第49話
「昨日は、伯母さまに姫騎士のお話をしてもらったの。」
朝食時、アリスが嬉しそうに叔母さまに、報告する。
「義姉さん、わざわざ話をしに?」
「お姉さまと伯母さまと3人で寝たの。」
「ちょっ、義姉さん、何してるのっ!」
叔母様が強く責める。
「あら?当家では、母娘が一緒に寝るのは、日常茶飯事よ。ねえ、アウエリア。」
「ええ、まあ。」
「伯母さまに、お花摘みにも付き添ってもらったの。」
なんと、私が寝てる間に。
「義姉さん、アリスは渡さないわ。」
叔母様が、お母様を最大限、警戒する。
無理もない。
「アリスは慣れない環境に居るんだし、それくらいいいでしょ?」
「夜番をつけていればいいでしょ?」
「つけてるわよ?昨晩は、私が気が付いたから、付き添っただけよ。そんなに目くじらを立てないで。」
「アウエリアは、何処で寝ていたの?」
うおっ、こっちに飛び火してきた。
「私は真ん中で。」
「あんたは、気が付かなかったの?」
「はい、まったく。」
「お姉さまは、私が起きても、全然気が付かないの。」
「・・・。」
叔母様が絶句する。
仕方ない、私の眠りは深いのだ。
「でもね、紅茶の香りがすると、すくっと起きるのよ。」
パブロフの犬のように、癖づいてしまったから、仕方がない。うん。
「近日中にレントン商会へ赴こうと思うんだけど、アリスはどうする?」
「レントン商会?何処にあるんですか?」
「王都の平民街よ。」
「うわあ、王都を見てみたいです。」
さて、どうしたものか。
私だけなら、あれだが、アリスまで一緒となると。
普通なら叔父様が反対しそうだが、言える立場じゃないらしいので、何も言わない。
仕方がない私が提案するか。
「お父様、護衛に兵をお借りしても?」
「今までも護衛はついていたと思うけど?」
「足りませんよ。」
「護衛対象が、増えるから、まあそうだね。倍に増やすかい?」
「100名ほど、お願いします。」
「は?」
「アリスは可愛いのです。100名は、必要です。」
「せ、戦争するわけでもないだろうに。」
「お父様、戦争なら100名は少なすぎます。」
「・・・。」
「いいでしょう。」
お母様から許可を頂いた。
「その代わり、今後、街へ行く場合は、必ず100名の護衛をつけるように。」
「アリスがいる場合ですよね?」
「いえ、アウエリア一人でもです。」
いやいやいや、大名行列じゃないんだから、100名の兵士なんて連れたくはない。
「アウエリア、無難に10名の護衛でどうだい?」
「し、仕方ありません。」
お父様の妥協案に、私は頷いた。
午前の授業は算術で、私には不要だが、アリスに付き添うことにした。
「お姉さま、私、算術が苦手なんです。」
シュンっとなるアリス。
なんだと、ぬぬぬ。
この世界から算術を無くしてやりたい。
しかし、私にそんな力なんてあろうはずもない。
一桁の足し算をアリスに優しく教え、授業を終える。
屋敷でうろついていたシェリルをとっ捕まえて、新たな図面を渡す。
「これは・・・。」
「お金にならない。アリスの為よ。」
シェリルが全部言い終わる前に私が言葉を遮った。
「1枚目のは、大至急ね。簡単に出来るから、直ぐ出来るでしょ。2枚目の方は、後でいいわ。」
「了解しました。」
午後のティータイムが終わった頃、シェリルが戻ってきた。
はやいなおい・・・。
「とりあえず、2つほど出来ました。何ですかこれ?おもちゃですか?」
シェリルが首を傾げながら、おもちゃの算盤を2つ渡してきた。
この世界に算盤なんて物はない。
私が作ることによって、世界にどんな影響があるか。
知ったこっちゃない、私をこの世界に転生させた方が悪い。うん。
自重はしようと思った。
がっ!
妹の為なら、何だってする。
当然だ。
ということで、5列のおもちゃの算盤がこの世界で作られてしまった訳だ。
木製の算盤なんで、作るのは簡単だ。
「どうやって遊ぶんですかこれ?」
シェリルが興味津々だ。
私は1つをアリスに渡した。
「お姉さま、どうやって遊ぶんですか?」
応接間の長椅子に座り、アリスがワクテカしている。
うん、かわえええ。
「いいアリス。まずこう立てて。」
私は算盤を立てて、珠が全て下に来るようにする。
「こうですか?」
「うん、そうよ。」
「で次は。」
シャーっ
私は5の珠をシャーって指でやって上にあげる。
このシャーってやるのが好きなんだけど、5列しかないので、物足りない。
「この状態が0ね。」
「0ですか?」
シェリルが覗き込むように見ている。
私の背後からは、リリアーヌが覗きこんでいる。
皆、興味津々だ。
「でね、これが1よ。」
私は右端の珠を一つ上に上げる。
「いちっ。」
一つ一つの動作が、かわええ。
これが妹マジックかっ!
「でね、これが2よ。」
「にっ。」
「じゃあ、3は?」
「えっとぉ~。こう?」
「正解。」
「お姉さま、お姉さま。じゃあ、これが4?」
「アリスは賢いわ。」
「えへへへへ。でもね、お姉さま。5がないの?」
「5は、こうよ。」
「こう?」
「そう。それが5よ。じゃあ6は?」
「うーん、うーん。」
「これが6ということですか?」
シェリルが勝手にアリスの算盤の1を上にあげた。
何やってんだこいつ・・・。
「うー、私がやろうと思ってたのにぃ。」
膨れたアリスもかわええ。
シェリル、グッジョブ。
その後、9までいった所で、再びアリスの手が止まる。
私は、シェリルに余計なことをしない様に睨む。
「さあ、アリス。10は、どうだと思う?」
「多分・・・、こう?」
首を傾げながら見事正解に辿りつく。
「正解よ。」
私はアリスの頭を撫でた。
「えへへへ。」
「これは数を数えるための道具ですね。」
シェリルが言う。
「違うわよ。」
「「えっ?」」
シェリルと後ろからの声が重なる。
どうやらリリアーヌも、シェリルと同じ考えだったらしい。
「アリス、5にしてもらっていい?」
「はい、お姉さま。」
「じゃあ、それに5を足してみて。」
「???」
アリスが首を傾げる。
「こうやって5の珠を上に戻して、10の位の1をあげるのよ。」
「ああぁ・・・という事は10ですね、お姉さま。」
「正解よ。じゃあ次は6足す7をやってみて。」
「はい。えっと、まず6を作ってぇ、7だから・・・。1の珠を2つ上げて、5の珠も上げてぇ~・・・13になった。」
「大正解よ、アリス。」
「やったぁ~。」
「お、お嬢様っ!売れるっ、これは売れます。」
そう言ってシェリルが私の肩を揺らす。
「ぐぉっ。」
頭がシェイキングされる。
「落ち着いてください。簡単な計算なんて、暗算できるじゃないですか?」
リリアーヌがそう言って、シェリルを止めてくれた。
「た、確かに・・・。」
「これはアリスの為に作ったのよ。どうしても売りたいなら、お父様に許可を求めなさい。」
まだ頭がグラグラするが、私はシェリルに強く言った。
「さ、宰相閣下の許可・・・。」
「お嬢様、そのように言わなくても、シェリルさんも作ったりはしないと思います。」
「じゃあ、リリアーヌ。数字を何個でもいいから、適当に続けて言って。」
「わかりました。一桁の数字ですか?」
「2桁でも3桁でも良いわ。」
「では、18、241、116、58。」
「433よ。」
「はい?」
「今言った数字を足した数よ。」
「お姉さま凄い、そろばんの使い方も早いっ!」
「う、うおおおっ!」
シェリルが興奮して、再び私の肩を掴もうとした。
「これ以上の無礼は、許しません。」
リリアーヌが、シェリルの両手首を掴み止めてくれた。
「どう?リリアーヌ。お父様の許可は必要でしょ?」
「はい。」
「べ、別段、宰相閣下の許可は必要ないと思いますが・・・。」
「そう思うんなら頑張ってプレゼンする事ね。」
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