第54話
「す、素晴らしい・・・。」
「「えっ・・・。」」
私と王妃様が引いた。
引くわ~・・・。
だって、いい年した大人が感動して号泣してる。
「確かに素晴らしいとは思うけど、泣くような事かしら?」
うんうん。
私は王妃様の言葉に同意した。
「そうですか、王妃様には、このそろばんという物の価値が、まだ判らないようですね。」
「価値?誰でも作れそうだけど?」
「アウエリア様は、これを使い切っておいでですか?」
「まあ、それなりに。」
「では、こちらに過去の予算の数字があります。足して貰っても宜しいですか?」
「ええ、出来れば読んで貰えば助かります。」
「わかりました。」
そうして、財務大臣が3桁の数字を12ほど読み上げる。
おそらく千ゴールド単位なのだろう。
私が即、答えを読み上げると。
「素晴らしい。これが算盤です。」
再び財務大臣が号泣した。
「あっているの?」
王妃様がそういうと、財務大臣が紙を差し出した。
あらかじめ、計算された物が書かれているのだろう。
「こんなに早く計算できるのか・・・。」
陛下が呟き。
その隣で、お父様が頭を抱えていた。
「大臣が言う凄さは判ったわ。でも物自体は、誰でも作れるのじゃなくて?」
「そうですな。誰でも作れるでしょう。しかし0から作り出す事は、容易ではありますまい。」
「それはそうね。どうしてアウエリアは、これを作ったの?あなた算術は得意なはずでしょ?」
なんで私が算術を得意なのを知ってるんだろう?
お父様の方を見ると目を逸らされた。
なるほど、毎度、報告がいっている訳だ。
「妹の為です!」
私はキッパリと答えた。
「妹?」
「現在、当家にはアーマード家の長女が滞在しておりますので。」
お父様が補足した。
「ああ、ユリアナさんの娘ね。いくつなの?」
「6歳です。めちゃくちゃ可愛いです。」
私が答える。
「まあ、アウエリアも妹を可愛がる年頃なのね。」
そう言って、私の頭を撫でる。
そういえば、王妃様も私の生母を妹のように可愛がっていたと聞く。
その忘れ形見である私も可愛がってくれているのだが。
私が王妃様の立場ならどうしただろう?
アリスの忘れ形見が、家が取り潰しになったとしたら、何をおいても私は引き取ると思う。
例え王家を捨てたとしても。
まあ、そんな事を思えるのは、私が王家という立場を知らないからなのだろうが。
うーむ。
「私がコンスタンスを妹の様に思っていた事とアウエリアの思いは違うと言いたい顔ね。」
「えっ?」
私は、何も言っていない。
えっ、何、超怖いんですけどっ!
「昔はね、コンスタンスは何でも私に相談してくれたのよ。」
なぜ、私の生母の話に?
「でもね、私が反対や忠告ばかりするものだから、私に何も言わなくなったのよ。酷いと思わない?」
いや、反対ばかりされたら、言いたくなくなるわけで。
「だからね、ずっとコンスタンスを見ていたの。そうしたら、顔色を見れば何を考えているか、判るようになったのよ。」
「他人の考えが判るようになったと?」
「いえ、コンスタンスだけよ。他の人は判らないわ。」
「えっ?じゃあ何で私の考えが?」
「やっぱり親子なのよねぇ。アウエリアの考えは手に取るように判るわ。」
「・・・。」
ずっと私の頭を優しく撫でる王妃様。
むむむ、王妃様に会うのは最小限にせねば。
何を考えてるか読まれたら、たまったものじゃない。
「それは、駄目よ。」
「・・・。」
・
・・
・・・
「アウエリア様。」
無心状態の私を救ってくれたのは、財務大臣だった。
「はい。」
「今後、この算盤は、国が管理するということでしょうか?」
「はい、お願いします。」
「陛下は、如何お考えでしょうか?」
「この算盤の有益性は判った。誰でも作れるのは判るが、使い方があってこそだ。国でしっかり管理しよう。」
「ありがとうございます。これで予算時期の人手不足が解消されます。」
財務大臣が深々と礼をした。
「アウエリア様、当家は社交界では中立であります。」
「は、はあ。」
何で急に社交界の話?
「今後、当家はアウエリア様の派閥に入りたいと思います。」
「まあ、それはエーヴァント家がエカテリーナ様の派閥へ入るという事かしら?」
王妃様が聞いた。
「いえ、あくまでもアウエリア様の派閥です。」
「はい?そもそも私は、社交界には出ませんけど。」
「そうね。どうしてそのような約束になったのかしら?」
王妃様が、お父様に問い詰める。
「本人の希望ですので・・・。」
「いずれにしても妻と娘には、派閥を聞かれた場合は、アウエリア様の派閥と答える様に言い含めます。」
「まあ、アウエリアの派閥があったら、私も入りたいところだわ。」
そんな派閥を作った日には、大勢力になってしまう。絶対に作らない。
「そうは言っても、時が来れば変わるかもしれないわよ?」
ちょっ、やめて、私の考えと会話しないで・・・。
めっちゃ、見透かされてるよ。
こうして、何か知らんけど、社交界に関係なく、私の派閥が出来てしまった・・・。
王宮から戻ると、アリス、ビル、執事長の3人が、算盤の練習をしていた。
「さすが、アリスお嬢様。もう使いこなせておりますね。」
「えへへへ。」
執事長の言葉にアリスが照れる。
「僕は、まだアリスのように使えないや。」
「ビル様は、筆算を学んでいる途中。戸惑うのは致し方ないかと。貴族院へ行かれた場合は、算盤はありませんし、筆算も大事ですよ。」
「うん、わかった。両方頑張るよ。」
さすが執事長だ。
私が口に出すことは一つもない。
「お姉さま、お帰りなさい。」
「ただいま、アリス。」
「王宮はどうでした?」
「まあ、何とかなったわ。」
「さすが、お姉さまです。」
さすおね、頂きましたっ!
「そうだアリス。明日は、王宮の展示室に行くことになったからね。」
「展示室ですか?」
「ええ、アクセサリーのお絵描きをしましょう。」
「わあ。」
「お嬢様がお使いにならなかった、お絵描き道具がありますので、それを準備しておきましょう。」
さすが、執事長。
何も言わずにこれだ。
ちなみに私が使わなかったのは、子供用だからだ。
事前に用意されていたんだけど、コットンに無理を言って普通に大人用の物に変えさせた。
夕飯時、私はお母様に明日の予定を報告した。
「明日は、アリスと一緒に王宮の展示室へ行きます。」
「今日も王宮で、明日もなの?」
「今日は、算盤の説明に行っただけです。」
「ユリアナ、明日のお茶会は参加しなくて、構わないわ。」
「えっ、本当?助かるわ。こうもお茶会続きだと気疲れしていた所なの。」
「その代わり、アウエリアたちと一緒に王宮へ行ってくれる?」
「王宮の展示室へ?まあ別に構わないけど?」
「アウエリアにちょっかいをかけてくる親族が居るのよ。」
「そうなの?」
「ええ。申し訳ないけど。」
「わかったわ。追い払えばいいのね。」
叔母様、そんな約束して大丈夫なのか?
「ええ、宜しくお願いね。」
翌日、再び王宮へ。
今日は、お父様とは別に、時間をずらして王宮へ向かう。
貴族用の馬車には、私、アリス、叔母様が乗車し、お付きの馬車には、ダリアが乗る。
今日は、他家でお母様派閥のお茶会があり、リリアーヌはそちらに同行する。
「それにしても、未だにアウエリアにちょっかいをかける親族が居るのね。」
「はあ・・・。」
曖昧にしか返事が出来ない私。
「やっぱり、テセウスの涙が関係するのかしら?」
「何ですかそれ?」
「あんたが見つけたんでしょ?」
「何を?」
「宝石よ、宝石。」
「ああ、アレか、そんな名前でしたっけ?」
「まったく本人が一番気にしていないってどうなの?」
「過去の事ですから、おほほほほ。」
「義姉さん派閥の人は、遠慮してるようだけど、結構、噂になってるわよ。」
「へえ・・・。」
「まあ社交界が終われば、暫くうちで、ゆっくりしてれば、噂も収まるでしょう。」
「お姉さま、うちに来たら、私がお世話しますね。」
「宜しくね。」
かわえええ。
「お母様の説得は、叔母様、宜しくお願いします。」
「・・・。」
叔母様から返事は無かった。
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