第27話

私、監禁されています。


突然何を宣言してるかと思われるかもだが、実際、監禁されている。


屋敷内から出てはいけない。


さて、その屋敷内はというと。

広大な庭?も屋敷内に入る。

ちなみに私が踏み入れたことなかった裏庭だが、めっさ広い。

前世の田舎の町くらいだ。


行動範囲から言えば、町に監禁されたと言っても過言ではない。

そんなの監禁ではないと言われるかもだが、前世では立派な監禁罪だ。

そもそも、刑罰的には、軟禁なんて用語は無いしね。


いやあ、裏庭を散策するだけで、どんだけ時間が掛かるんだろうか?

なんか、ワクワクしてない?私。

監禁されてるのに。


ふふふ。


「よからぬことを考えていませんか?」


突然、リリアーヌに言われた。


「考えてないよ?」


「本当ですか?」


「本当よ。」


「裏庭を探検しようとか思ってませんか?」


「思ってるわよ?」


「・・・。」


「え?何?駄目なの?」


「お嬢様にとって、屋敷内とは、庭も全て含めた事を言うのですね。」


「普通、そうじゃないの?」


「・・・。」


「お母様には言わないでね。」


「決して一人で、探検しないと約束して頂けるなら。」


「わかったわ。」


ピザート家は、領地なし貴族だが、王都内の屋敷(庭を含む)の広さは、王宮に次ぐ広さだ。

私が住む本館だけでなく、屋敷の数も多い。そりゃあ前世の町クラスの広さなんだから、建物が多くあって不思議はない。

アーマード伯爵が滞在する為の屋敷もある。

アーマード伯爵以外の屋敷も多数存在する。

ピザート家派閥の方たちの王家滞在用の屋敷だ。

領地持ち貴族たちも、年に何回かは王都に滞在しないといけない為、皆、滞在用の屋敷ないし、常宿を確保している。

うん、貴族は大変だ。


「お嬢様、王宮の展示室の件は、どうなりました?」


あっ、忘れてた。

というか、監禁中だぞ、私は・・・。


「私、監禁中なんだけど?」


「王宮であれば、問題はないかと。」


「そういうもの?」


「聞いてみるくらいは、いいのでは?」


「なるほど。」


アーマード伯爵は、自分の屋敷で寝起きはしているが、食事は、私たちと一緒にとっている。

叔父様なら、私の味方になってくれそうとは思うが、食事の場で言う程、私も愚かではない。


こういう時は、お父様と二人きりでに限る。


出勤前に少しだけ、時間を頂いた。


「王宮の展示室に?」


「はい、デザインの勉強の為、スケッチしようかと。」


「あそこに展示してあるのは、イミテーションだけど?」


「デザインの参考にするんで、偽物でも関係ありません。」


「もしかしてだけど、そのデザインした物は、アレを使うのかい?」


「多分、ディグレットさんが、そう言ってましたし。」


「・・・。」


いや、解るよ。

アレを使うのか?って思うよね、そりゃあ・・・。


「まあ、考えておこう。」


監禁中だという事は、関係ないみたいだ。

うん、リリアーヌの言うとおりだ。

言ってみるもんだな。


リリアーヌが仕事で席を外してる為、私は一人だ。

本館から出ないように口が酸っぱくなるまで、言われたので、出ないでおこう。

となれば、向かうは、厨房だ。


令嬢が厨房に入るのは問題行動だと、お母様には言われたが、行くなとは言われていない。

これ大事。


どうせダリアが居るのだろうと思っていたが、居なかった。


ありゃあ・・・。


厨房を見渡すと料理長と目が合った。

私は料理長を手招きした。


「何でしょうか、お嬢様。」


「包丁を練習したい。」


「えっ?」


「包丁を練習したい。」


大事な事だから2度・・・、いや、えって聞き返すから2度言った。


「し、しかし、お嬢様。包丁は非常に危険で。」


「うん、知ってる。」


「お嬢様には、まだ早いかと・・・。」


私は、辺りを見渡した。

サントンを見つけた。


「サントンは、何歳から包丁を握ったの?」


「お、俺ですか?8歳くらいだったかなあ。」


物凄い顔で、料理長がサントンを睨んだ。


「私は、10歳よ。」


「・・・。」


料理長は何も言えなくなった。





「猫の手ですよ。お嬢様、猫の手。」


猫の手、猫の手、うっさいわっ!


「包丁の腹から、中指の第二関節を離さないように。」


普通、第一関節じゃないの?と思ったが、子供だから第二関節だそうだ。


包丁の腹から、中指の第二関節が離れない限り、間違って左手を切ることは無い。


うん理論は知ってる。


やるとなれば、なかなか旨くいかない。

練習という事で、料理長が大根を出した時には、かつら剥きキタっと思ったが、違った。


ベティナイフで、大根を輪切りにしていく。

不揃いだが、怪我することなく終えた。


「お嬢様、包丁を置いてください。」


言われんでも、置くっての。

何か料理長、声が震えてない?


包丁を置くと。


「ふぎゃっ。」


背後から誰かに抱きかかえられた。

いきなりで、変な声が出てしまった。


リリアーヌめっ!


台から抱き下ろされた私は、犯人の顔を見上げた。


リリアーヌじゃなかった。

鬼の形相をしたダリアだった・・・。


ちょ、ダリア、マジ怖いんだけど。


「さて、料理長。説明を。」


「え、あ、いや、その・・・。」


「違うのよ、ダリア。私が無理言って練習させてもらったの。」


ジッと私の瞳を至近距離で見つめる。


こわい、こわいっ!


「今後、包丁を持たないと誓えますか?」


「誓えません。」


「・・・。」


いや、だって、せっかくなら料理してみたいし。前世だと懇切丁寧に教えて貰う為には、金がいるわけで。

その点、今だと、ノーマネーで、教えてくれる人多数っ!

こんな機会を逃す手はない。


「私が見ている時以外は、持たないと誓えますか?」


「えっ、それだとダリアが居ない時に練習できないし。」


「でしたら、奥様に報告します。」


「ま、待って、誓います。」


「本当ですね?」


「はい。」


さすがに料理長には悪いので、もう頼めない。

が、リリアーヌさえ、何とかすれば、ダリアが居ない時も練習できそうだ。


どうせ、リリアーヌとダリアは、仲が悪いし。


「まあ、いいでしょう。」


ほっ。


「せっかくなので、お嬢様に切ってもらいましょうか。」


そう言いながら、ダリアは、焼きたての四角いパンを料理長から受け取っていた。


「パン?」


「そうですね、かぼちゃパンです。」


おおー、美味しそうだ。


今度は、均等になるように切っていく。

猫の手と連呼するのが、料理長からダリアに変わっただけで、煩く言われるのは、変わりない。


切り終わると、使用人の休憩スペースであるテラスで、いつものプチお茶会。


今日の紅茶には、蜂蜜が入っていた。


旨いっ!

もちろん、かぼちゃパンも旨い。


その夜、別の仕事を終えたリリアーヌが戻ってきた。


「お嬢様、包丁を使ったようですね。今後、ダリアの前以外では使わないようお願いします。」


ぬおっ、ぎょ、業務連絡だと?

仲悪いんじゃないのかよっ・・・。





監禁生活2日目。


朝の授業を終えると、午後からエヴァーノの所へ向かう。本館を一歩出ると、即座にクロヒメに捕まった。

いつもより強めに、顔を寄せてくる。


「はいはい、わかったから。」


そう言って頬を擦る。

今日は、離れそうにないな。


仕方ないので、そのまま、エヴァーノの所へ。


畑にエヴァーノは、居なかった。

エヴァーノは、使用人が住む屋敷の1階で暮らしている。

使用人用の屋敷は、畑のすぐ前にあった。


「屋敷の方かしら?」


「おそらく。」


ということで、屋敷の中へと入っていく。

クロヒメまで入ってきそうだったので、何とか押しとめた。


「エヴァーノ、いる?」


1階のエヴァーノの部屋の前で声を掛けてみた。


「お嬢さんかい、入って構わないよ。」


そう言われたので、私とリリアーヌ、二人で、エヴァーノの部屋へ入室した。

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