第30話

「49点ですね。」


はっ?

何それ?中途半端っ!

半分なら50点でよくね?


「大変おいしゅうございます。」


おおーっ!エルミナからは高評価っ!

おのれ、リリアーヌ、あんた厳しすぎでしょっ。


「ご自分で採点してみてください。」


リリアーヌが挑発したように言う。


私は、一口、自分でいれた紅茶を飲む。


ぐっ、ぐぬぬぬぬっ・・・。


「よ、よんじう・・・きゅうてん・・・。」


いつも最高の紅茶を飲んでる私は舌が肥えている。

その私だからこそ、この点になってしまう。


半分には今一歩、到達していない紅茶。

それが私が、いれた紅茶だ。


「昨日は何点でしたか?」


エルミナが聞いてきた。


「17点よ。」


私はぶっきらぼうに答えた。


「たった一日で、30点以上も上達しています。さすがお嬢様です。」


エルミナが褒めてくれた。


そうだっ!たった一日で、この上達。

昔の偉い人は言いました。

ローマは一日にして成らずと。

ローマと私の紅茶を同列にするのは、どうかと思うが、そういう事じゃない?

うん、そういう事にしておこう。


「明日も楽しみにしています。」


明日も来るんかいっ!


エルミナが去った後、私は、リリアーヌに聞いてみた。


「なんで、エルミナは私がリリアーヌに紅茶をいれてるのを知ってたのかしら?」


「・・・。」


何も答えないリリアーヌ。


あ、あんた・・・自慢したのね・・・。





翌日、午前中は授業。

ダリアは、孤児院へと出向いていた為、一人でおやつを食べた。


いかん、ねむい・・・。


家族が利用する広いリビングでつい、うとうとと。

部屋に戻って、寝ようかなと考えていると。

リリアーヌがソファーに座った。

そして、膝をぽんぽんと叩く。


なるほど、膝枕してくれるわけね。


私はねむねむで、思考能力も低下していたので、遠慮なく、リリアーヌの膝枕で眠った。



「何をしているのっ!」

突然の大声で、私は、びくっとなった。

びくっとなったからには、一瞬で目が覚める。

眠気も吹っ飛んだ。


「そこをどきなさい。」


なんで、鬼になってんの?お母様・・・。

意味不明だ・・・。


お母様は徐にソファーに腰をおろし、膝をポンポンと叩いた。


えっ?

どういうこと?

完全に目が覚めた私に、また寝ろと?

いくらのび子さんの私でも、それは無理な相談だ。


だが、今、この状況で、断れるのか?

いや、無理だ。


私は、大人しくお母様の膝枕に身を沈めた。



何やら気配がする?

びっくりするくらい、私は熟睡してたようだが。

ゆっくりと目を開くと。


私を覗き込むように見ている顔が三つ。


「ほら、アウエリアが起きてしまったでしょう?」

その3人に向けて、お母様が言う。


「いやあ、寝顔が可愛かったもので。」


お父様だ。


「娘に会いたくなってしまったよ。」


叔父様だ。


「姉さん、かわいいです。」


いや、あんたの方が可愛いよ、弟よ。


私は顔を真っ赤にすることしかできなかった。

うん、次から眠い時は、部屋で寝よう。

私は、羞恥心から、そう強く思った。


自室で少し休もうと戻ると。

テーブルにリリアーヌが着く。


はいはい、紅茶でしょ?


どうせエルミナも来るんだろうと思って、部屋の扉を見ると案の定、ノックが。


エルミナとダリアが入室してきた。


何故にダリアまで?


私は、ダリアにも自慢したのかと非難の目でリリアーヌを見た。


「私ではありません。」


リリアーヌはキッパリと答えた。

ということは、犯人は、エルミナか。


「今日は、お嬢様とお茶会が出来ませんでしたので。」

とダリアが言った。


しかし、アレだ。

ダリアがいると緊張してしまう。

ダリアに習っているんだから、それはそうだろう。


平常心、平常心。


私は、いつも以上に緊張し、いつも以上に丁寧に紅茶をいれた。


「合格点です。」

そう言ってくれたのは、ダリアだった。


おおーっ!ダリアに合格頂きましたっ!


「これなら誰にでも出せると思います。」


うんうん、エルミナの評価はいつもいい。


して、リリアーヌは?

「80点です。」


お、おおおーーーっ!

高得点、高得点ですよ?

やりました、やったよ、私。


歓喜の中、一口飲む。


「うん、80点だ。」


満足するとともに、不安がよぎる。


えっ、これ以上何をすれば、いつも飲んでる紅茶に近づけるの?と・・・。


「ご安心ください、お嬢様。明日からも私がお教えいたしますので。」


私の不安を見越して、ダリアが言ってくれた。


うん、それなら安心だ。





翌日のお茶会は、私とお母様、ダリアの3人だ。

ダリアが傍に居ていれる紅茶は、普段の紅茶と遜色がない。

一体、何が違うのだろうか?

細かな違いだとは思うのだが。


「毎日の繰り返しの中、私と一緒の時と、一人でいれた時、何が違うのか考えながらいれてみてください。きっと理想の紅茶に近づけるでしょう。」


ダリアの言葉に私は頷く。


「繰り返しが重要なのね。」


「はい。」


その日の紅茶もお母様に絶賛してもらった。


「昨日は、言い忘れましたが、冒険者のパーシヴァルさんが、お嬢様に相談があるとか。」


ダリアが言った。


「へえ、パーシがねえ。」


ヒャッハーなボスが私に何の用だろ?

監禁中の私なので、相談に乗る事は出来ないのだが。


「その方は、確か、アウエリアを護衛してくださった方かしら?」


「いし拾いの時に、宿の警護をしてくださりました。」


お母様の問いに私が答えた。


「無碍には出来ませんね。等級は?」


なんだ?等級って・・・。


「C級です。」


私が答えあぐねていると、リリアーヌが答えてくれた。


「それでは、当家に出向いてもらうのも厳しいわね。」


「等級が関係あるんですか?」


気になったので、お母様に聞いてみた。


「貴族街に入るには、許可が必要なのよ。商人は商人用の入場許可証が、冒険者には、冒険者用の入場許可証が必要になるの。」


「なるほど。」


「冒険者で、許可証を発行するには、A級冒険者でないと厳しいわね。」


「A級冒険者って少ないんじゃ?」


「そうよ。そもそも冒険者が貴族街に用なんてないでしょ?」


確かに。


「お父様に相談しましょう。」


お母様が、そう言ってくれた。

何が何でも監禁って訳じゃあ、ないのだろう。

王宮にも行かないとだし。


「出来たら、レントン商会にも行きたいんですが。」


「そうねえ、アクセサリーの件もあるし、それもお父様に相談しておくわ。」


おおー、何か知らないが、要望が通ってしまった。


お父様に相談=決まったようなもの。

なんて、考えが私の中にある。


決してお父様を舐めている訳ではない。

うん・・・。


夕食時。


「うん、話しはわかったよ。貴族内に主だった動きはないようだし。構わないよ。」


お、おおーっ!監禁解除キタっ!


「それに、ドワーフ国で、大々的に展示も開催されるようだしね。」


(。´・ω・)ん?


「是非、見に行きたいわね。」


お母様が言った。


「無理を言わないでくれ。」


「何の展示が?」


気になったので聞いてみた。


「テセウスの涙の展示だよ。1カ月くらい開催されるようで、一部の貴族たちは、ドワーフ国へ行くようだよ。」


「へえ。テセウスの涙って何ですか?」


聞いた事あるような?ないような?


「「・・・。」」


何故かお父様とお母様に無言で見つめられた。


「お嬢様がテリーの涙と呼ばれているアレです。」


私の後ろで給仕をしてくれていたリリアーヌが教えてくれた。


「ああ、アレね。展示するのかぁ。行ってみたいな。」


「駄目だ。」


「駄目よ。」


うぉっ。

ダブルで、ダメ出しを食らってしまった。

しかも、お父様から、即ダメ出しを食らうのは初めてではないだろうか?


「テセウスの涙は、ドワーフのディグレットさんが見つけ、物はドワーフ国にあり、ドワーフ国の国宝になったという事を見せつける為の展示だよ。アウエリアは関わらない方がいい。」


「ドワーフ国へ行くなんてもってのほかです。そもそもあなたは、実物を見ているんでしょ?」


見てると言われてもなあ・・・。

見つけた時は、暗かったし、ディグレットさんの前に出したのだって、一瞬だったしなあ。


何よりも、ドワーフ国へ行ってみたいなあ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る