる力がある人なら実力もあるのだろう。


「あっ、一番強いってこの国で一番強いってことですよ」


 騎士団の中で一番強いと思っていたが、まさかこの国で一番強い人にだとは……。


 そんな偉い人に仕事しなさいと僕は言っていた。


 あれだけ心配かけたのに生意気な小僧だと思われているだろう。


「あんなに落ち込むとは思わなかったです。あとで謝らないといけないですね」


「きっと違う意味で落ち込んでいたと思いますよ」


「そうなんですか?」


「カナタ様は気にしなくていいですよ。ではこのお風呂を使ってください」


 気づいた時には僕の目の前にはお風呂があった。

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