第43話

「どの程度、アウエリアをアーマード伯領へ?」


現在、私、お父様、お母様、叔父様と話し合い中だ。


「1、2か月を予定しているよ。」


お父様が、答えた。


「わかりました。では、その予定で頼みます。」


あっさりと決まったな、私の予定。


「いいのかい?」


「仕方ないでしょう?アウエリアの為です。それに私の派閥も、頃合いかと。いつまでも王妃様と張り合っても仕方ないでしょう。」


め、珍しいっ!

お母様が王妃様と呼んだ。


「言ってることが良くわからないんだが?」


「私が2か月も居なければ、派閥の力も弱まるでしょう?」


「君が居ないという意味がわからない。」


「あら?1、2か月、アーマード伯領に滞在するからよ?当然でしょ?」


「当然って、君が王都を離れる事を認められる訳がないだろう?」


「それこそ意味がわからないわ?私は、宰相婦人よ?王都に縛られる謂れはないわ。」


「・・・。」


「姉上、無茶を言わないで下さい。」


「無茶を言っているのは、どちらかしら?アウエリアは、当家に来て3か月も経ってないのよ?それを一人他所へやろうなんて、可哀そうでしょ?」


「姉上、私も居ますし、妻も居ます。それに子供たちだって居る。アウエリアに寂しい思いはさせません。」


そういやあ、従兄妹が居るんだった。

確か、私やビルより年下と聞いている。

弟分と妹分か・・・、なんかちょっと楽しみになってきた。


「アウエリアは、特に寂しそうに思ってないようだが?」


お父様が突っ込んだ。


いかん、いかん、ちょっとにやけてた。


「私が寂しいわ。」


「「・・・。」」


ぶっちゃけた、お母様がぶっちゃけた。

そんなこと言えば、お父様も叔父様も何も言えなくなる。


お父様が困り顔で、私の方を見てくるが、私にどうしろと?ここは、見なかったことにする。


話し合いは、平行線で終了した。





今日は、久々にダリアとのお茶会だ。

小さなお饅頭が、半分に切られ、私の前に並べられた。

色とりどりのフルーツが入っており、見た目も華やかだ。


「お嬢様が言われていた、透明な皮が完成しました。」


「餡子が入っているのと、入ってないのがあるのね。」


「ええ、合うものと合わないものがありますので。」


「クリームがあっても、いいかもね。」


「クリームとは何でしょう?」


「・・・。」


無いのか?

あれ?そう言えば、この世界に生まれて食べた記憶がない。

嘘?え?そんな事ある?

この世界だって、ミルクはあるんだし。


「ちなみにゼラチンは?」


「聞いたことがありません。」


オワタ。

いや、待って、なんちゃってクリームならっ!


「とりあえず、食べましょう。」


「そうね。」


とりあえず、片っ端から食べる。

どれも、美味しい。

見た目もいいし、これならお茶会にも使用できるだろう。


「そう言えば、お嬢様、アーマード伯領に行かれるとか?」


「ええ、そうみたいよ。」


「側仕えには、是非、私をご指名ください。」


「出過ぎた真似ですよ、ダリア。お嬢様の専属は私と決まっております。」


そう言って、胸のブローチを殊更、強調させるように胸を張るリリアーヌ。


「お嬢様、私にもアクセサリーを作って頂けませんか?」


「なんて浅ましい。お仕えすべき相手に強請る等、側仕えの風上にも置けません。」


いや、あんたが言うな、あんたが・・・。


「リリアーヌ、あんまり見せびらかしてると、お母様に又、何か言われるわよ?」


私がそう言うと、リリアーヌは、一歩下がって大人しくなった。


「ダリアにも何か作ってあげたいのだけど、お母様にも言われているし、何より、今は自分の物をデザインしないといけなくて、中々、時間が取れないの。」


私は、申し訳なく思いながら言った。


「差し出がましいことを言って申し訳ありません。あまりにもリリアーヌが、羨ましかったので。」


「つい、側に居たから、あげちゃったけど。こういう事は、控えた方がいいのかしら?」


「何を言うんですか、お嬢様。」


「こういう風に、増長する原因にもなります。控えた方がよろしいかと。」


「お嬢様、ダリアは、お嬢様の専属ではありませんので、お聞き流しください。」


まあいいか、次から気を付けよう。


おやつを頂いた後、私とダリアは、厨房へと移動した。

仕込みの時間は始まっていたので、サントンを含めた若手も、ちゃんと厨房に居た。


「料理長、ちょっとサントン達を借りてもいいかしら?」


私は、料理長に話しかけた。


「はい、構いません。」


料理長の了解も得たので、私は若手を集合させた。


「これから生クリームを作るので、しっかり頑張るように。」


「「「???」」」


「お嬢様、私が作りますよ?」


「力仕事が必要なのよ。」


ボールにバターを入れて、3人の若手の前へ置く。


「はい、かき混ぜて。」


「お嬢様、バターをかき混ぜるんですか?」


サントンが聞いてきた。


「そうよ、早くやって。」


3人は、渋々、かき混ぜ始める。

菜箸を使っているので、バターが溶けるのも時間が掛かる。


「ゆっくり、少しずつ、ミルクを入れながら、かき混ぜて。」


見ていると、溶けたバターとミルクがいい感じに混ざっていない。

駄目だ、コイツら、役に立たん。


「ちょっと、退いてろ。」


そう言って、料理長と副料理長が若手を押しのけた。


ベテラン勢、年季が違う。


綺麗に混ざっていく。


「これから、どうします、お嬢様?」


「沸騰しないように10分程、温めてから、更に攪拌して貰えるかしら。」


「わかりました。お前ら沸騰させるなよ。」


若手に、鍋を渡しながら、注意していた。


「粗熱が取れたら、冷蔵庫で寝かしておいて頂戴。」


「わかりました。では、後は、こちらでやっておきますので。」


「ありがとう。」


これで下準備は完成だ。


翌日、厨房は緊張に包まれていた。


「お、奥様、どうなされました?」


「アウエリアが何かやってるようだから、見に来たのよ?」


「そ、そうですか。」


料理長がガチガチに緊張していた。


貴族令嬢が、軽々しく厨房に入るものじゃないと言っていたのに、いいのだろうか?


もちろん、恐ろしいので、そんな事は突っ込まない。


「砂糖が溶ける程度で、ゆっくり混ぜて。」


「はい。」


「混ぜ終わったら、いい感じに固まる程度になるまで、攪拌して。」


カッカッカッカッ


手慣れた手つきで、攪拌していくベテラン達。


角が立つくらいと言ったって、判らないだろうし、説明が難しい。

しかし、そこはベテラン勢。


その都度、聞いてきてくれる。


このなんちゃって生クリームは、混ぜすぎるとボソボソになるらしい。

なぜ私が作り方を知っているかというと、欧州に転勤した友人が、向こうで作っていたからだ。

日本のように、簡単に生クリームが手に入らなかったからだそうで、同じ世界であっても、色々と違うんだなあと当時、思ったものだ。


さて、いい感じの生クリームが完成した。


お母様とダリアの3人で、お茶会だ。

場所は、いつもの使用人用休憩スペース。

おやつは、パンとはちみつにした。


パンにクリームを添えて、はちみつをかける。


めっちゃ、うまそうじゃない?


ひとかけら千切って、クリームをつけて、頬張る。

リリアーヌが・・・。


厨房で私が指示して作ったんだから、毒見いらんだろっ!


「どうぞ。」


「味はどうだったの?」


「大変、美味しゅうございました。」


ということで、改めて。


うまいっ!

今人生、初の生クリームは最高だった。

なんちゃってだけどもっ。


お母様の方を見ると固まっていた。


「これは、餡子とあうものですか?」


「ええ、合うわよ。」


ダリアの問いに私が答えた。


「ちょっと、想像が出来ません。」


まあ、生クリームを初めて食べたんだから、そりゃあそうだろ。


「ダリア、これは、ダリアが作れるのかしら?」


「いえ、料理長に手伝ってもらわないと厳しいかと。」


「そう、でも、お茶会には使えそうよね?」


「はい。」


「新メニューと合わせて、お願いね。」


「畏まりました。」


「社交シーズンが始まる前にお披露目した方がいいかしら?」


「今の新メニューをお披露目して、クリームの方は社交シーズンに入ってからが、いいんじゃないでしょうか?」


私が提案した。

こういうのは、小出しにした方がいいし、社交シーズンに入ってからも、新メニューがあった方がいいだろう。


「そうね、それがいいわ。ダリア、その方向でいいかしら?」


「はい、了解しました。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る