第37話

緑茶の淹れ方は、前世で大体覚えているし、エヴァーノにも習った為、完璧だ。


「これは何かしら?」


お母様が聞いてきた。


「お饅頭です。」


「お饅頭?」


「お茶にあいますね。」


ダリアが言った。


「でしょう?」


「見た目が、よければお茶会でも使えそうだけど。」


お母様が言った。

まあ、貴婦人たちのお茶会には、向かないかな。


「ねえ、ダリア。片栗粉ってある?」


「始めて聞きました。」


だよねえ。

前世でも片栗粉は、カタクリの粉じゃないのに、そのまま片栗粉って名前使ってたからなあ。

正式名称なんなんだろ?


「でんぷんの粉は?」


「あります。」


「じゃあさ、でんぷん粉と砂糖で、今食べた、お饅頭の皮が作れない?」


「茶色にですか?」


「出来れば透明で。」


「中身はどうすれば?」


「シロップ漬けしたフルーツとかは、どうかしら?」


「なるほど、試してみます。」


「いろんなフルーツが包まれていたら、お茶会に使えそうね。」


お母様が言った。


「出来ましたら、奥様にも報告いたします。」


「頼んだわね。」


水まんじゅうの皮が出来たら、餡子を仕入れてもいいし、饅頭だけは、別で売り込もう。

あのお菓子屋が存続できる程度に、なればいいんだろうし。


という事で、次の日。

午前の勉強・・・。

あれ?おかしいな?毎日になってない?

礼儀作法やダンスの基礎なんて科目あった?

知らないうちに科目が増えているような?


気のせいか・・・。

うん、きっと気のせいだ。


叔父様が本日は、王宮に出向かないという事で、一緒にエヴァーノの所へ行った。


「ありゃ、ぼっちゃんが、珍しい。」


「アウエリアが何か美味しい物を食べさせてくれると言ったんでね。あと、いい加減、ぼっちゃんは止めてくれないか?」


「私にとって、ぼっちゃんは、一生、ぼっちゃんですよ。」


「まいったなあ。」


そう言って、叔父様は頭をかいた。


エヴァーノに3人分のお茶を頼み、テーブルに3つの饅頭を置いた。

1つは、リリアーヌにあげたので、これで手持ちの饅頭は無くなった。


「ほお、懐かしいな。王都饅頭じゃないか。」


叔父様がそんな事を言った。


「懐かしい?」


私は疑問を口にした。


「い、いやあ、そのう、昔、食べたことがあってね。」


「何処で食べたんですか?」


「ん?な、何分、昔の事なんで・・・。」


「昔っていつですか?」


「貴族学院に通っていたころだよ。いやあ懐かしい。」


「なるほど、その頃、寮を抜け出して、平民街に行っていたわけですね?」


「・・・。」


私が突き詰めると、叔父様は無言になった。


「ぼっちゃん、そんな事をしてたのかい?」


「い、いや、私だけじゃあないよ。周りの皆も、行っていたし、兄上だって・・・。」


「ほう、お父様も?」


いい事聞いた。これは使える!


「ま、待ちなさい、アウエリア。男と女では、事情が変わってくるし、何より、アウエリアはまだ10歳じゃないか。」


「叔父様、何を待てと?」


「わ、私たちのように平民街に気軽に行く事は、待ちなさいと言ってるんだ。」


「ほう、気軽に行ってたんですね?」


「・・・。」


なんて事だ、私にはあれこれ制限を付ける癖に、自分たちは好き勝手していたなんて。


「安心してください。私は一人で行く事は、もうしませんので。」


それを聞いて、叔父様は一息ついた。


「ふむ、こりゃあ、お茶にあうね。」


エヴァーノが言った。


「でしょ?」


「うむ・・・、これは・・・。」


「貴婦人のお茶会には不向きでしょうけど、ちょっとした休憩とかに、どうですか?書類仕事をした後なんかだと殿方も甘いものが欲しくなるんでは?」


「確かにその通りだ。しかも、ちょっと小腹が空いた時に、王都饅頭は、いいかもしれない。」


「お茶にあいますし。」


私は駄目押しした。


「なるほど、いい案だな。今度、知り合いの貴族にも薦めてみよう。しかし、アウエリアは、どうして王都饅頭を?」


「知り合いの冒険者に頼まれました。売り上げが芳しくないようですよ。」


「なんと・・・、私の貴族学院時代は、大人気だったんだが・・・。」


「アーマードの緑茶と合わせれば、また人気になるかもしれませんね。」


「姉上から、お茶会で、緑茶は厳しいと聞いているからな。アウエリア、助かったよ。」


飴屋の様な大成功には程遠いけど。

やっていける程度には、足しになるんじゃないかなと皮算用してみる。


使用人の館を出ると、外で遊んでいたクロヒメが纏わりつく。


はいはい。

頬を撫でる。


「叔父様、私はクロヒメを厩舎に連れて行きますので。」


「ああ、しかし、本当に慣れてるんだなあ。」


「纏わりつかれています。」


うん、慣れているどころじゃないんだよ、これが。

厩舎にクロヒメを連れて行くと、クロヒメが気のすむまでブラッシングしてあげた。


◇◇◇


朝の(以下ry

今日も午後は、予定なし。

ダリアもリリアーヌも居ない為、部屋でボーっとしていた。


それにしても何だな。

私の部屋というか貴族の部屋は広すぎだ。

多分、広さにして80畳くらいある。

前世で恐らく6畳で、暮らしていた身としては、広すぎるとしか思えない。

ベッドもキングサイズ以上で、詰めれば大人7、8人は寝られる大きさだ。


普通の貴族は、衣装をたくさん持ってるので、広くても困らないのだろうが。

私の部屋は、結構空間があいている。

リビングっぽい場所や、勉強机、5,6人で食事が出来そうな場所があってなお、隙間がある。


何か置けないかなあ・・・。


「あっ!」


閃いた。

私は閃いてしまった!


という事で、設計図を紙におこす。


カリカリカリ・・・。

カリカリカリ・・・。

貴重な時間が失われた。


がっ、後悔はしていないっ。


私は設計図を家令のコットンに渡した。

コットンからの接触は禁止されているが、私からなら問題ない。

・・・はず。


「これは一体なんでしょう?」


「コースよ。」


「コース?」


「そう、パターゴルフのコースよ。」


「パターゴルフ?」


コットンは首を傾げた。


この世界にゴルフなんてものはない。

ゴルフがないのだから、パターゴルフも、もちろんない。


「詳細は書いてあるから、設計図通りに作ってもらって。」


芝や人工芝なんてものはないので、設計図には、ボールが滑りやすいものとか、そういう感じでザックリ書いてある。


「アーマード商会に頼んでいいでしょうか?」


領地持ち領主は、大概、商会を抱えていて、叔父様も例外ではない。


「ええ、宜しくね。」


ボールのサイズも詳しく解らないので適当だ。ようはパターゴルフが楽しめれば何でもいいのだ。


パネルを何枚も繋げてコースを作るように設計しているので、パネルを組み替えたら、コースが変更できる。

・・・はず。

何せ、ざっくりと書いているので、後は職人任せだ。





朝の・・・。


キン、カン、キンっ!


脳筋の攻めを剣で受け流す。

力の差がありすぎて、完全に受ける事は出来ない。

ならば、流すしかない。


てか、この脳筋。

10歳の幼女に、本気で打ち込むって、頭大丈夫か?


なんとか攻撃を受け流し終えた後、脳筋が言ってきた。


「今日は、お嬢様にプレゼントがあります。」


はっ?

こいつ、私に惚れてんのか?

ロ、ロリ?

犯罪だ、犯罪者がここにいる。


しかし、異世界に淫行条例は、存在していない。


「こちらになります。」


何か大きな木箱に入ってんな。

細長いし、誰がどう見ても剣だろ。


木箱から出された、それは剣ではなかった。

剣ではないが、剣の格好をしてる。

刀身の部分が円柱だ。


「何これ?」


「練習用の剣です。」


剣なのか?一応?


「どうぞ、持ってみてください。」


私は、手渡された剣を手に取った。


「か、軽っ!なにこれ?」


円柱の中身は、空じゃないの?この軽さは。


「チョウフ貝の殻を使った、練習用の剣になります。」


何、超、不快って・・・。

誰だ、そんな名前を付けたのは。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る