第39話

「ふう・・・。」


大物を仕留めてやった。

中々、手古摺らせおって。

宝物庫にあるものと違い、展示室のアクセサリーは、自由度が半端ない。

身に着ける物ではなく、見せる為だけの物として作られているんだろう。

デザインの一部分を参考にするくらいしか、出来ないなこれ。

完璧にデッサンし終わった後に、そんな事を思っても、後の祭りだ。


「お嬢様、そろそろ昼食に致しませんか?」


ダリアが頃合いをみて話しかけてきた。


「そうね。」


私とダリアは、あのギスギスした空間に戻る。


「王妃様、申し訳ありませんが、私と娘は、軽食を取らさせていただきます。」


娘を殊更、強調するお母様。


側仕えのダリアからは言い出せないので、ここは私が。


「王妃様、もし宜しければ、王妃様の分もございます。」


私が、そう言うと、お母様の方から強い視線が感じられる。

怖いから、そっちの方は見ない。


「まあ、私の分まで。」


喜ぶ王妃様。


「当家の軽食ですし、王族の方には、お口に合わないかと?」


刺々しくお母様が言う。


「ご心配なく、私は嫁入りした身ですし、生粋の王族ではありません。エカテリーナ様は、よくご存じのはずでは?」


「・・・。」


駄目だ、この二人が相容れる事なんてない。

生まれながらの天敵という言葉が、よく似あう。



「はあ。とても美味しいわ。さすが、ダリアね。」


王妃様がそうダリアに話しかけた。


「ありがとうございます。」


ダリアが恭しく礼をする。


ふむ、王妃様はダリアの事を知ってるんだ。

当家でお茶会等を取り仕切るのは、ダリアだけど、そもそも王妃様は、もちろん王妃様派閥の人は、来てないし、どういう知り合いなんだろ?


「何度かダリアを私の側仕えにと打診はしたんだけど、いい返事は貰えなかったわ。」


王妃様が、とんでもない事を言いおった。

いや、駄目でしょ。

天敵から引き抜こうなんて・・・。


「申し訳ありません。私は、ピザート家で、自由にさせて頂いておりますので。」


ダリアが申し訳なさそうに答えた。


「他家の側仕えを引き抜こうなんて、とても王族のなさる事ではありませんわ。」


静かに食事していた、お母様がズバッと攻撃した。


「あら?でも王宮で働ける事は、励みになるんじゃないかしら?」


真っ向勝負に出た王妃様。


駄目だ、この二人。水と油だ・・・。


その後もギスギスした状況は続いたが、私は、再びデッサンに赴いたので、難を逃れた。


帰り際、お母様が手を差し出したので、手を繋いだまま展示室を後にしたのだけど。

背後から突き刺さるような視線を感じて、私は、怖くて後ろを振り向けなかった。


その晩、当然のようにというか、私はお母様の部屋で寝る事になった。


この際、思い切って聞いてみよう。


「何故、お母様は、王妃様と対立してるのですか?」


「そうねえ、元々反りは合わなかったのよ。向こうが2つ上には、なるのだけども。でもね、相手は王妃様でしょ?私もさすがにねぇ。今の公爵夫人に間を取り持って貰って、恭順の意を示そうと頭を下げに行ったのよ。」


「お母様が?」


「ええ。あの女が、王太子妃になった時だったわ。」


まさかの衝撃的な事実が・・・。

で、何でここまで、拗れてるのか。

何となく嫌な予感が・・・。


「そしたらね。あの女、何て言ったと思う?」


「え、えっと・・・。」


「「あら、エカテリーナ様は、その程度でしたのね。その辺のつまらない令嬢と変わりませんのね。がっかりだわ」って言ったのよ。どう思う?」


そう言って、お母様は、仰向けになっている私を食い入るように覗き込んだ。


王妃様・・・、何でそんな事を・・・。

何となくは理由が分かる気はするけども。


「お母様は悪くないと思います。」


「まあ、アウエリアは私の味方になってくれるのね。嬉しいわ。」


味方になるとは言ってないのだが、このままにしておこう。


しかし、あれだ。

もう、どうしようもないね。

私は、それ以上、考える事無く静かに眠った。

くぅ~。





朝、紅茶の香りに目覚めるとお母様の部屋だった。

リリアーヌの姿はなく、紅茶をいれてくれたのは、エルミナだった。


「おはようございます。」


お母様に丁寧にあいさつした後、エルミナにも朝の挨拶をした。


「お嬢様が起きるかで、紅茶をいれる腕がわかりますね。」


「そうかな?」


「紅茶の香りを部屋中に蔓延させるには、ちゃんとしたいれかたじゃないと無理ですから。」


ふむ、確かに私がいれた時も、上手く出来た時は、香りが強いし、そうなのかもしれない。


「じゃあ、アウエリアを起こせるのは、エヴァーノを除けば3人だけという事ね。」


「そうなりますね。」


お母様の問いに、エルミナが恭しく答えた。

ちなみに、家令や執事長も紅茶をいれることが出来るのだが、貴族社会では、嫁入り前の令嬢の部屋に男性は、入れない。

という事は、私を起こせるのは女性だけという事になる。


私は、ゆっくりと紅茶を楽しんで、お目目を覚醒させた。


朝食後、お父様と話す機会があったので、時間割についての要望を伝えた。

習い事が多すぎるっ!


「算術の先生から、アウエリアには、もう教える事が無いと言われたから、それを減らそうか。」


よっし!


「ついでに、歴史とか礼儀作法も減らして頂けると?」


ここは一気に畳みかけないと。


「それは、アウエリアの頑張り次第だね。」


「・・・。」


正論で返された。


貴族の歴史は、本当にめんどくさい。

横文字というか、長い名前のオンパレードだ。

各家々の歴史や、貴族の名前を覚える為に、歴史の授業は、前世の日本よりも重要視されている。

そういやあ、前世の歴史って選択科目だったよね・・・。

この世界の貴族にとっては、必須科目。

くっ・・・。


まあいい、算術の授業は減ったのだから、喜ばしい事だ。


そして午前の授業を・・・。

減った?減ってる?


側仕え達の休憩時間中、今日も今日とて3人が私の部屋に。


「では、第8回お嬢様連絡会を行います。」


ダリアが言った。


というか何だそれ?

私の部屋で何やってんの?

しかも、第8回って数字が生々しい。

本当にやってそうだ。


「先日、お嬢様が、王妃様の縁戚という事がわかりました。」


「「はっ?」」


リリアーヌとエルミナが素っ頓狂な声をあげた。


「奥様はご存じなのですか?」


エルミナが聞いた。


「知っているから、お嬢様に付き添ったのでは?」


リリアーヌが言った。


ひとの部屋で、私の連絡会とかマジやめてくれない?

私は渋々と自分でいれた紅茶を飲む。


「以前、お嬢様が王妃様とお茶をしているとクロエに言われました。そう言う事だったんですね。」


「王妃様は、どの程度、お嬢様に執着を?」


エルミナが聞いた。


「お嬢様を見る瞳は、愛娘を見ているようでした。」


「「・・・。」」


ダリアの言葉に二人が、絶句した。





それから、算術の授業が減った感が一切なく時は過ぎていった。

王妃様と禁断の宝物庫でデッサンをした後、王妃様の部屋で。


「昔、お母様が王妃様に恭順の意を示したことがあったと聞きました。」


「随分と懐かしい話ね。」


「どうして、こんなに拗れているんでしょう?」


「だって、つまらないでしょ?誰もが私の派閥だったら、張り合いがないもの。」


うん、そんな事だと思った。


「でもね。今は後悔しているのよ?」


おっ、これは修復の可能性が?


「まさか、コンスタンスの娘をとられる事になるなんて、当時は思いもしなかったわ。今から謝ったら返してくれるかしら?」


そんな事をしたら、火に油を注ぐ事になる。

うん、聞かなかった事にしよう。


「アウエリア、デッサンが終わった後も、遊びに来てね。」


「はい。」


毎週、王宮に通うようにお父様に言われている。お母様は猛反対しているが・・・。

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