第55話
貴族でないダリアが、賄賂というお菓子の袋を渡し、次々と関門を突破していく。
私的には見慣れた光景だ。
大丈夫なのか?王宮の警備は・・・。
「まずは、休憩スペースで一休み致しましょう。」
ダリアがそう言って、私たちを案内する。
当然、そこには、私の親族が待ち構えている訳で。
「はっ!アリス、しっかり挨拶するのよ。あのお方が王妃様よ。」
「あら、ユリアナさんも来たのね。」
「どうも、王妃様。」
叔母様は深々と礼をする。
アリスも、それに習い深い礼をする。
「こちらは、娘のアリスになります。」
「アリス・イデ・アーマードです。」
アリスが元気に挨拶する。
かわえええ。
その後、叔母様がこちらを見る。
目で何かを訴えようとしているが、なんだろ?
ダリアが王妃様の隣の椅子を引いてくれているので、そちらに腰掛ける。
「ちょっ、何してるの。挨拶しなさい。」
叔母様が慌てる。
まるで、おかんか親戚のおばさんのようだ。
一応、親戚の叔母さんではあるけど。
「いいのよ、ユリアナさん。アウエリアとは昨日も会っているのだし。毎日会えて嬉しいわ。」
そう言って、微笑みながら、私の頭を王妃様は撫でた。
「えっ、どういう・・・。」
「アリス、こっちに座って。」
私は、アリスを隣に座るように言う。
「はい、お姉さま。」
ダリアがアリスを抱えて、アリスを着席させる。
「待って、アウエリアの元々の家って・・・。」
「フォールド家ですよ、叔母様。」
「フォールド家・・・、何で忘れていたの私は・・・。」
「もう10年も経つのよ。仕方がないわ。」
王妃様が、そう叔母様に言う。
「ユリアナさんは、コンスタンスと貴族学院で同級生だったのよ。」
「えっ。」
初耳だ。
「更に言うなら、当時は、ユリアナさんは私の派閥だったわ。」
ああ・・・、嫁入りして派閥が変わるタイプか。家の事情があるから仕方がないが、よりにもよって、派閥トップの義弟の嫁か。
「ユリアナさんは、今日はどうしたのかしら?」
「えっ、えっと・・・娘の付き添いです。」
「あら、そうなのね。てっきりエカテリーナ様に何か言われているのかと思ったわ。」
「そんな、まさか・・・、ははは・・・。」
追い払うとか言ってなかったか?叔母様。
あっ、やば。
読まれてまう。
無心、無心・・・。
「何かあるの、アウエリア?」
「何もありません。」
無心よ、無心になれっ!
「そう、ならいいのだけど。無理に無心になる事はないのよ?」
「・・・。」
「あの、この事を義姉は?」
「当然、知ってるわよ?」
「ですよね・・・。」
ちょっかいをかける親族と言っていたのだ。
叔母様も、それに気が付いたようだ。
「や、ややこしい・・・。」
叔母様は私の事を見ながら、そう呟いた。
確かに私の立場は、ややこしいが、叔母様も負けてないのでは、ないだろうか?
「ユリアナさん、アウエリアがアーマード領へ行くなんて話が出ているそうね。」
「ええ、まあ。」
「何とかならないかしら?」
「何とかとは?」
「その間、私もアーマード領に滞在できるように・・・。」
「む、無理無理無理、無理です。」
「どうしても無理かしら?」
「滞在場所を用意しろと言われるなら、準備は出来ますが・・・。」
「どうしたものかしら?」
「うちでは、どうにもなりません。」
「今ですら週に一度しか会えないというのに、アーマード領へ行ったら、どうなるのかしら?」
「どうなるも何も、暫くは会えないかと・・・。」
「アウエリアは、ちゃんと王都へ戻ってくるのかしら?」
何のことだ?
「ほら、アーマード家に養女にって、話があったでしょう?」
「確かにありましたが・・・。」
何ですとっ?初耳なんですが?
アーマード家に養女?という事は、私が名実ともにアリスの姉にっ!何て素敵なお話なのっ!
「駄目よ。アウエリア。」
何が、駄目???
「アーマード領は遠いでしょ?その話は、私が叩き潰したわ。」
「・・・。」
「ほら、ユリアナさん。アウエリアは、アーマード家の養女になりたいようよ。」
「はい?」
「というかアリスの姉になりたいんでしょうね。ふふふ・・・。」
無心だ、無心になれ私。
「もしかして、アウエリアの考えが判るんですか?」
「ええ。」
「あまり読まれない方がいいのでは?コンスタンス様の時の様に避けられますよ?」
「あら?あの子は私を避けてなんかないわ。私に会っても、顔を背けるだけよ?」
「反対や苦言ばかり申されるからです。」
「仕方がないじゃない?あの子、突拍子もない事ばかりしようとするんだから。そうそう、テセウスの涙を探し隊なんて、愉快な隊を組織していたわね。結局、宝石(いし)拾いにも行けなかったようだけど。」
「そうですね。私は行く羽目になりましたが・・・。」
「あら?そうなの?」
「寝込んだまま、「いし、いしが・・・」と魘される様だったので、私と数人が現地に行きました。」
なんて迷惑な・・・。
しかし、叔母様が、いし拾い仲間だったなんて。
「お母さま、お母さま。私も、いし拾い行ってみたいです。」
「あのね、アリス。貴族令嬢が行くような場所じゃないのよ。」
叔母様がアリスを窘める。
「アリス、いつか一緒に行きましょうね。」
「はいっ!」
にぱぁっと笑って、アリスが返事をした。
「ちょっと、勝手にアリスと約束しないで。」
「まあまあ、叔母様。私達、いし拾い仲間じゃないですか?」
「変な仲間にしないで。まったく、あんた達、親子は・・・。」
ちょっと待ってほしい。
頼むから生母と一緒くたにするのは辞めて欲しい。
叔母様に迷惑をかけたのは、生母であって、私じゃない。
「親子って似てしまうものなのね。」
そう言って、王妃様が微笑んだ。
「アウエリアは、特に病気とかないのよね?」
眉間に皺を寄せながら、叔母様が聞いてきた。
「頗る元気ですよ?」
私がそう返事をすると、眉間の皺が深くなった。
「げ、元気なコンスタンス様・・・。」
何か何処かで聞いたセリフだ。
何処だったろうか?
「ちなみにエカテリーナ様は、アウエリアのアーマード領行きは、納得されているのかしら?」
「いえ、まったく・・・。」
叔母様が困ったように返事をした。
「アウエリアのアーマード領行きは必要なのかしら?」
「はい。」
「そうなの?」
「王都に来て1週間、既に私に探りを入れに来た方もチラホラ居られます。」
「エカテリーナ様の派閥の方かしら?」
「いえ、義姉の派閥の方は、義姉がアウエリアを溺愛しているのは周知されていますので、その話題を出す方は居ません。」
「という事は、中立派かしら?まさか私の派閥の人間って事はないわよね?」
「申し訳ありません。誰かという事は、ご容赦ください。」
王妃様派閥の人も動いてるんだ。
ふむふむ。
「物は、ドワーフ国にあるというのに、今更、アウエリアがその場にいたという事が重要かしら?」
「物が物ですし、何とか関わりたいと思う方が居られるようです。何せドワーフ国と伝手がある方は、殆ど居られませんので。」
「藁をも掴むって事かしら?」
「恐らく。」
藁をも掴む思いで、私に寄ってきて欲しくはない。
「今は、社交シーズンなので、情報を集めるに留まると思いますが・・・。」
「社交シーズンが終われば何かしら動きがあると?」
「義兄や主人は、そう考えています。」
「困ったものね。私やエカテリーナ様が怖くはないのかしら?」
「私が忘れていた位です。殆どの方は、王妃様との関係はご存じないかと。」
「私との関係を知らなくても、エカテリーナ様の事は?」
「義姉が溺愛しているなんて、派閥の人間しか知らないと思います。」
「じゃあいっそ、不届き者には動いてもらって、私とエカテリーナ様が一掃するのはどうかしら?後顧の憂いも無くなるわ。」
「王妃様の派閥の方も居られますし・・・。」
「アウエリアの為なら、構わないわ。」
「「・・・。」」
私と叔母様は絶句した。
恐ろしい、恐ろしい話をしている・・・。
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