第45話
私が部屋で、パターゴルフをしていると、シェリルが入ってきた。
てか、この人、うちで働いてるのか?
毎日居ない?
「ねえ、シェリル。毎日来てない?」
「はい、奥様と相談もありますし、今は領主様も滞在していますから。」
ふむ、理由は至極真っ当だ。
「で、私には何の用?」
私の事を金の生る木だと公言してるので、ある程度の警戒はする。
「先日、ご依頼いただいた物の試作品が出来ました。」
そう言って、シェリルが差し出したのは、木製の泡だて器だった。
「金属製は無理だった?」
「はい。」
泡立て部分は竹ひごのような物で作られていた。
まあ、仕方ない。
「リリアーヌ、厨房に行くから、ダリアを呼んできて。」
「畏まりました。」
そして、私は厨房に向かうのだが。
「何故にシェリルが、ついてくるの?」
「今から、それを使われるのですよね?」
「そうだけど。」
まあいいか。
厨房に着くと、既にダリアは、リリアーヌと共に待っていた。
「お呼びですか?お嬢様。」
「ええ、これを使ってクリームを作ってくれる?」
「何ですか、これ?」
「かき混ぜ棒の試作品よ。」
「これが?」
そう言って、試作品をマジマジと見ている。
「料理長、クリームの寝かせたものはある?」
「はい、こちらに。」
お茶会用メニュー考案の為、毎日、作られているのを私は知っていた。
「じゃあ、ダリア。試してみて。」
「判りました。」
ダリアが、氷水で冷やしているボールの中身を攪拌していく。
みるみるとクリームが出来上がってくる。
うんうん、大成功だ。
「ちょっ、ダリア。ストップ、ストップ。」
止まらないダリアを、強制的に止めた。
なんちゃってクリームは攪拌しすぎると、ボソボソになるのだ。
「すみません。我を失っていました。」
まあ、ギリ、クリームとして使えるレベルだから問題ないか。
「お嬢様、その道具は何でしょう?」
料理長が興味津々に聞いてきた。
「見た通りのかき混ぜ棒よ。」
「1つしかないのでしょうか?」
「試作品だからね。完成したら、いくつか厨房に置くようにするわ。」
「是非に、お願いします。」
社交シーズンが到来したら、クリームが、大量に必要になるのは必至。
そんな事になれば、料理長と副料理長の手首が壊れてしまう。
「シェリル。試作品を大至急用意して。」
「了解しました。いくつ必要でしょうか?」
「出来る限りよ。」
「わかりました。」
「申し訳ありません。ありがとうございます、お嬢様。」
料理長が深々と礼をした。
「お嬢様、これは食べ物ですか?」
シェリルが間抜けな質問をしてきた。
厨房で、食べ物以外が作られる訳ないだろうに・・・。
「ダリア、試食用に少し、よそってあげて。」
「畏まりました。」
ダリアが一口分を小皿に乗せて差し出した。
「これだけですか?」
少ないことに苦情を言うシェリル。
「太りますよ?」
「これだけでいいです。」
シェリルは、ダリアの忠告に素直に従った。
一口食べて固まるシェリル。
まあ、そうだろ、そうだろ。
復活すると・・・。
「お嬢様、これは売れます。お菓子の革命が起きます!」
目がお金に変わっていた。
「材料に、お金が掛かっておりますが?」
ダリアが冷静に突っ込む。
「確かに、この甘みは、庶民には無理でしょうが・・・、なら貴族社会にっ!」
「それはアーマード商会の領分ではないのでは?」
「・・・。」
リリアーヌの冷静な突っ込みに、シェリルは押し黙った。
貴族社会に広めるのは、お母様の領分だ。
広めるというよりも、ピザート家の権威を示すと言った方がいいのか?
まあ、私にお茶会は無関係だから、別にいいか。
「このクリームというのを作るために、この器具が必要なのですね。」
「無くても作れるけど、その場合は、料理長と副料理長の負担が大きすぎるのよ。」
「了解しました。直ぐに戻って、試作品の作成にとりかからせます。」
そう言って、出来る女風を気取って、シェリルは戻っていった。
「料理長、これは、預けておきますので、料理長と副料理長で管理してください。」
ダリアが、そう言って、かき混ぜ棒を料理長に渡した。
「かなり助かる。ありがとう。」
料理長は、ダリアに感謝していた。
「お嬢様、申し訳ありません。私の為に作って頂いたのに。」
「いいのよ、ダリア。まだ試作品だしね。正式に出来れば、ダリア用をプレゼントするわ。」
「ありがとうございます。」
「私も何か欲しいです。」
意味の分からない事をリリアーヌが言い出した。
「あんたも、かき混ぜ棒が欲しいの?」
「別の物をお願いします。」
「却下よ。」
「なっ・・・。」
「ブローチを貰っときながら、浅ましい。」
ダリアがリリアーヌに突っ込んだ。
「これは、お嬢様専属の証です。」
どや顔のリリアーヌ。
もう、ほっとこう。
社交シーズンがやってきた。
アーマード伯爵夫人が当家に、滞在する。
と言っても、宿泊するのは別の館だ。
ピザート家には、同派閥家の館がいくつもある。
ただ、アーマード家は、お父様の出身家であるので、食事の時は、私たちと一緒にとる。
「あなたがアウエリアね。ユリアナ・イデ・アーマードよ。宜しくね。」
挨拶からわかる通り、叔母さまは、サバサバ系女子だった。
「初めまして、アウエリア・ピザートです。」
「あなたが居て助かったわ。アリスを連れてこられないところだったわ。」
「はい?」
「ほら、アリス。ちゃんと挨拶しなさい。」
アリス?
叔母さまの後ろから可愛らしい少女が現れた。
ズッキューンっ!
私のハートに矢が突き刺さる。
何っ?えっ?
天使?天使が現れた。
見たところ、5、6歳というところだろうか、小さなお人形さんだ。
可愛い過ぎるっ!
「アリス・イデ・アーマードです。」
ぐはっ、鼻血出るわっ!
「ようやく、会えたわね、アリス。エカテリーナ・ピザートよ。宜しくね。」
「はい、伯母さま。」
「ユリアナは、意地悪よね。いつまで経っても連れて来ないんだから。」
「連れて来られる訳ないでしょっ。」
「まあ、酷い。そう思わない?アウエリア。」
「あの何で私が居て、良かったんですか?」
面倒を見ろと?見るよ。はい、喜んでっ!
「あなたが居れば、アリスを養女になんて話も無くなるでしょ?」
ああ、なるほど、なるほど。
ん?
養女?という事は・・・私の妹に?
「お母様、私、妹が欲しい。」
「まあ、それはいい案ね。」
「義姉さん、冗談でも、そんな事は言わないでっ!」
「あら、本気だけど?」
「余計、たちが悪いわっ!アウエリアも余計な事は言わないで。」
お、おうっ・・・、初対面で怒られました。
「私は、義姉さんと話があるから、アウエリアは、アリスの面倒を見て頂戴。」
「はい。(喜んでっ!)」
「アリス、私の部屋に行きましょう。」
「はい。」
うはっ、かわええ・・・。
アリスの手を取り、私の部屋へ。
あれ?
通常、私が歩くと誰かが付いてくる。
リリアーヌだけでなく、他にも数人。
しかし、アリスに付き従う者が居ない。
「アリスは、お付きの人は居ないの?」
「はい。皆、アーマード領に居ます。」
「そうなんだ。あれ?じゃあ屋敷ではどうするの?」
「お母さまのお付きの人が居ますから。」
「でも、夜は?寝る時は別よね?」
「はい・・・。」
シュンっとなるアリス。
貴族は、母娘で一緒に寝る事はない。
ピザート家は、別だけど・・・。
妹をシュンっとさせた責任を取らねば。
「じゃあ、王都に滞在中は、私の部屋に泊まる?」
「えっ?いいんですか?お姉さま。」
ぶはっ!
お姉さま頂きました。
「全然、問題ないわ。私の部屋広いし。」
「うわあ。でもお母さまに言わないと。」
「叔母様には私から言うから、大丈夫よ。」
うん、私、サバサバ系の人は苦手じゃないんだよね。
「うわっ、広い、広い。本当に広い。」
私の部屋に着くとアリスは大はしゃぎした。
やっぱあれか、貴族令嬢が見ても私の部屋、広いんだね・・・。
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