第53話

ホルモン焼きを食べ終えると、私は、もう一度、屋台の方へ行った。


「ねえ、お肉屋さんなんだよね?」


「ああ、そうだよ?」


「このホルモン自体は売ってもらえるの?」


「おっ、嬉しいねえ。」


「量は、どの程度あるの?」


「100人前は、あるかなあ。」


「ふむ。全部買ったら迷惑かしら?」


「いや、全然、迷惑ではないけど。100人前だと結構な額になるし、下茹でしてあると言っても、2、3日しか保たないよ。」


「なるほど。でも賄いにまで、回したら1回で無くなるわよね?」


私はリリアーヌに聞いた。


「はい、一食分というか、おかずのちょっとした一品で、一瞬で無くなります。」


「そう。じゃあ、おじさん、全部頂戴。」


「店の方に来てもらうようになるが?」


「リリアーヌお願い。」


「では、屋敷の方に持ってきて貰えますか?支払いは、その時に。あと注意事項があれば、料理人に申し付け下さい。」


「見た感じ、お嬢様とは思ったが、何処の商家だい?」


「ピザート家です。ホルモンは、そちらにお持ちください。屋敷の方へは伝えておきますので。」


「えっ。」


リリアーヌが、屋台のおっさんに説明すると、おっさんは固まった。


「きっ、貴族様でしたか・・・。も、申し訳ありません。」


「貴族がこのように出歩くことは、ありませんので、気にしない様に。」


このようにとは、何だ・・・。

まるで、私が普通とは違うみたいな言い方じゃないか。


その後、リリアーヌは兵士の一人に言伝をした。


むっ、護衛が9人になってしまった。

私は、より一層、周囲の警戒に注力した。


結局、何事もなかったのだけども。


屋敷に戻ると、既にお母様たちは、屋敷に居た。

言うまでもなく、正門では、クロヒメからの盛大な歓迎を受けた訳だが、それは、毎回の事だからいいや。


「お母さま、これ、お土産です。」

アリスが可愛らしく、そう言って、叔母さまに飴細工を渡していた。


「ありがとう。これは何かしら?」


「飴です。」


「飴?飴なのこれ?」


「はい。」


「はい、お母様も、どうぞ。」


「ありがとう、アウエリア。」


私も、一応渡しておいた。


「本当、食べるのが勿体ないわ。ユリアナも、そう思わない?」


「こんな凄い物が何処で?」


「普段は、屋台で売っているそうよ。」


「えっ?これが屋台で・・・。」


「凄い人気らしいわよ。」


「すっごい、行列が出来てました。」


アリスが、叔母様にそう言った。

「えっ、並んだの?」


「ううん。屋台の人が、お姉さまに持ってきてくれたの。」


「へえ。」


「人気屋台が無くなるのは、気が引けるのだけども、仕方ないわね。」


「なるほど、これ程の腕がある者が、カフェに。」


叔母さまはマジマジと飴細工を見ていた。


その晩、夕食の一品にホルモンがあった。


「これは何かしら?」


お母様が聞いた。


「ホルモンだよ。内臓肉で、平民街で食されている物だね。」


お父様が説明した。


「これはどうしたのかしら?」


お母様が執事長のモーゼスに聞いた。


「はい、お嬢様が街で買われた物になります。」


「そう。」


お母様が一口ぱくり。


私も一口食べた。


うまいっ!

上品だ。

でも、ちゃんとホルモンしてる。


「美味しいわね。」


「これは、これでアリだな。」


お父様が、そのように言われた。


「これは、これというのは、どういう意味かしら?」


ふっ、お父様、語るに落ちましたね。

それでは、まるで、屋台のホルモンを食べた事があるみたいじゃないですか。


「いや、その・・・前に私たちが平民街に行っていたことは言っただろう?王都饅頭もそうだし、ホルモン焼きだって食べた事はある。」


「たちという事は?」


お母様が、そう言って叔父様の方を見た。


「ははは・・・。兄上、こっちまで巻き込まないで貰いたい。」


「お父様も屋台で食べたの?」


アリスが叔父様に聞いた。


「ああ、そうだね。貴族学院に通っていた時にね。」


「私も食べました。」


「まだ6歳なのに、アリスは、凄いなあ。」


「凄いなじゃないでしょ。アウエリア、アリスに何を教えてるのっ。」


「まあまあ、叔母様。父と娘で同じ体験ができた事だし、いいじゃあ、ありませんか。」


私がそういうと、叔母様はため息を一つ吐いて、押し黙った。


「奥様、料理長が定期購入しても宜しいでしょうかと言ってきておりますが?」


モーゼスがお母様に聞いた。


「ええ、構わないわ。」


おっ、次からもホルモンが食べれるのか、しめしめ。


夕食後、私は、厨房へと足を向けた。


「お嬢様、如何いたしました?」


料理長が、私の方へと寄ってきた。


「ホルモンの件なのだけど。」


「はい。」


「焼き料理しかないの?」


「他にも、ありますが、どのような料理をご所望でしょうか?」


「煮込み料理は?」


「煮込みですか?もしかして、もつ煮込みの事でしょうか?」


おっ、あるんや、もつ煮込み料理。


「それよっ!次回はそれがいいわ。」


「いや、しかし・・・。」


「何?」


「とても貴族が食べるような料理では・・・。」


「私が頼んだと言っておくから、不評だったら、私の責任でいいわ。」


「そこまで言われるのでしたら。」


おっし、もつ煮込み料理が食べれるぜいっ!


「お嬢様、もつ煮込み料理とは安宿の酒のアテですよ?」


リリアーヌがモノ申してきた。


「食べた事あるの?」


「まさか。」


「苦情は、食べた後にしてちょうだい。」


「わかりました。」


部屋に戻ると、アリスと叔母様が、花の飴を食べていた。


「アウエリア、邪魔してるわよ。」


「どうぞ、どうぞ。」


「それにしても、あんたの部屋、広いにも程があるわ。」


「ああ、やっぱり広いんですね。」


「広すぎよ。」


「お姉さまも、どうぞ。」


そう言ってアリスが花の一片を私に差し出した。


「ありがとう。」


私は、そうして、飴を食べた。


むっ、花の香りがする。


花の香りが口いっぱいに広がった。


「葉っぱの部分はスッキリした味わいだわ。」


叔母様が、そう言った。


まさか色だけでなく香りまで変えているとは。

やるなっ!飴屋め。


「叔母様、よかったらパターゴルフでもどうですか?」


「私には難しいわ。」


「アリスに教えてもらうといいですよ。」


「お母さま、一緒にやりましょう。」


そうして、母娘で楽しむパターゴルフを私は、椅子に座ったまま、見つめていた。


ほのぼのしてて、ええわ~。


自分は何もせず、ぼーっと家族を眺める祖父母の気持ちが何となくわかった。





翌日、私はお父様に連れられ王宮へと向かった。

王宮へ入ると、王妃様が出迎えてくれた。


「こんなに頻繁にアウエリアに会えて嬉しいわ。」


ニコニコ顔で手を差し出してきたので、手を繋ぐ。

そのまま、陛下の執務室へと向かう。


執務室の中には、陛下のほかにもう一人、おっさんが居た。

某料理漫画の副部長のような、ヒョロッとしたおっさんだが、顔はイケメンだ。

王の執務室に居るくらいだから、貴族なのだろう。貴族は美男美女しかいない。

下卑た笑いが似合う悪人顔は、存在しない。


「財務を担当しております、マイク・エーヴェントと申します。」


そう言って自己紹介してくれた。


ミドルネームが無いから、王宮勤めの人だろう。


「財務大臣で、子爵であるのよ。」


王妃様が説明してくれた。


てか財務の担当って、財務のトップやん・・・。


「では、アウエリアよ。こちらの物を説明してくれるか?」


「はい。」


陛下に言われたので、即、返事をした。


そろばんは、陛下、王妃様、財務大臣の3人の手にある。

私の物は無いので、王妃様のそろばんを触りながら、説明する。


まずは1から10までの説明をする。

その後は、1桁の足し算で、2桁、3桁の足し算も説明する。

筆算とそろばんの足し算は、順番が違う。

一の位から足していくのが筆算で、そろばんは上の位から足していく。

ある程度、筆算を学んでいる人間は、特に混乱をきたさないが、義弟のビルのように、学んでいる途中だと、混乱をきたす。

筆算を学んでいないアリスは、すんなりとそろばんに慣れたが、ビルは苦戦している感じだ。

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