第52話
私は、考えた。
妹の為なら、考え無しに突っ走りたいところだが。
その前に一つ聞いておくか。
「ちなみに誰用なの?」
「お母さまにプレゼントしてあげたいの。」
やはり、そうか。
もし、自分で欲しいなら、作りたいとは言わず、作って欲しいと言うだろう。
「リリアーヌ。」
「はい。」
「もし私が、手伝った場合。どうなるかしら?」
「奥様が烈火の如くお怒りになるかと。」
だよねぇ・・・。
だからと言って、アリスが作れるかといったら無理だろう。
「アリスがデザインして、それをエンリに作って貰ったらどうかしら?」
「えっ、私が作るんですか?」
アリスより先にエンリからの返答があった。
「あんた、職人でしょ?何言ってるの?」
「外注に出すのは、駄目なんでしょうか?」
「なに、ドワーフに頼ろうとしてんの。自分で作りなさいっ!」
「そんなあ・・・。」
「お姉さま、お姉さま。」
「なあに?」
「私、デザインできません・・・。」
「大丈夫よ、私と一緒に頑張りましょう。」
「お姉さまが教えてくれるんですか?」
「ええ。」
「じゃあ、私がんばるっ!」
かわえええ。
「お嬢様。」
「何よ?」
私とアリスの癒しタイムを邪魔するんじゃないよ、リリアーヌ。
「その場合でも、奥様は、いい気がしないのでは?」
「だ、大丈夫よ。私の分が終われば、お母様のを着手するんだから。」
た、多分、大丈夫な、はず・・・。
私たちは、レントン商会を後にして、街の中心部へと向かった。
去り際にシェリルが。
「暫くすればアーマード商会の名が、王都中に鳴り響くでしょう。首を洗って待ってなさい。」
とエンリに捨て台詞を吐いていた。
「そういえば、アーマード商会の土地って何処にあるの?」
私がシェリルに聞いた。
「ここから直ぐなので、行ってみましょう。」
シェリルの案内の元、その場所へ向かう。
途中にある屋台をアリスが興味津々で見渡していた。
「後で何か買いましょう。」
「えっ、いいんですか?」
「全然大丈夫よ。どれがいいか考えておいてね。」
「うーん・・・。」
悩みながらも、あちこちを見ている。
「ここがカフェ予定地になります。」
「おおー、いい所じゃない。何で今まで使ってなかったの?」
「物を販売するにしても、採算が取れるような物がありませんでしたので。」
貴族はお抱えの商会から、物を買うだろうし、平民相手だと高価なものは売れない。
王都饅頭のような家族経営でさえ、厳しいのだ、商会が店を出すとしたら、余程の事がないと二の足を踏むか。
「私のように、こうやって街を歩くなら、カフェは、ありがたいけど・・・。」
「お嬢様のように出歩く貴族は、おりません。」
リリアーヌがキッパリと言った。
ぬぬぬ、正論を・・・。
「今更だけど、採算取れるの?」
「エカテリーナ様のお墨付きがあれば、赤字になる事はありません。」
自信をもって、シェリルが答えた。
「そういうもの?」
私は、リリアーヌに聞いた。
「販売もするとの事なので、派閥を動かせば余裕かと。」
なるほど。
一通り見終わると、再び屋台の方へ向かう。
「アリス、何か決まった?」
「お姉さま、あの行列は何でしょう?」
「あれは、飴屋よ。」
儲かってんなあ・・・。
並んでる人は、むしろ大人が多い。
ケースみたいな物を持ってる人もいる。
お土産にするのだろうか?
そうやって眺めてみていると、一人の女性が、護衛に話しかけていた。
「お嬢様、こちらは、ダンウォーカーの奥方だそうです。」
誰やねんっ!それっ!
「お嬢様、ダンウォーカーは、飴屋の名前です。」
そっとリリアーヌが教えてくれた。
「いつも主人がお世話になっております。専属で雇って頂けるとの事で、ありがとうございます。」
飴屋の奥さんが、そう言って深々と頭をさげた。
「どうぞ、こちらをお納めください。」
そう言って、ケース入りの花細工の飴2つが差し出された。
「いいの?」
「はい、先ほど、お嬢様をお見掛けし、主人が作った物です。」
「あんなに行列が出来てるのに、何か悪いわね。」
「全て、お嬢様のお陰ですので。」
なんか、すっごく感謝された。
飴屋の奥さんは、飴細工2つを私に手渡すと何度も頭をさげて、屋台へと戻っていった。
「現在は、あの奥方も、接客業務の為の教育を受けております。」
シェリルがしれっと、とんでもない事を言いおった。
「あの人もカフェで働くって事?」
「はい。」
まさか、思い付きで言ったカフェが雇用を創生していようとは。
「お姉さま、お姉さま。この綺麗なお花は、お部屋に飾るのですか?」
「これは、飴よ。」
「えっ?これが飴?」
「屋敷に帰ってから食べましょうね。」
「食べちゃうんですか?」
「そうよ。」
「なんだか勿体ないです・・・。」
「叔母様へのお土産にしてもいいかもね。」
「それがいいです。」
アリスはにっこりとほほ笑んだ。
「さて、小腹も空いてきたし何か食べましょう。」
「何がいいかさっぱりわかりません。お姉さまが選んでください。」
「そうねえ・・・。」
たこ焼きは、前に食べたし。
屋台を一通り見渡すと、1店、美味しそうな匂いがする屋台があった。
傍に近づくと、ホルモン焼きの屋台だった。
めっちゃ、いい匂いだ。
正直、前世ではホルモンは好きではなかった。
が、社会人になって、一人焼肉に行きだしてから、好みが変わってしまった。
それは、運命の出会いだったかもしれない。
◇◇◇
「とろけるホルモン?」
「はい、お奨めですよ。」
「ホルモンって、噛み切れないから好きじゃないんだけど?」
「これは、脂肪部分は、蕩けますし、地の部分も噛み切れます。」
「えー、本当に?」
私は半信半疑、店員に言われるままに、とろけるホルモンを注文した。
地の部分を下にして、脂肪部分が膨らむまで焼き、最後に脂肪部分を軽くあぶって。
パクリ。
うっ。
・
・
・
うっまーーーーっ!
何これっ!
脂肪部分は蕩けるし、地の部分は簡単に噛み切れる。
それは、まさに運命の出会いだった。
っていうか、一人焼肉ってなんだ。
えっ?
私って、前世は、ぼっちか?
屋台のホルモンの匂いで、前世の記憶が呼び戻された。
「お嬢さん、よかったらどうだ?」
「ホルモンって噛み切れないから好きじゃないんだけど?」
「まあ子供は嫌うよな。でもうちのは十分煮込んであるから、柔らかくて噛み切れるぞ。」
「煮込んだ物を焼いてるの?」
「ああ、そうだ。一つ食べてみるかい?」
屋台のおっさんが、そう言って、一つ短い串にさして、差し出した。
リリアーヌがそれを受け取り、パクリと食べた。
屋台のおっさんが驚いたように、固まった。
私は、想定内だ。
どうせ、そうするだろうと思ってたし。
「どう?」
「大変おいしゅうございます。」
「噛み切れる?」
「私は噛み切れますが、お嬢様は、どうでしょう?」
「おじさん、もう一つ頂戴。」
「あ、ああ。」
今度もリリアーヌが受け取り、私に渡してくれた。
パクリ
もぐもぐもぐ。
うん、柔らかいし、噛み切れる。
「これ、相当、長時間煮込んでるんじゃないの?」
「ああ、うちは肉屋だからな。大量に長時間、煮込んでるよ。」
「肉屋が何で、屋台してるの?」
「ホルモンが余ってるからな。」
「ああ、なるほどね。リリアーヌ、私とアリス用に一皿と兵士たち用にもね。」
「了解しました。」
ここら辺の屋台の皿は、葉っぱだ。
頑丈で、蓮の葉の様に、水をはじく。
屋台から少し離れた場所に腰をかけ、皿を膝の上に乗せた。
「はい、アリス。食べてみて。」
「はい。」
アリスがホルモンを口に入れてモグモグする。
「お姉さま、美味しいです。」
「ちゃんと噛み切れた?」
「はい。」
私の膝の上に乗せた皿からリリアーヌが、遠慮なくホルモン焼きを奪っていく。
「ちょっと食べすぎよ?私とアリスのが無くなるじゃない。」
「これは、脂身ですから、食べすぎは体に良くないです。」
確かに子供にとっては、体に良くはないような気がするが。
兵士たちは、交代でホルモン焼きを食べていた。
もちろん、立ちながらだけど。
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