第38話

「とりあえず試してみましょう。」


そう言って、再び修練が始まった。


キン、キン・・・ガッ、ゴッ・・・。


途中から剣戟の音がおかしい。


脳筋が持っている練習用の剣は、普通の剣で刃引きしてある。

終わった後に、脳筋が、剣の刃を見せてくる。

ボコボコになっていた。


す、すげぇ・・・。


「このように、チョウフ貝の殻は、強度が鋼を超えます。」


「これで普通の剣を作ったら?」


「刃は出来ないようです。そもそも、このように円柱に加工するのもドワーフにしか出来ません。」


「へぇ・・・、これ貴重なんじゃないの?」


「試しに2本作られたうちの一剣になります。」


「私が貰っていいの?」


「はい、使うものがおりませんので。」


「せっかく作ったのに?」


「軽すぎて、練習にならないんですよ。」


「中に何か重石でも、付ければいいんじゃない?」


「チョウフ貝は、中側の強度がなく、重石を入れると壊れました。」


「そ、そうなんだ・・・。」


って、2本のうちの一本が壊れたら、これ、ラス1なんじゃない?


「本当に、私が貰っても?」


「はい。」


しかし、なんで誰も使わないんだろ?

刃があったとしても相手の剣は、ボコボコになるんじゃなかろうか?


そして、ふと気が付いた。


「これって鞘がないのよね?」


「はい。」


遠目に円柱の剣を見る。


あれだ、おもちゃにしか見えない・・・。


「貰っておいて何だけど、おもちゃにしか・・・。」


「ええ、王宮騎士では、それが理由で誰も使いたがりません。そもそも、相手の剣は、ボコボコに出来ても、相手が切れませんから。それ故、お嬢様には最適かと。聞きましたよ。平民街を闊歩しているとか。」


闊歩はしてない。

平民の中にいてもおかしくない様にしているだけだ。


「お嬢様の腕なら、その辺の悪党やC級程度の冒険者であれば、問題ないと思います。」


「え?私、C級冒険者に勝てるの?」


「勝てませんよ?」


おちょくってんのか、脳筋・・・。


「あくまで、自衛が出来るというだけです。まあ剣がボコボコになりますから、泣いて逃げるか、衛兵が駆けつけるまでの、時間稼ぎは出来ます。」


私は、佩剣してリリアーヌの方を見る。


「どう?」


「子供がおもちゃを下げているようにしか見えません。」


「・・・。」


私は気を取り直して、ビルの方を見る。


「ビル、どう見える。」


「おもちゃにしか見えないよ、姉さん。」


「・・・。」


「なるべく、出かける時は、佩剣してくださいね。」


脳筋が言う。


プラスチックの剣を貰った子供が、持ち歩くのは前世で見たことはあるが、確か3、4歳くらいじゃね?

えっ、10歳で、私、これ持つの?

恥ずかしくない?


まあ、いいや、ここは素直に頷いておいた。


持ち歩かなければいい。

うんっ!





午後、クロヒメに乗馬。

あれ?乗馬の時間って、午前じゃなかった?

なんで、午後になってんの?


私に思考にふける時間すら与えず、クロヒメが駆ける。


くっ。


「落ち着きなさい、クロヒメ。」


「ふふふん?」

落ち着いてるよ?


落ち着いてねえよっ!


クロヒメの気がすむまで乗馬した後に、ブラッシングしてあげたので、クロヒメは上機嫌だった。





時は来た、いざ決戦の時!

紅茶の香りに目が覚めたものの・・・。

ああ、怠い。

風邪だろうか?今日は一日、寝ていたい。


しかし、そういう訳にもいかず。


朝、お父様とお母様、そしてダリアと共に王宮へ向かう。





前日に、ダリアが共に行く事が決まったのだが。


「展示室には、貴族しか入れないし、リリアーヌでも問題ないんじゃないですか?」


私が聞いた。


「物事には常に表と裏があるのですよ。」


そう、お母様が言われた。


「ダリア、二人分の軽食をお願いね。」


お母様が、ダリアに言った。


「畏まりました。」


私は、ダリアの後を追って聞いてみた。


「ダリアは貴族なの?」


「いえ、違いますよ。」


「どうやって、展示室に?」


「裏技を使います。」


なんとっ!裏技が存在したのか。

まあいい、それよりも。


「軽食を用意って、何処で食べる?」


「展示室には、休憩スペースがありますので、そちらで。」


そう言えば、王妃様が紅茶を飲んでたなあ・・・。


「ダリア、軽食は3人分用意できるかしら?」


「私の分は、不要ですよ?」


「無駄になってしまうかもだけど、念の為に。」


私の言葉に、ダリアは首を傾げたが。


「畏まりました。」


そう、応じてくれた。


ここまでが前日の出来事である。

今、私は、お父様とお母様の3人で馬車に乗っている。

家令のコットンとダリアは別の馬車だ。


さて、裏技とは何なのだろうか?


そして、展示室へ向かうルートにある検閲所。

ダリアは、飲食物を全て、相手に手渡した。


どうやら、魔法で、検査を行うらしい。

そういう魔法もあるのか、ふむふむ。


そして検閲が終わると、兵士たちに小さな袋を差し出した。


えっ?袖の下?


いやいやいや、ないわーっ!

仮にも王宮で検閲を務める兵士の皆さんだよ?

そんな簡単に買収されないだろ?


「どうぞ。」


あっさりと、抜ける。


ふぁっ?

大丈夫か王宮?えっ?

金なの?


「だ、ダリア、裏技って、賄賂なの?」


「はい?」


「お金渡していたよね?」


「いえ、お菓子です。休憩中にどうぞとお渡ししました。所謂、差し入れでしょうか?」


差し入れって・・・。

確か、語源が罪人に渡すものだったような。


そんな事より、お菓子で、簡単に通していいのか?

駄目だろっ!


「ダリアのお菓子は人気あるから。」


お母様が、そんな事を言った。


「だからと言って、誰でも通れるわけではないのよ?ダリアは宰相家の側仕えだから、特例よ。」


「な、なるほど。」


何となく納得する私。


私達は、展示室に入った。


「まずは、お茶にしましょう。」


お母様が、言われたので、私たちは休憩スペースに向かった。

ダリアが、紅茶を用意していると、さも当然かのように、王妃様が訪れた。


「これは王妃様、この様な場所で、お会いするとは思いませんでした。」


お母様が丁寧に挨拶はするが、何となく言葉には棘が含まれていた。


「エカテリーナ様こそ、如何なされたのですか?」


「娘がこちらに来たいと我が儘を申しまして、その付き添いです。」


「あら、そうでしたの。前回、アウエリアは、一人で来ていましたが?」


「一応、侯爵令嬢ですし、何かあっては困りますもの。」


「王宮の展示室は、基本、貴族しか入れませんし、無用な心配では?」


「血縁関係者が、ちょっかいを出してくる恐れもありますし。」


「まあ、怖い。アウエリアに、ちょっかいを出すような血縁関係者が?」


「ええ、居るかもしれませんしねえ。」


そう言って、王妃様を見るお母様。


いや、帰りたい。マジ帰りたい。

鉄仮面三姉妹のイザコザが、仲の良い姉妹の喧嘩に見えてしまう程、今の状況は酷い。


こんなギスギスした中であっても、ダリアと王妃様の側仕えのクロエは、淡々と仕事をこなしてる。

すごいわ・・・、あんたら側仕えの鏡やで・・・。


「お嬢様、そろそろデッサンを始められては?」


ダリアが、そう言ってくれたので、私はその場を離れる事が出来た。


ダリアが椅子を持って私についてくる。


「何処でデッサンされますか?」


「えっと・・・。」


私は、目的のアクセサリーがある場所を目指す。


「お嬢様が、もう一人分と申されたのは王妃様の分だったのですか?」


ダリアが小さい声で聞いてくる。


「うん、そうよ。」


「お嬢様とどういうご関係でしょうか?」


「私の生母が、従妹らしいわ。」


「・・・。」


無言でビックリするダリア。

そりゃあ、ビックリするよね。


「それでは、お嬢様、ごゆっくり。」


目的の場所で、ダリアは折り畳みの椅子をセットしてくれた。


よし、没頭しよう。

あのギスギスした空間が気にならないくらいに。


カリカリカリ・・・。

カリカリカリ・・・。


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