第5話 再開

 僕は首元に当たる冷たい剣に息を呑んだ。


 これは現実なんだろうか。


「すぐに剣を戻しなさい」


「しかし……」


「君は私の騎士だろう? 私を困らせて――」


「申し訳ありません」


 急な出来事に僕の頭がついていけてないだけだろうか。


 どこか自分の中にある熱が再び溢れ出そうになっていた。


 騎士は剣を鞘に戻そうとした瞬間、僕の体から力が抜ける。


「痛っ!」


「お兄ちゃん!?」


 後ろにいた夢は僕を支え、驚いた顔でこっちを見ていた。


「血が出てるよ! 早く止めないと」


 顔面蒼白している妹を見て、僕は自身の首元に触れる。


 手に伝わる感触で僕は現状を理解した。


 さっきふらついた時に剣で首を切ってしまった。


「ブラン様、私は剣を戻そうとしただけで動いたのはこやつ――」


「そんな話はどうでもいい。まずは止血するのが先だ」


 殿下と呼ばれている人も近づいてきた。


「来ない方がいい」


「何を言って――」


 それでも近寄ってこないように制止させた。


 殿下と呼ばれているということは、この国の王族なんだろう。


「服が汚れますよ」


「こんな時に何言ってるのよ!」


 夢に怒られてしまったが、せっかく着ている煌びやかな服が血で染まったら、もう着れなくなってしまう。


「これぐらい大丈夫だよ」


「大丈夫じゃないよ。早く止まってよ!」


 夢は必死に僕の首を手で押さえる。


 次第に痛みは感じないが、徐々に体が鉛のように重たく感じた。


「これが聖女様の力か……でも、なぜこんなに体が熱くなるんだ」


 男はどこか胸を押さえて苦しそうにしていた。


「聖女様の力が発現したぞ! すぐに国王様に伝えるのだ!」


 騎士はすぐに見張りをしていた男に伝えると、どこかへ行ってしまった。


「お兄ちゃん死なないで……」


「大丈夫だ。ちょっと体が重いだけだよ」


 だんだんと意識が薄れる中、殿下と呼ばれていた男が近づいてきた。


「少し良いですか?」


「汚れるから――」


 突然近づいてきた男は僕の首元に顔を近づけた。


 どこか息が荒く苦しそうだ。


「ここに私のつが――」


――バン!


 扉が勢いよく開いたタイミングで誰かが入ってきた。


「大丈夫か!」


 この声はきっとあの人だろう。


「あなたは誰――」


「クロウさんですか?」


 僕の声に反応してクロウが近づいてきた。


「ちっ、こんな状態で発情期ヒートになったのか。聖女様は大丈夫ですか?」


「発情期……? 私なら大丈夫です」


「よかったです。お兄さんは私が預かります」


 クロウは僕の首元と膝に手を入れて引き寄せる。


「ちょっと待て」


 立ち去ろうとするクロウの手をブランは掴んだ。


「ブラン様もΩのフェロモンに当てられたなら――」


「いや、この匂いは……この者は私の番だ」


「はぁ……息苦しいよ」


 二人が近づいて来た時から、さらに息苦しい。


 今すぐにでもこの熱を出し切りたいと体の奥がゾワゾワとする。

 


「番? 発情期? さっきから何を言っているんですか?」


 夢も突然の出来事で混乱しているようだ。


「ブラン様、ここは私にお任せください。今は国王様が近づいて来てますので、この状況を解決する方が先です」


「わかった」


 ブランが手を離すと、僕はそのままクロウに抱えられ部屋から出た。

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