第40話

レントン商会から、ブローチが完成したとの連絡があったので、レントン商会へ行くことになった。

屋敷を出ると私の側には、リリアーヌ。

逆側には、屋敷を出た後に即、凸ってきたクロヒメだ。

門を出る時に引き離される運命(さだめ)では、あるのだけど。

とりあえず、頬を優しく撫でといた。


少し離れた所に6名の精鋭が。

私が庶民っぽいコーデをしているのに台無しだ。


さて、屋敷の正門で時間をとられた後は、特に問題もなくレントン商会へと到着した。


「ようこそレントン商会へ。お嬢様、パーシヴァアルから伝言があります。」


「へえ、何だろ?」


「『お菓子屋の件、ありがとうございました。』と。」


「えっ?まだ何もしてないけど・・・。」


「既に当家から餡子の注文をしております。」


リリアーヌが教えてくれた。


「そうなんだ。でも、それだけでしょ?」


「アーマード伯も、ご友人がた含めて注文をしたと聞いております。」


「なるほど、叔父様も動いてくれたんだ。」


「お嬢様には、影響力がありますね。」


レントン商会の会頭が、そう言った。


「私というより、侯爵令嬢に影響力があるのよ。」


「同じことでは?」


「まあ、今の私はその地位にあるから、同じことだけど。」


個人の力と地位の力は、全然違う。

地位はいずれ失うものだ。

それを理解しない者は、前世でも多かった。


エンリの部屋に案内されると、満面の笑顔で出迎えられた。


はいはい、今日も昼食は豪華なのね。


「お嬢様、素晴らしいものが出来ました。」


エンリがそう言って、ブローチを出した。

何故か今日は、兄である会頭も部屋に残っている。


私は、出来上がったブローチを覗き込んだ。


すばらしい。


その一言につきる。

煌びやかに光り輝く銀細工に、落ち着いた緑のメノウがしっくりときている。


さすがエンリだ。

ドワーフの弟子は伊達じゃない。


「凄いわね。エンリ。」


「私は磨いただけですが・・・。」


そうだけど、銀細工は磨きが命とも言われてるんだから、もう少し誇ってもいいのでは?


「そんな事よりも、これはどうするんですか?」


「へ?」


どうするとは?


「どなたかへのプレゼントですか?」


「特に考えてないわ。」


「じゃあ、売りましょう!」


エンリの目がお金になってる・・・。


「でもほら、メノウだし。貴族が使うには、ちょっと地味じゃない?」


「確かに貴族なら、そうでしょう。ただ、平民の富裕層には、十分ですよ。ねえ、兄さん。」


「売り物にはなりますが、お嬢様は、売る気があるのですか?」


「いやあ、特には・・・。でも、まあ初めて作ったものだし、売るのは、ちょっと。」


「お嬢様が初めて作ったのですか?」


リリアーヌが、ブローチをジッと見つめながら、私に言ってきた。


「そりゃあそうよ。リリアーヌだって見てきたでしょ?」


「当家に来る前のお嬢様は知りませんので。」


「前の家でも作った事はないわよ。」


前世では作ってるけど。


「初めてで、この出来は、素晴らしいですね。」


会頭が絶賛してくれた。


「じーーーっ。」

食い入るように見つめるリリアーヌ。

じーーーって、声に出す人おったんや・・・。


「何?欲しいの?」


「はい。」


即答かっ!あまりの潔よさっぷりに、呆れるを通り越すわっ!


「ちょっと付けてみる?」


私がそう言うと、リリアーヌが、屈んで私に付けろアピールをしてきた。

仕方なく、取り付ける私。


メイド服に、このブローチはどうだろ?


そう思ったが、落ち着いた緑色のメノウが、メイド服にしっくりときた。


「どうでしょう?」


「似合ってるわね。」


「王宮のメイドのようです。」


エンリが言った。


「王宮のメイドを見たことがあるの?」


「ありませんが・・・。」


ないんかいっ!


「宰相家の側仕えとして、申し分ないんじゃないでしょうか?」


レントン商会の会頭がそう言った。


「まあ、いいか。リリアーヌにあげるわ。」


いし拾いも、一緒だったし、別にいいか。


「お嬢様の初めてを頂きました。」


そう言って胸を張るリリアーヌ。


言い方っ!

私は、内心で突っ込んだ。


帰り道にお饅頭屋に寄って、お土産として買って帰った。飴屋の方は行列が出来ていたので、スルーしといた。





アーマード商会の人間が私を訪ねてきた。


「初めまして。王都支店のシェリルと申します。今後、お嬢様の担当となりますので、以後、宜しくお願い致します。」


アーマード商会というだけあって、王都は支店なんだ。

しかし、私担当ってなんだ?

眼鏡美人で、できる女って感じの人だけど。


「えーと、宜しくね。シェリルさん。」


「どうぞ、シェリルとお呼びください。」


「ああ、はい。」


「本日は、お嬢様がご依頼になっていたパターゴルフと言われるものの試作品が出来ましたので、お持ち致しました。


「おおー。」


すっかり忘れてたわっ。


今日は、リリアーヌもおらず、私の側には女中頭の女性がついている。

50代くらいの人で、とても優しい人だ。

私に何かを言う事もない。

そして、父母も居ない中、何故か叔父様だけは居た。


「ふむ、これが、アウエリアが、うちの商会に頼んだものかい?」


商会の人が、パネルを並べているのを興味津々に眺めている。


「設置完了しました。」


「ボールとパターを取ってくれる?」


「これですか?」


そう言って、シェリルがボールとパターを持ってきてくれた。


ゴルフは別段、得意でもなかったし、そんなにコースを回ったわけではない。

ただ、パターゴルフは、それなりにこなしてきた。

今人生初のパターゴルフ。


試作品のコースは2つ。

この初心者用のストレートコースを外すわけにはいかない。


いざっ!


かこっ。

軽快に走るボール。


おお、いい感じ。

そして。


カランコラン。


おおーっ!爽快な音がっ!


「なるほど、音に細かい仕様が書かれていましたが、こういう事だったんですね。」


シェリルが言った。


「ふむ。簡単そうだが?」


叔父様が言った。

これの何が面白いんだ?と言いたげに。


「叔父様もやってみてください。」


私はそう言って、パターとボールを渡した。


「ふむ。」


見よう見真似でパットした。


かこっ。


斜めに走ってコースアウト。


うん、お手本の様な失敗だ。


「なぜ、まっすぐ進まない・・・。」


「叔父様、ボールに当てる時に、この様に面を真っ直ぐにして当てないと、真っ直ぐは進みませんよ。」


私は、パターの面を叔父様に示して、説明した。


「理屈は、わかるんだが、見るとやるでは大違いだな。」


「ご領主様、私が試しても、よろしいでしょうか?」


「ああ。」


叔父様はパターをシェリルに渡した。


シェリルもお手本の様なコースアウトを見せてくれた。


「これの何が面白いんですか?」


眼鏡をキリっと持ち上げて、シェリルが言った。


「そうゆうことは、カップインしてから言ってくれる?」


「くっ・・・。」





「姉さん、何してるの?」


叔父様とシェリルが練習していると可愛い弟のビルが寄ってきた。


「パターゴルフよ。ビルもやってみる?」


「どうやるの?」


簡単にビルに説明して、パターとボールを渡した。


「ビル様は、まだお若いですし、難しいのでは?」


未だ、真っ直ぐに転がらないシェリルが言った。


カコンっ。

ごろごろごろ。


真っ直ぐに転がるボール。


しかし、カップインすることは無かった。

所謂、ショートという奴だ。


「ビル、惜しいわ。次はもうちょっと強く。」


「ちょっと待ってください。順番です。順番っ!」


な、なんだかなあ。

出来る女風だったのに・・・、私の中のシェリルの株が急下落していく。


その後、真っ先にカップインしたのはビルだった。

最初から真っ直ぐ転がせるんだから、それはそうだろう。

辛うじて叔父様が次点で、最後がシェリルだった。


「くっ!」


いや、あんた何本気で悔しがってんの?

シェリルからしたら、叔父様は領主であり、ビルは宰相子息でしょうに・・・。

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