第32話

「アウエリアは、コンスタンスの自画像を見たことがなかったのかしら?」


「はい、元フォールド家でも、ありませんでした。」


「そう・・・。予備の絵もいくつかあるのだけど。」


予備があるのか、さすが王家。


「でも、私が所有しているものは、全て二人が描かれているから・・・。」


それは、そうだろう。王妃様所有の絵画なんだから。


「あなたに差し上げていいものか・・・。」


(。´・ω・)ん?

何かあるの?



大ありだ。

馬鹿か私は。

王妃様が描かれている絵画なんて、もってのほかだ。


ま、まって・・・。

えっ?


誰だ、最強のカードを手に入れたなんて、舞い上がっていた馬鹿はっ!


最強どころか、最凶じゃないっ!

まずい、まずい、ますい。


養女に迎えた娘が、実は敵と血のつながりが・・・。

なんて、ドラマだっ!

見る方であれば、何ら問題もないが、実際身に起こればたまったものじゃない。


あれ?

何かが引っ掛かる。

何だか喉の奥に魚の小骨が引っ掛かったような・・・。


「も、もしかして、私がピザート家に引き取られたのは王妃様が関係していたりします?」


恐る恐る聞いてみた。


「ええ。」


キッパリ、はっきりと答えられた。


おかしいと思っていた。

いくらお母様が娘を欲しがっていたにしろ、自らの家を破滅に追い込むような娘を、宰相家が養女に迎えるだろうか?

普通に考えたら、孤児院まっしぐらだろう。

もちろん、私は、そのつもりだったからいいのだけど。


「フォールド家が取り潰しと聞いて、私は、陛下に離縁を申し出たわ。」


お、大事っ!


「もちろん大事になったのだけども。それを宰相が、養女にしたいと申し出たのよ。」


なるほど・・・、しかし大いに気になる点が。


「お母様は、私が王妃様と血の繋がりがある事は、知ってるのでしょうか?」


「知らないのじゃない?知っていたら、顔を合わせた時に何かしら言ってきているはずだし。」


終わった・・・。

しかし、考えようによっては、これで貴族学院を回避できるんでは?


「ふふふ、何か悪巧みを考えている顔ね。」


「え?」


「コンスタンスも何か悪巧みを考えている時は、そんな顔をしていたわ。」


「わ、悪巧みなんてしていません。今後の事を考えていただけで・・・。」


「黙っていれば問題ないわ。」


「そ、そういう訳には・・・。」


こういう秘密は、後回しにすればするほど、雪だるま式に悪影響が溜まっていくものだ。

私は、決して手放せない最凶カードを胸に、王妃様と昼食を共にした。





午後から王妃様と共に展示室へ向かう。


一人、また一人と側仕えが離れていく。

最後には、私と王妃様の二人だけに。


皆、お仕事忙しいんだろうなぁ。

王妃様だって、仕事はあるんじゃなかろうか?

しかし、まあ・・・。


私は、王妃様の部屋にある絵画で感じ取っていた。

王妃様にとって、私は、最愛の従妹の忘れ形見。

離縁まで申し出る位だ、仕事なんて二の次なんだろう。


私がそんな事を考えてると、王妃様が何やら唱えていた。


あれ?展示室に行くまでに、そんな事するんだっけ?

あれか、居住スペースから、公共のスペースに行く時に必要なのか。


うん、さすが王族だ。

貴族とは訳が違うな。


私が感心していると。

歩く通路のスペースが、物凄く狭くなった。

人一人が通れるくらいの狭い通路。

何だか、隠し通路みたいな・・・。


そして・・・。

着いた先は、凄かった。


何が凄いって、キンキラキンで、眩しすぎる。


ちょっ、ここ、もしかしなくても宝物庫じゃね?

えっ、何してくれちゃってんの、王妃様っ!


「アウエリア、ここの事は、秘密にしておいてね。」


そう言って、可愛らしくウィンクをする王妃様。


いやいやいや・・・そんな軽い悪戯では、済まされないと思いますが?


や、やばい・・・胃が痛くなってきた。

肉体年齢は、まだ10歳なのに・・・。





「さあ、デッサンするんでしょ?ここにも携帯式の椅子があるから、本物を存分にね。」


暴走しておられる、王妃様が暴走しておられる。

誰か止めてあげてっ・・・。

しかし、ここに居るのは私と王妃様だけ。


こうなったら仕方ない。

うん。


私は大人しくデッサンする事にした。


まずは手頃なネックレスを。

ざっと装飾品を見渡す。


あれだ・・・。

全然っ、全然っ、イミテーションじゃねえじゃんっ!


模倣してねえよっ!

別物だよっ・・・。


王族しか入れない宝物庫なら当然か・・・。モノホンを知らなければ偽物も作れんわな。


私は呆れながら、デッサンに取り掛かった。


3つほど、デッサンして思った事は、モノホンは、骨格というか、デザインの根本が同じだ。

何か意味があるのだろうか?

根本が同じだけで、デザインが似通ってるわけではない。土台の系統が同じというか、説明しにくいのだけど。


うーむ・・・。


そうして、私は思い出す。

王妃様のことを忘れてたっ・・・。

不敬にも程がある。


焦って王妃様の方を見ると、ニコニコしながら私をずっと見つめておられた。


「す、すみません。集中してて・・・。」


「こうしてアウエリアを見ているだけで、私は幸せですよ。」


重いっ!重すぎる。

王妃様の愛が重すぎます・・・。


胃が、胃が・・・。


宝物庫を後にした私は、王妃様の部屋で遅めのティータイムを。


「あら、クロエは何処へ?」


王妃様が、側仕えの人に聞いた。


「それが・・・。」


何だろ?問題でも?私が原因とか辞めてね・・・。


「リリアーヌに呼び出されまして・・・。」


ちょっ、り、リリアーヌっ!何してくれてんの?

えっ?王妃様の側仕えを呼び出すって何様?


「あらあら。それにしてもアウエリア、あなたの側仕えはリリアーヌなの?」


「は、はい。ご迷惑をおかけして。」


私は素直に謝った。


「展示室に居ない事がバレたようね。クロエが可哀想だし、今日の所は、ここでお開きね。」


王妃様とのティータイムが無事に終了した。

無事か、これ?





「何を訳のわからない事を、さっさとお嬢様を探してきなさいっ!」


リリアーヌの怒号が響き渡る。


「何度も言っているでしょう。アウエリア様は王妃様とお茶をしておりますと。」


クロエが、嫌そうに応答している。


何、あの二人、知り合い?


「リリアーヌ、御免なさいね。」


王妃様が、リリアーヌに謝罪した。


リリアーヌは王妃様が姿を現すとともに、一歩下がり頭を下げた。


「アウエリアとのお茶が楽しくて、時間を過ぎてしまったわ。」


「お騒がせして申し訳ありません。」


顔をあげることなく、謝罪するリリアーヌ。


「帰りは、どうするの?アウエリア。」


「お父様が迎えに来てくれます。」


そう、話しているとお父様が、来てくれた。


「今日はとても楽しく過ごせたわ。こういう時間は頻繁にお願いしたいわね。」


王妃様がお父様に告げた。


「で、出来る限り。」


そうして帰りの馬車の中、私はお父様に問い質す。


「私と王妃様の関係を、お母様はご存知ですか?」


「いや、エカテリーナは知らないよ。」


「では、帰ったら直ぐにお伝えください。」


「・・・。」


「お父様っ。こういう事は、後になればなるほど、悪化するものです。」


「それは、解ってはいるんだが・・・。」


「最悪、私が孤児院に入る事になっても構いませんので。」


「無茶をいう。王妃様がまた離縁を言い出すじゃあないか。」


困った王妃様だ・・・。


「そうだ。最悪、サスロの所へ行くというのはどうだろう?」


「叔父様のところに?」


「ああ、そうだ。そうしよう。」


名案を閃いたみたいに、告げるお父様。


「まあ、私はそれでも構いませんが。」


「では、帰ったら、3人で話そうか。」


「2人で、ではないのですね?」


「・・・。」


お母様には可愛がってもらって、感謝の念しかない。

しかし、私はお母様の敵の血を引いている。

残念だけど、仕方がない。


さて、アーマード家に行ったら、どうやって貴族学院を回避しようか?

私は思案する。


きっとここに王妃様が居たら、「何を悪だくみしているのかしら?」と言われる事だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る