第31話

「それよりもアウエリア、明日は王宮の展示室へ行くんだから、準備はしておいてくれ。」


準備と言われても、画板と用紙と筆記用具くらいだ。


「旦那様、お嬢様の昼食はいかがなさいますか?」


リリアーヌが聞いた。


「それは、私の方で用意するから問題ないよ。明日は、私と一緒に王宮へ行こう。リリアーヌは屋敷に居てくれていいよ。」


「いえ、私も共に王宮へ行きます。」


「そうは言っても、展示室には入れないよ?」


「控えの間でお待ちしております。」


「わかった。当初はコットンにでも、頼もうかとも考えていたんだが、コットンも仕事があるからねえ。」


コットンは、当家の家令であり、準男爵の爵位を持っている。

普段は、お父様と王宮へ行き、宰相の補佐をしている。


「あなた、コットンは、アウエリアに接近禁止にしているでしょう?」


お母様が指摘した。


「ああ、そうだったね。」


コットンは、私に接近禁止となっている。

まあ、私のせいなんだが・・・。





「困った事があったら、何でも言って下さい。私が力になります。」


私が屋敷に来て間もない頃、家令のコットンは、そう言ってくれた。

お父様と同年代の優し気な男性だ。


という事で、私はさっそくコットンを頼ってしまった。脳筋を排除するべく・・・。


結果は、大事に発展した挙句、何も変わらず仕舞という最悪のものに。


王宮騎士団を巻き込み、終いには、陛下まで巻き込んでの大騒動。

お父様が方々に頭を下げて終息した。

その結果、コットンは、私への接近禁止。私はコットンを頼らない事を約束させられた。


うーん、苦い思い出だ。


翌日、馬車で王宮へ。

私とお父様は、貴族用の馬車で、今日はリリアーヌも行くので、使用人用の馬車も王宮へ向かう。

準男爵であるコットンは、私への接近禁止命令の為、リリアーヌと同じ使用人用の馬車で、王宮へ向かった。


私は、お父様と二人展示室へ。

展示室の前には、兵士が二人立っていた。


イミテーションなのにご苦労様です。


「昼には、迎えが来るからね。そっちで昼食をとるといい。」


「はい。」


私は素直に返事した。


展示室に入り、私に簡単な説明をして、お父様はお仕事へ向かった。


さて、何処から手を付けよう。

折り畳み式の軽い椅子を貸し出して貰っているので、どこからでも、とっかかり可能だ。


とりあえずは、簡単そうなネックレスを。


ふむふむ。

軽くデッサンをするわけだが。

手慣れているな、私。


うーん・・・、美術部だったような?

部長だったような?

そんな気がする。

曖昧だけど。


とりあえず、軽く2つをデッサンした。


よしっ!

大物をしとめるかっ!


私が3つ目に選んだのは、胸飾りかという様な豪奢なネックレス。

手応えがありそうだ。


カリカリカリ・・・。


カリカリカリ・・・。


私はデッサンに没頭した。


「ふう・・・。」


仕留めてやった!

かなりの時間を要したが、何とか終了した。


ふと視線を感じる。


何だろう?


振り返ると私の方を見ている一団が居た。


豪奢な衣服に身を包んだ女性。

お母様と同世代くらい。


それを取り巻く3人の側仕え。


休憩スペースのような場所に、座り、紅茶を飲みながら、こちらを見ていた。


「・・・。」


絶句した。

絶句する以外、どうしろと?


ここは展示室。

貴族以外、入れない。


が、例外はある。


王宮は、王族の住まいであり、王族の側仕えなら、貴族でなくとも、ここに入る事が出来る。


つまり、紅茶を優雅に飲んでいるお方は、あのお方だ。

お母様が、あの女と呼んでいる・・・。


お母様の娘が、展示室に来ているということで、見に来たのだろうか?


えっ?めっちゃピンチじゃない?

粗相をしたら、18歳を待つまでもなく終わってしまいそうな・・・。


私は、おどおどしながら、私を見ていた一団に近づいた。

そして、丁寧に挨拶をする。


「お初にお目にかかります。アウエリア・ピザートと申します。本日は、こちらにアクセサリーのデッサンに参りました。」


そうやって、頭を下げた。

もちろん、ずっと下げたままだ。


「聞いています。顔を上げてアウエリア。」


私は、ゆっくりと頭を上げた。


「こちらへどうぞ。」


側仕えの人が椅子を引いてくれた。


が・・・。

ここで、座っていいの?

えっ?


戸惑いはしたが、座れというなら座るしかない。


ここは敵地か?

ある意味、敵地な気がする。


「ちゃんとデッサンは出来ている?」


「は、はい。3つほど。」


「見せて貰えるかしら?」


もちろん、断る事なんて出来ない。


例え、貶される事が、解っていてもだ。


「クロエ、どうかしら?」


そう言って、側仕えの人に見せる。


「素晴らしい出来栄えかと。とても10歳が描いたとは思えません。」


側仕えの人は、絶賛してくれた。

まあ、敵陣とはいえ、私は一応貴族だし。


しかし、王妃様は、そうはいかないだろう。

私は、王妃様の敵の娘だ。

そこには、養女とか血の繋がりは関係ない。


「とても素晴らしいわ。アウエリア。」


あ、あれ?


「王妃様、そろそろ昼食のお時間かと。」


「あら、そうね。では行きましょう、アウエリア。」


はい?


何故に私が?

え?

有無を言わさず王宮の中を連れていかれる。

何処へ?


お昼はお父様が用意してくれているんでは?


??

???


ま、まさか、お父様っ!謀られた?えっ?

私に王妃様とお母様の緩衝材になれと?


無理無理無理無理無理っ!

そんなん禿げてまうっ!

貴族令嬢なのに禿げてまうぅぅぅぅ・・・。


気づけば、豪奢な部屋へと案内された。

壁には大きな絵が3枚。


恐らく王妃様と思われる女性の絵が1枚。

王妃様ともう一人女性が描かれている絵が2枚。


うーん、基本自画像がある部屋は、その人の部屋ってのが多いみたいだ。

というのも、貴族の部屋なんて、自分の部屋とお母様の部屋しか見た事が無い。

お母様の部屋には、もちろんお母様の自画像が飾ってあった。


ここは王妃様の部屋?

で、一緒に描かれている女性は誰?


頭に?を浮かべながら、私は絵を見つめていた。


「アウエリアは、絵が気になるのかしら?」


「は、はい。」


「それは私とコンスタンスの絵よ。」


コンスタンス?はて?

何処かで聞いたような?


「私の妹よ。」


王妃様の妹かあ。

面差しも柔らかく美人さんだ。


「といっても、従妹なのだけど、本当の妹のように思っていたわ。」


過去形だ。

という事は、亡くなったのだろうか?

それとも、まさかの王妃様の従妹がお母様だった、なんてドラマのような展開はないない。

そもそも、お母様の名前は、エカテリーナだし、お母様の面差しは優しくない。

私と同じキツネ目で、私が言うのもなんだが、悪役貴婦人の中の女王の様な面差しだ。


「あなたの母親よ。」


「いえ、私のお母様の名前はエカテリーナですよ?」


ちょうど考えてたことを言われたので、私は即答した。


「あら、生母の名前は忘れちゃったのかしら?」


「生母???」


生母=実母・・・。

私の実母は、コンスタンス。


私を産んで直ぐに亡くなってしまったので、私は知らない。更には、フォールド家で、私の母の話をするものは皆無。

実父とは、会話すらなかったので、私が実母の事を知る機会はない。


という事は、この人が私の生母。


私は、ジーっと絵画の絵を見つめていた。


暫くの時間が経過した。

気を使ってもらったのか、誰も私に声を掛けなかった。


「す、すみません。」


私は頭を下げて、謝った。


「問題ないわ。お昼にしましょう。」


王妃様に、言われ、私は王妃様の部屋で昼食をとることになった。


ん?( ,,`・ω・´)ンンン?


王妃様が妹のように可愛がっていた従妹が、私の実母?

あれ?

私と王妃様は縁戚関係者?


何それ・・・。

もしかしなくても、私、最強のカードを手に入れた?


回避だ、回避!!

王妃様の縁戚にある私が、処刑になるはずがないっ!


ふっ、勝ったな。


私は、内心でほくそ笑んだ。

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