第56話
「お嬢様、そろそろお絵描きを。」
ナイスっ!ダリア。
いいタイミングだ。
「アリス、お絵描きをしましょうか。」
「はい。」
恐ろしい話は叔母様に任せて、私とアリスは展示室内のアクセサリーを見て回った。
「まずは、どれする?」
「迷います。」
「アリスが気に入ったものを、いくつか描くといいわよ。」
「ん~・・・、じゃあ、まずはこれを描きます。」
椅子や画板をダリアが用意してくれた。
基本、私は絵については、口出しをしない。
前世の高校時代は、美術部部長だ。
絵に関しては、一般の人よりは詳しい。
朧げな前世の記憶によると子供に一番やってはいけないのが、口出しやデザインや構図に対して、手を加える事。
小学校の時に絵の上手な同級生が二人居たのだが、一人は、絵の宿題を家で描いていると美術部でもなく、ただちょっとだけ絵が上手いという母親が手を加えてくると嘆いていた。
その内、その子は絵を描かなくなった。
母親が駄目にするパターンで、これは様々な分野で、よくある話だ。
その道の人でもないのに、ついやっちゃう、あるあるなんだが、子供にとっては、溜まったものじゃない。
もう一人は、何と賞を貰える事になったのだが、更に大きな賞を貰うべく、絵に色々と手を加える事に。
担任が賞を貰う事に躍起になり、見事、賞は取ったものの、その子は絵が嫌いになった。
己の評価の為に子供の才能を潰したパターンだが、これも、あるあるな話で、こういう教師こそ教師失格なのだが、評価されるのは、こういう教師だったりする。
そう言った記憶もあるし、美術を部活で学んだ身だ。口も出さないし、手も加えない。
方法を聞かれた時にだけ、答える。
これが、私の方法だ。
ただ最終的には、アクセサリーにするので、一応、私も同じものをデッサンしておく。
何度か、どうしたらいいか聞かれたので、それを答えていたら、いい時間になった。
「そろそろ軽食に致しましょう。」
そうダリアが、言ってきたので、一旦休憩だ。
「お姉さま、プレゼントの事はお母さまには、内緒でお願いします。」
「ええ、わかってるわ。」
子供って親を喜ばせたいのと同じく位に驚かせたいのだ。
サプライズは大事だからね。
休憩スペースに戻ると、心なしか叔母様がゲッソリしているように見えた。
あまり、見ない様にしておこう。
私とアリスが席につくと、ダリアが軽食を用意してくれた。
がっ。
パンにクリームが挟んである。
前世では普通によく売っていたパンだが。
「ちょっ、ダリア。これいいの?」
「はい、奥様には、許可を得ていますので。」
なんとっ、お母様が?
「この白い物は何かしら?」
王妃様がダリアに聞いた。
「クリームという物で、お嬢様が考案しました。」
「まあ、アウエリアが?」
今は、リリアーヌが居ない。
私、考案という事で、私が最初に口にする。
一口、パクリっ。
な、なんだと?
まさかの塩パンだ。
塩パンに生クリームって反則やろっ。
めっちゃ旨いですやん。
いかん、変な関西弁になってる・・・。
「美味しいわ、ダリア。」
「ありがとうございます。」
私がダリアに言うと、それを合図に皆が口にする。
さて、初クリームとなる王妃様はどんなかな?
固まった。
王妃様が固まった。
一口食べた途端にこれだ。
最初が塩パン生クリームだからなあ。
驚きも一入だろう。
「だ、ダリア・・・。」
復活した、王妃様が復活した。
「はい、何でしょう?」
「このレシピは教えてもらえるのかしら?」
「申し訳ございません。今のところは、当家のみで。」
「そうなの?王家にも教えて貰えないの?」
「お店も控えておりますので。」
「お店?ピザート家がお店を開くの?」
「いえ、実際はアーマード商会なのですが、当家が監修をしております。」
「そ、そう。」
店を開くとなれば、王家も無理は言えない。
「お店というのは、パン屋さんなのかしら?」
「いえ、カフェというものになります。」
「カフェ?」
「こちらもお嬢様が発案でして。」
「アウエリアが?どういうものなの?」
「お茶とデザートを楽しむお店です。」
私に聞かれたので、私が答えた。
「態々、お店で?」
「お店は平民街ですので、ターゲットは平民になります。」
「平民がお茶をするかしら?でも、デザートなら・・・。」
「平民街というか王都には、ちょっとした休めるようなお店がありませんので。」
「確かにそうね。」
「それに、販売もしますので、最悪はお母様の派閥の方にお客になって貰おうかと。」
「アーマード商会がって事は、アーマード産の茶葉も販売する訳ね。」
「はい。」
「お店が出来たら、是非、行ってみたいわ。」
「「・・・。」」
私と叔母様が絶句した。
無理だろ、それは・・・。
「何とかならないかしら?」
王妃様が叔母様に聞いた。
「陛下の許可が頂けるなら、場所はご用意しておきます。」
お手本のような返事だ。
まあ、それはそうだ。
アーマード家にしろ、ピザート家にしろ、準備できるのは場所くらいだ。
「そう、なら陛下にお伺いをたてないとね。」
陛下が押し切られそうな気もしないではないが、考えない様にしとこ。
「それで、ダリア。ピザート家、いえ、エカテリーナ様は私に何と?」
ん?何の話だ?
「お店がオープンし、落ち着いた暁には、お嬢様が考案したクリームのレシピを王家に限り提供する用意があります。」
「まあ、エカテリーナ様が、そんな事を?で、私はどうすればいいのかしら?」
「飴屋の引き抜きを辞めて頂きたく。」
ふぁっ?
飴屋の引き抜き?
えっ、王妃様、そんな事してたの?
「飴屋のダンウォーカーも王室御用達になれば、喜ぶのでは?悪い話ではないでしょ?」
「しかし、既にカフェのパティシエに決まっております。」
「それは知らなかったから、しょうがないわ。」
「何故に王妃様が飴屋を?」
溜まらず私が聞いた。
「あの飴細工は、目を見張るものがあるわ。他国からの要人をお迎えした時に、是非にと思って声を掛けたのよ。」
なるほど。
「飴屋を見出したのも、お嬢様です。」
ダリアが言った。
「なんだか、私がアウエリアの邪魔をしているみたいじゃない?」
「飴屋が王宮勤めになれば、カフェの開店は、大幅に遅れるかと。」
恭しくダリアが言う。
まあ私としては、どっちでもいいのだが。
飴屋が居た方が、バリエーションは増えるのは確かだ。
「判ったわ。飴屋の件は忘れることにするわ。」
「他国からの要人が訪問の際、必要な時であれば、協力は惜しまないと申し使っております。」
「あら、ダリアも協力してくれるって事かしら?」
「必要であれば。」
そう言って、ダリアが礼をした。
「エカテリーナ様がそこまで言ってくれるなんてねえ。嵐の前触れかしら?」
「義姉は昔、頭を下げておりますよ?」
叔母様も知っていたのか。
「その件に関しては、後悔しているところよ。」
「そうなのですか?」
「だって、こんな状況になっていなかったと思うもの。アウエリアに会うのも一苦労なのよ?」
「それは・・・。」
自分の家を取り潰した私を引き取る家は、然う然う無かっただろう。
更に王都に限るなんて条件が付けば、猶更だ。
ただ、まあ、もしもの話をしても仕方がない。
「続きをしましょうか?」
「はい。」
アリスが元気に返事をしたので、私たちはお絵描きへと戻っていった。
「お姉さま、お姉さま。」
「なあに?」
「お姉さまと王妃様って、どういう関係ですか?」
「そうね、私とアリスの娘の関係って言ったら早いかなあ。」
「私の娘がお姉さま?」
「ええ、そうよ。」
「うわあ、素敵な関係ですね。」
「そうね。」
その後、私たちは、アクセサリーのお絵描きに没頭した。
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