第28話
エヴァーノの部屋に入って直ぐに目に入ったのは、桶の様なものから、漬物を出しているエヴァーノの姿だった。
漬物・・・よね?
「エヴァーノ、それ何?」
「キュウリの漬物だよ。」
当たった。
しかし、見た感じ糠っぽくはない。
そもそも糠ってあるのか?
お米を見た事ないから、あるかもわからない。
そういやあ、麬(ふすま)でも、ぬか床作れるというのは、見たことがある。
海外赴任した人たちが、ブログで書いていた。
しかし、変な皮って、どんな漢字やねん・・・。
「塩漬け?」
「よく知ってるじゃないか。食べてみるかい?」
「是非。」
「切ってくるから、ちょっと待ってな。」
なぬっ!
「エヴァーノ、私が切りたいっ!」
「駄目です。」
即座に、リリアーヌからダメ出しが。
「約束しましたよね?」
してねえよっ!
リリアーヌには、ダリアの前以外で、包丁を使うなと注意はされたが、約束はしていない。
まあ、それを言っちゃうと屁理屈と取られて、今後、いちいち約束を交わす事になったら、煩わしいので言わんけど。
「お嬢さんは、包丁が使えるのかい?」
「少しなら。」
「エヴァーノっ!」
リリアーヌがエヴァーノを非難する。
「目くじら立てなさんなっ。お嬢さんも、10歳だろ?包丁位使わせても問題ないだろ?」
「年齢の問題ではありません。貴族令嬢が包丁を使うなんて聞いた事がありません。」
「そりゃあ、今の時代はそうだろうけど。」
「ダリアの前でしか、練習しないとお嬢様は約束されております。」
うぐっ・・・、そっちは、誓ってしまった。
誓ってしまったのだよ・・・。
「おやおや、あんたがダリアのいう事を聞くなんて、槍でも降るんじゃないかい?」
「はあっ?私がダリアのいう事を?」
「ここには、私とあんたが居るんだよ?お嬢さんに万が一もないだろう?それとも包丁を扱うのは自信がなかったんだっけ?」
「そんな事は、ありません。私が包丁を扱えるのはエヴァーノだって知ってるでしょうに。」
「じゃあ、問題ないね?」
「・・・。」
お、おおーっ!
リリアーヌを言い負かしおった。
さすが、元上司っ!
という事で、包丁を使える事になった。
もちろん、ダリアやリリアーヌが居ない所で使わない事を約束させられたけど。
エヴァーノは、料理長やダリアのように、猫の手を連呼しないので、煩くなかった。
水洗いして、水気をきっちりふき取った、キュウリを切っていく。
丁寧に、慎重に。
「最初のうちに、怪我する事は殆どないのさ。一番、気を付けなきゃあいけないのは、慣れた時だ。それは忘れないように。」
「はい。」
私は、エヴァーノの言葉に、素直に返事をした。
漬物を切り終わり、私が席に着くと、リリアーヌが紅茶を用意しようとしたが、エヴァーノが止めた。
「貴族の飲み物ではないんだがね。せっかく手に入ったからさ。それに漬物にはこっちの方があうから。」
そう言って、エヴァーノが用意してくれたのは、緑茶だった。
あったのか緑茶。
まあ紅茶があるなら、あるんだろうとは思ったが。
緑茶や紅茶は、言わずもがな中国発祥。
4000年の歴史は、伊達じゃない。
ちなみに黒茶(武夷茶)っていう、お茶もある。
「何故、一回、カップにお湯を?」
リリアーヌがエヴァーノに質問をした。
「緑茶ってのは、そうやって煎れるのさ。」
先に食べるのも飲むのもリリアーヌが先。
「美味しいとは思えません。茶葉だけで、何も入れてないじゃないですか?」
「緑茶ってのは、そういうもんさ。」
私は、一口緑茶を飲む。
ああ~、落ち着くわ~。
そして、ポリっと漬物を。
「やっぱり、漬物には緑茶があうわ。」
「さすが、お嬢さん。よく分かってるじゃないか。」
「渋みというか、えぐみがあります。お嬢様は平気なのでしょうか?」
「後味はスッキリとした清涼感がない?渋みは残らないはずよ。」
「確かにそうですが・・・。」
「それに、この漬物に、どんな紅茶が合うの?」
「・・・。」
リリアーヌは、黙り込んでしまった。
そもそも漬物にあう紅茶なんて存在するのか?前世では、コーヒーを飲みながら、漬物をボリボリと貪る、お年寄りは多数存在してたけども。
「それにしても、緑茶って何処にあったの?」
「紅茶と同じで、アーマード領産さ。」
「じゃあ、叔父様たちが運んできたの?」
「そうだよ。アーマード領で、緑茶を飲むのは、平民だからね。だから王都でも緑茶は、取り扱ってないのさ。」
そういう事か。
欧米でも、最近は緑茶も飲まれるようになってるけど、昔は、紅茶のみだったみたいだし。
高級感は、紅茶の方があるって事なんだろう。
それに、紅茶に入れる砂糖や蜂蜜なんかは、高級品であるし、何も入れないでいい、お茶の方が、庶民には手が届き易いって事か。
「朝に、お茶の日があってもいいかも。」
ボソっと私が呟くと、リリアーヌがお茶の入れ方のレクチャーを受けた。
ちょっとしたティータイムが終わり、屋敷の外に出るとクロヒメに纏わりつかれた。
「ふふふふふん」
なにかちょうだい。
私に、纏わりつくんじゃない。何か欲しいならエヴァーノに言いなさいよ。
やれやれという感じで、エヴァーノが果物を用意してくれた。
監禁生活3日目
午前中、脳筋の授業をサクッと終わらす。
こいつ、なんなの?
マジで、私を騎士にする気かっ!
午後、リリアーヌと厨房へ。
「お嬢様、約束を破りましたね。」
「破ってません。」
「私のいない所で、包丁を持たないと約束しましたよね?」
「いえ、一人の時は、持たないと約束したのよ。」
「言い訳ですか?」
こわい、こわいっ。
「そ、そうよね、リリアーヌ。」
怖いので、リリアーヌにぶん投げた。
「その通りです。」
リリアーヌがそう言った途端、火花が舞い散る。
バチバチバチっ!!
私たちが厨房に来た時点でサントンを始めとした若手は、既に避難していた。
料理長を含むベテランしか居ない。
「どういうつもり?」
「別に構わないでしょう?一人の時は持たないと言っておられるのだから。」
「・・・。」
「・・・。」
無言でみつめ・・・いや、睨みあう二人。
ここは、戦場か?
厨房ですがな・・・。
「約束が守れていないようなので、本日は、包丁の練習は致しません。」
な、なんとっ!
「では、お嬢様。エヴァーノの所へ行きましょう。あちらでなら練習可能です。」
おおっ!リリアーヌ。ナイスアイデアっ!
「お待ちください、お嬢様。今日は、こちらの野菜を薄く切って頂きます。」
色んな野菜があった。
不格好だったり、切れ端だったりと。
「野菜チップスを作るの?」
「はい、孤児院用です。」
ならば、やるしかないっ!
その後、ダリアの猫の手の連呼に悩まされながら、丁寧に野菜を切っていった。
不格好ではあるが、なんとかチップスに出来る薄さに切れたと思う。
味見で1枚だけ、食したのだが、出来立ては別格だった。
監禁生活中の私は、孤児院へ出向くことが出来ないが、いつものサントンとダリアが出向くそうだ。
うーむ、うらやましい。
おやつは、ビスケットだ。
バターやクリーム、蜂蜜、果物と色鮮やかな為、孤児院には向いてないお菓子だ。
「紅茶をいれてみますか?」
「いれてみたい。」
某刑事ドラマみたいにやってみたかったんだよねえ。
「お嬢様には無理です。」
リリアーヌに言われた。
無理って・・・。
「大丈夫です。私が教えますので。」
どうしたダリア?
やさしさ100倍じゃね?
エヴァーノの所へ行くってのが堪えてるのか?
「紅茶は必ず、汲みたての水を使用してください。」
ふむふむ。
若干荒く、湯を沸かす鍋に注ぐ。
魔導コンロに掛け、沸騰させる。
しかし、この魔導コンロ、ガスコンロよりもスリムで便利だなあ。
水が沸騰したら、直ぐに透明なティーポットにお湯を注ぐ。
一気に紅茶の香りが広がる。
「ここで、ジャンピングを。」
キタっ!お待ちかねのアレだ。
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