第48話
「今日はね、お姉さまと乗馬をしたの。」
夕食時、アリスが今日の出来事を両親に報告した。
「まだ一人で乗るのは早いんじゃない?」
「リリアーヌと一緒に乗ったの。」
「へえ、リリアーヌは、乗馬できたのね?」
叔母様が私の背後に控えているリリアーヌに聞いた。
「はい、側仕えの嗜みですから。」
リリアーヌが、そう答えると、お母様の後ろに控えているエルミナが、強い視線をリリアーヌに飛ばした。
なるほど、エルミナは乗れないのね。
「私もクロヒメみたいな馬が欲しい。」
「何っ!クロヒメに乗ったのか?」
叔父様が慌てて声をあげた。
「うん。とっても大人しい馬よ、お父様。」
「・・・。」
「クロヒメって?」
「うちに居た黒い牝馬だよ。」
叔母様の問いに叔父様が答えた。
「あの暴れ馬の事?大人しいってどういう事?暴れ馬だから、ピザート家に預けたんでしょ?」
「今は、アウエリアになついているし、問題ないよ。アリスだって大人しいって言ってるし。」
「それなら、いいけど・・・。」
「ユリアナ、心配しなくても大丈夫よ。男性が近づかなければ問題ないから。」
お母様が説明してくれた。
「お母さま、私がクロヒメに紹介してあげる。」
アリスが叔母様に提案していた。
「大丈夫かしら?」
「ブラッシングもしてあげたんだから。」
アリスが自慢げに話す。
かわえええ。
翌日、叔母様を連れて、クロヒメの元へ。
と言っても、屋敷を出た瞬間に纏わりついてきた。
「放し飼いなの?」
叔母様が聞いてきた。
「勝手に抜け出してるだけです。」
とりあえず、私が答えておいた。
「クロヒメ、クロヒメ。私のお母様よ。」
アリスが叔母様の手を引いてクロヒメに紹介する。
「なんか警戒されてる気がするわ。」
「最初は、そんな感じですよ。」
ゆっくりと、クロヒメの頬を触る叔母様。
「本当に大人しいわ。なんか毛艶がよくない?」
「そりゃあ、頻繁にブラッシングしてますから。」
「アリスお嬢様、こちらを。」
リリアーヌが、そう言って、アリスの手のひらに角砂糖を乗せた。
「角砂糖?」
「クロヒメにあげてください。」
「クロヒメ、これ食べる?」
「ふふん♪」
クロヒメが、アリスの手のひらの上の角砂糖をついばむ。
軽く首を縦に振り、うれしい仕草をする。
「うわあ、美味しいそう。」
「馬が疲れた時なんかに、あげる奴ね。」
叔母様が言った。
「はい、クロヒメというか、馬も甘い物が好きですから。」
「私と一緒だあ。」
そう言って、アリスが、クロヒメの頬を撫でた。
そのまま私たちは、使用人の休憩スペースに向かった。そこには、おやつを用意して、ダリアが待っていた。
「ここって、使用人用ではないの?」
「そうですよ?」
「そうですよって・・・。」
「アウエリアはいつも、ここでお茶をしているのよ。」
そう言って、お母様が現れた。
「義姉さんまで・・・。」
「本日は、ソルトクッキーのクリーム添えを用意致しました。」
ダリアが言った。
しょっぱいのと甘いのの最強タッグ。
絶対美味しいやつやんっ!
ちなみに前世の私は、お米のスナックにバニラアイスを乗せるのが大好物だった。
ああ、アイス食べたいな・・・。
アニメや小説のように、簡単に再現できればいいのに。
所詮、私はコンビニ女。
そんなもん再現できませんがな・・・。
一口サイズのクッキーにクリームが載せてある。
各皿には2枚ずつ置かれているが、私の分だけ3枚載っている。
ひょいっ。
私の皿から、1枚、リリアーヌがとっていく。
パクリと食べて、一言。
「大変、美味しゅうございました。」
あんたそれ、もう毒見じゃなくて味見じゃんっ!
リリアーヌの味見が終わると、一斉に食べだす。
一口食べて、アリスと叔母さまが固まる。
どうだ、初めてのクリームは。
しかも最強コンボ。
暫くは声をあげれないだろう。
その代わり、お母様が感想を言った。
「これは素晴らしいわ。お茶会のメニューにして頂戴。」
「畏まりました。」
ダリアが恭しく礼をする。
「ね、義姉さん・・・。」
ようやく叔母さまが復活した。
「こんな美味しい物、食べた事がないわ。」
「そう?お茶会で話題になればいいのだけど?」
「いや、絶対なるでしょ?そもそも、こんな美味しい物が作れるのに、お菓子の品評会なんて必要?」
「それは必要よ。カフェの職人が必要になるでしょ?」
「そのカフェ自体、大丈夫なの?」
おっ、反対派がようやく。
叔母様、頑張れ。
私は、計画が中止になるよう祈りながら、叔母様を応援した。
「問題ないわ。最悪でも赤字になるような事には、させないから、安心していいわ。」
「ならいいけど。」
最悪でもって、派閥の人間を動員して、強引に黒字化にする気満々だ・・・。
まあ赤字にならないなら、もう私が気にしなくてもいいか。
うっかり提案なんて、しちゃったけど、今後は気を付けよう。
特にシェリルの前では自重しよう。
( ..)φメモメモ
私は、心の中のメモ帳に記入した。
この日は、ずっとアリスが上機嫌だった。
夕食後の私の部屋でも、クリームの事で、ずっとはしゃいでいた。
「お姉さま、お姉さま。あのクリームというのは、すっごい、美味しいです。」
「今はダリアが新メニューを考えているから、期待していいわよ。」
「うわあ。」
満面の笑顔をいただきましたっ!
しかし、アリスは、こんなに興奮してて、眠れるのだろうか?
二人でベッドに入るのだが、やはり興奮していて、寝れないようだ。
私の場合は、目さえ瞑ればすぐ寝れるのだが、それだとアリスが可哀そうだ。
さて、どうしよう?
「あら、二人ともまだ起きていたのね。」
そう言って、お母様が、いつもの如く、私の隣に入ってきた。
アリスとお母様に挟まれた状況だ。
「お、伯母さま?」
アリスが驚く。
そりゃあ、そうだ。
貴族であれば、母娘が一緒に寝るなんて事はないのだから。上位の貴族なら猶更だ。
「アリスは寝れないようね。何かお話をしてあげるわ。何がいい?」
「うわあ。伯母さまが話してくれるんですかあ。えっとー、えっとー・・・。」
うーん、うーんと考えているアリスも可愛ええ。
「じゃあ、姫騎士のお話がいいです。」
「わかったわ。」
姫騎士の話かあ。
この世界で小さい子、特に女の子に大人気のお話だが。
私は、あまり好きではない。
あの育児放棄されたフォールド家でさえ、絵本が置かれていた。
なので、目を通したことはあるのだが。
何というか。
物凄く荒唐無稽なのだ。
例えば、今、お母様が話されている話は、こうだ。
ある所に、美しい姫君が居ました。
たいそう美しく、世界中で評判でした。
その為、ある日、怪物に攫われてしまいました。
姫が攫われてしまい、国中は大騒ぎ。
そんな中、一人の勇者が立ち上がります。
「俺が姫を助けに行きます。」
勇者は、野を超え、山を越え。
道中の怪物を倒し、ついに姫を攫った怪物の元へ辿り着きます。
戦いは、一昼夜続き。
均衡した戦いも、勇者の力が尽きはじめて劣勢になります。
このままだと、負けてしまう。
勇者の心が折れかけた、その時。
「姫騎士キーーーック!」
怪物の背後から現れた姫のキックが炸裂し、怪物は倒れました。
めでたし、めでたし。
いやいやいや。
そもそもそんなに強いなら、攫われるなよ。
しかも勇者が、結局モブだ。
姫騎士シリーズの殆どに言える事だが、物語で一番出演している勇者だったり、兵士だったり、騎士だったりが、最終的にはモブなのだ。
全部、姫騎士が美味しい所を掻っ攫っていくのだ。
これを荒唐無稽と言わず何と言う?
そんな理不尽な物語を聞きながら、私は、さくっと眠りについた。
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