Dec.3rd 翻訳

「シャーロック・ホームズか」

「久しぶりにね」

 ソファで文庫本を捲る彼女の前にはカモミールティーが置かれている。その傍に置かれた一冊と、今捲る背表紙の題が同じことに気が付いた。

「良かったらどうぞ」

「俺と同じのを読んで過ごす用?」

「勿論違うわ。翻訳者が違うでしょ」

 確かに装丁と出版社、翻訳者名が違っている。

「全然味が変わるのよね……。翻訳って、一種の二次創作だと思うわ」

 そう言って彼女は二つの文を同時に指でなぞる。

「中身が同じでも、外装や文体で読んでみたいかみたくないのか変わるの。不思議ね」

「でも二つあるってことは両方好きなのか」

「そこまで無類のシャーロキアンじゃないわ。申し訳ないけど比較用よ。比べるとどちらが好みか分かるでしょ」

「それくらいは立ち読みしてもいいんじゃないか?」

「気分が変わることもあるかと思って」

「俺は葉那と同じのが読みたい気分」

 隣に座って抱き上げ膝に乗せた。手元の本を覗き込む。

「同じページが読める」

「邪魔するならカフェに行くわ」

 ……大人しくもう一冊を手に取った。




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