第44話
「第2回誰がお嬢様に付き添うか会議を始めます。」
ダリアの言葉で、また変な会議が始まる。
私の部屋で・・・。
いま3人の前には、パンにクリームが添えられたものが置かれている。
エルミナは、そのおやつに釘付けだった。
リリアーヌは勝手に毒見をしたし、この中で、口にしていないのはエルミナだけだった。
当然、私の物はない。
太るからっ!
「何故、このような不毛な会議を?」
リリアーヌが抗議する。
私は、不憫に思い口を出した。
「エルミナ、食べてみたら?」
「そ、そうですね。」
そうして、大事そうに一口頬張るエルミナ。
目を見開いて固まる。
うんうん、美味しいよね。
甘味は正義だ。
ダイエットの天敵ではあるけど・・・。
「エルミナ、会議中ですよ。」
ダリアが注意した。
「意味のない会議では?」
「意味がないとは、どういう事ですか?」
「ここで何を話し合おうと、リリアーヌが担当を外される事はないと思います。」
正論だ。
「それはそうですが、声をあげなければ変わるものも変わりませんよ?」
「そもそもダリアは、お茶会の準備を理由に、お嬢様の担当を断ったのでは?」
ほう、そんな話があったのか。
「そ、それはそうですが・・・。」
「ダリアが断ったので、お嬢様の担当はサリーという事になったでしょう?」
はい?
「サリーが私の担当なの?」
「その予定でしたが、サリーでは手が負えないだろうって事で、急遽、リリアーヌが担当となりました。」
手に負えないって何?
私は、猛獣かっ!
「お菓子に集中したかったんでしょ?今のままでいいじゃないですか?」
リリアーヌが言った。
「・・・。」
ダリアが撃沈した。
まあいい、こんな会議は、どうでもいい。
「エルミナ、クリームはどうだった?」
私は、エルミナに感想を聞いた。
「とても美味しかったです。これは、お茶会でも話題になる事、間違いありません。」
「料理長と副料理長の手伝いがなければ、作れないのは問題なのでは?」
リリアーヌが、ダリアに突っ込んだ。
「・・・。」
ダリアは何も言わない。
言わないけど、ぐぬぬぬ・・・って、心の声が聞こえる。
翌日、私はシェリルに設計図を渡し、ある物の製造を依頼した。
「これはお金になりますか?」
完全に目がお金になってるシェリルが聞いてきた。
「ならない。」
「そ、そうですか・・・。」
「ねえ、アーマード商会ってお金に困ってるの?」
「そんな事はありませんよ。パターゴルフの件でも、王家やピザート家から、お金を頂いておりますし。」
「そう、なら、そんなお金、お金って言わなくてもいいんじゃない?」
「アーマード商会は、王都では無名です。それが悔しいんです。」
「そんなもんじゃないの?王都の人達が、いちいち貴族お抱えの商会なんて、知らないでしょう?」
「それが悔しいのです。」
キーっとハンカチでも咥えそうな勢いだ。
「まあ、でもねえ。私に言われても。」
「私はお嬢様が、金の生る木だと思っています。」
おいっ!失礼だろ、宰相家令嬢に。
「確かにお嬢様の発想力は目を見張るものがあります。」
リリアーヌが注意せずに同意した。
こ、こいつら・・・。
「という事で、お嬢様。何か案を下さい。お金になりそうな物をっ!」
「知るかっ!そもそも私が考えたって、貴族向けでしょ?そんなんで、王都に知られる事には、ならないんじゃないの?」
「はっ・・・。」
駄目だ、この人。
商売人に向いてないんじゃないの?
「シェリルさん、実はこれ、お嬢様が作りました。」
そう言って、リリアーヌは自分の胸に飾ってあるブローチを誇張させる。
「えっ・・・。」
「これなら、貴族以外にも売れますよ。」
「た、確かに・・・。」
「言っとくけど、私は忙しいから作らないわよ。そもそも、それは、レントン商会のエンリの磨き技術があってこそでしょ?アーマード商会の出る幕はないわ。」
「はっ、そう言えばそうでした。」
リリアーヌが今頃、気が付いたように、そう言った。
駄目だ、こいつら。
「いいんです。もう・・・。所詮、うちは田舎の商会に過ぎないのですから。」
イジケやがった。
とても大人の女性とは思えない。
「じゃあさ、喫茶店でもやる?」
「何ですかそれ?」
シェリルが聞いてきた。
旧フォールド領にも、王都にも喫茶店は存在していない。最初の頃は、不思議に思ったものだが、そもそもが必要ないのだろう。
貴族は、各家でお茶会が出来るし、主だった商会は、王都に支店を持っている。
つまり、商談スペースに困っていない。
普通の庶民は、お茶なんてしない。
その結果、お菓子屋や、飲食店はあっても、喫茶店はない。
「紅茶を飲んだり、お菓子を食べるお店よ。もちろん、お菓子や、茶葉は持ち帰り用に販売するのよ。」
「わざわざ、お店で、お茶を飲みますか?」
リリアーヌが疑問を呈した。
「貴族は飲まないでしょうね。でも、使用人はどうかしら?所用で、平民街に出向くこともあるでしょう?」
「確かに。そういうお店があれば、サボ・・・ごほんっ、休憩もできますね。」
こいつ、サボるって言いそうになりやがった。
私の部屋で堂々とサボってるでしょうがっ!
私は心の中で強く突っ込んだ。
「お嬢様っ!何だか行けそうな気がしますっ!」
大丈夫かコイツ・・・、詐欺に簡単に引っ掛かりそうで、心配だ。
「いいこと、シェリル。まずは、お母様に相談しなさい。勝手にやると碌なことにならないからね。」
「ご領主ではなく、ピザート家の奥様にですか?」
「ええ、そうよ。」
「わかりました。」
まあ、お母様なら、キッパリと反対してくれる事だろう。
商売ってのは、そんなに簡単なものじゃあないしね。
うん、そう思っていた時期もありました。
というか、翌日なんだけど・・・。
「喫茶店っていうものは、大賛成よ。」
お母様がそう言った。
今は、叔父様とお母様、シェリルに私と4人で話し合い中だ。
どうして、こうなった。
「ただね、名前はどうにかならないかしら?」
「じゃあ、カフェなんてどうです?」
「それがいいわ。」
私の提案に、お母様は二つ返事で頷いた。
「お菓子やお茶を買う人間は居るだろうが、わざわざ、お店に行くものが居るだろうか?」
叔父様が当たり前のような正論を言った。
「お菓子もお茶も美味しくて、雰囲気が良ければ客は入ると思うわ。完成したら、私も行ってみたいと思うもの。」
「義姉上、カフェを作るのは、平民街ですよ?」
「あら、アウエリアだって、いつも行ってるもの。私が行っても問題ないでしょ?」
「アウエリアは、特殊なだけで。」
「あら?主人もあなたも、貴族学院時代は、よく行ってたんでしょ?」
「うっ・・・。」
叔父様は、それ以上、何も言えなくなった。
「お菓子は誰が作るんですか?」
私は、一番疑問に思っていることを口にした。
まさか、ダリアがお店で働くわけには、いかないだろう。
「とりあえず、アウエリアお抱えの飴屋と、もう一人欲しいわね。」
何故、あの飴屋が私のお抱えなんだ・・・。
「もう、お店をやるのは決定ですか?」
叔父様が、お母様に聞いた。
「ええ。土地もあるし、構わないでしょ?」
と、土地?
「確かにメイン通りに、商会所有の土地がありますが・・・。」
なんで、そんな土地が・・・。
「シェリル、採算は取れるのか?」
「大丈夫ですっ!」
いや、駄目よ。叔父様、この人に聞いちゃダメ。
「シェリル。お茶会でお菓子の品評会を開催しようと思うの。参加賞と賞金も出すわ。人を集めて頂戴。」
「了解しました。」
な、なんだ?具体的な話が。
「開催はいつ頃でしょうか?」
「来週から、社交シーズンが始まるわ。その時にしましょう。当家にて開催するわ。」
「了解しました。優勝者をカフェで雇うのですか?」
「それは、伏せておきましょう。」
「了解しました。」
おいおいおい、話、めっちゃ進んでるっ!
「お、叔父様、大丈夫なんですか?」
「義姉上が、関わっていれば、話題にもなるし、元々うちが持っている土地だしね。アウエリアが心配しなくても大丈夫だ。」
「まあ、叔父様がそういうなら。」
「来週からは、ユリアナも王都に来るから、何とかなるだろう。」
ユリアナとは、叔父様の奥さんで、アーマード伯爵夫人だ。
私が会うのは初めてとなる。
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