第26話

「元気そうで、何よりだ。アウエリア。」


貴族っぽいおっさんに挨拶された。

多分、叔父様だと思う。

思うが、間違えたらアレだし・・・。


「アーマード伯爵様です。」


キタっ、天の声ならぬ、リリアーヌの声。


「始めまして叔父様。」


「うむ。」


「叔父様は、どうしてこちらに?」


「ちょうど王都に滞在する季節なんでな。兄上からアウエリアの護衛を頼まれ、ここで待っていた。」


「はっ?私の護衛なら、既に居りますが・・・。」


おいおい、これ以上増えるの?えっ?


「まあ、ついでだ。気にするな。」


何だろう、後ろの方で気配がする。

振り向くと、クロヒメがジーっとこちらを見ていた。


はいはい、疲れてるんでしょ?


「すみません、叔父様。馬を労ってきます。」


「ああ。」


「お嬢様、角砂糖を。」


「ありがとう。」


リリアーヌから手渡された角砂糖を、クロヒメの前に差し出す。


「まったく、勝手に付いてくるから疲れるでしょ?」


「ふふふふん。」

大したことないと言っている。


はいはい。


私はいつものように優しく頬を撫でた。


「それは、うちに居た暴れ馬ではないか?」


叔父様は、警戒して少し離れた場所で、聞いてきた。


「はい、アーマード家から預かっている馬です。名前はクロヒメです。」


「随分と慣れているようだが、人嫌いではなかったのか?」


「男嫌いっぽいです。」


「ふむ、そうか。なら私は近づかない方がいいな。」


「はい、すみません。」


「アウエリアは、クロヒメに乗れるのか?」


「ええ、まだまだですけど。」


「10歳から馬に騎乗できるとは、さすがピザート家の娘だな。」


ふははははっ


叔父様は、豪快に笑った。


いやあ、本当のピザート家の娘だったら乗らないと思いますよ・・・。





合流ポイントで休憩を終えると、再び走り出す。

次は、屋敷まで、ノンストップだ。


50名以上の兵士に守られながら、馬車は行く。


って、これ何の集団?


そこで、ふと思った。


「王都の街に入るのかしら?」


「いえ、入りません。」


リリアーヌが答えてくれた。


「どうやって帰るのよ?」


「裏門から入ります。」


「うら?」


「はい。」


「そんなものが?」


「屋敷の裏側には、広大な土地が広がっていますので、そちら側に、裏門があります。」


「初耳なんだけど。」


「お嬢様は前科がおありですから。」


「うっ。」


「前科って何ですか?」


エンリが聞いてきた。


「勝手に屋敷を抜け出して、一人で街中へ出て行かれました。」


「えっ?街中って平民街ですか?」


「はい。」


「え?だって貴族門がありますよね?お嬢様一人で、抜け出せないと思うんですが?」


「お嬢様は、平民っぽい服装で、下働きを装って貴族門を抜けたようです。当時、屋敷の門番も、お嬢様の顔は知りませんでしたので、同様に。」


「悪質ですね・・・。」


「はい、大変、悪質です。」


なんだ、なんだ?私が悪者みたいに。


「ちょっと街中へ行きたくなっただけなのに、何故、悪者扱い?」


「お嬢様、何者かに変装するのは、冒険者にとっては日常茶飯事。向いてますよ、冒険者に。」


うん、ヘスティナは黙ってて。


私は、ヘスティナを目で制した後、スルーした。


暫くして、馬車が停車。

到着したのかな?

その後、ちょっとだけ馬車が動く。


「アウエリア、降りて皆に挨拶しなさい。」


馬車の外から叔父様に声を掛けられた。


挨拶?

誰に?


馬車から降りると、100名以上はいる兵士たちが、整列していた。


なんじゃこりゃ・・・。


「無事、アウエリアが帰還した。」


叔父様が宣言する。


帰還って大げさな。

別に遠くへ行ってたり、戦地に行っていた訳ではない。

ただ、ちょっと王都内に宝石(いし)拾いに行っていただけだ。

ちょっとした小旅行と、そう変わらんだろう。


「さあ、アウエリア、皆に挨拶を。」


ぬおっ・・・、叔父様・・・何て無茶振りを。

仕方ない。


「皆、心配を掛けました。私は無事です。」


これ位なら言えるのだよ。中身大人だし(多分ね)。


「「「おおおーっ!!」」」


うわっ、ビックリした。


兵士たちが一斉に、雄たけびを上げた。


大げさ、大げさすぎる。

めっちゃ、恥ずかしいわ。


兵士たちの先には、豪奢な馬車が一台。

うん、言わずもがな、お母様の馬車だ。


馬車から降りたお母様が、小走りに寄って来る。

優雅な小走りなのに、速くね?

めっちゃ速いよ、お母様・・・。


ガシっ!


私を強く抱きしめる。


「無事で何よりです。」


「ご、ご心配をお掛けしました。」


「本当に、まったく・・・。」


いや、大げさすぎですよ?本当。


「やはり、屋敷から出すべきではないのかしら?」


耳元でボソっと言われた。


怖い怖いっ!監禁宣言ですよ、それっ!!


「義姉上(あねうえ)、今回もお世話になります。」


「娘の護衛、感謝します。アーマード伯爵。」


そう、丁寧に言いながらも、私を離そうとしない。


「屋敷の方は、いつも通り、準備が整っています。」


「忝い。」


「さて、私たちも、屋敷に戻りましょう。」


そう言うと、お母様は、私を抱えた。


えっ、ええーっ?

体重を計った事なんてないが、これでも10歳。小柄とは言え30キロは、あるはず。


その私を抱っこしたまま、自分の馬車へと向かう、お母様。


「ちょっ、お母様。エンリや、ヘスティナ、それにスザンヌも居ますので。」


「リリアーヌ、後は任せます。」


「承知いたしました。」


かくして、私は、お母様の馬車で、屋敷へと連行されてしまった。





お父様が帰宅して、私、お母様、お父様、叔父様の4人で話し合いが行われた。

事前に詳細は、お母様がリリアーヌから聞いていた。


「さすがに、2日前の事なので、王都では、噂すらあがっていない。」


お父様が言われた。


「しかし、噂にはなるだろう?テセウスの涙だし。」


叔父様が言う。


「ディグレットさんが、自分が発見したと噂を流してくれたのだったね。」


「はい、お父様。」


「いつか礼を言わねばな・・・。」


「やはり、アウエリアは、屋敷から出すべきではないでしょう。」


お母様が、とんでもない事を言い出した。


あの呟き、本気?


「義姉上、それはアウエリアが可哀想でしょう?」


叔父様、もっと言ってやって!


「こうも毎回、問題を起こされては、私たちの身が持ちません。」


「なんと、アウエリアは、そんなに問題児だったのか・・・。」


いやいやいや、えっ?

問題なんか起こしたことは・・・。

いや、最初に屋敷を抜け出した事は、問題だと認めよう。うん、仕方がない。

他に問題なんて起こしてないでしょ。


「屋敷から抜け出したり、馬から落馬したり、野菜の収穫をしたり、孤児院へ行ったり、厨房に入ったり・・・、宝石(いし)拾いに行きたいと言い出したりと。」


「屋敷から抜け出した事は、謝ります。しかし、他は、問題行動では、ありませんよ?」


「貴族令嬢としては、問題行動でしょう?」


うぐっ・・・。

それを言われると、言い返せませんがな・・・。


「あなたが、教会へ行く事を許可したから、こうなったんですよ?」


お父様が責められる。

申し訳ない。


「まあまあ、義姉上。元気があっていいじゃないですか?」


「元気があれば、いいというものではありません。」


「とりあえずだ。噂がどうなるか先が見えない。アウエリア、暫くは屋敷で大人しくしておいてくれるか?」


「はい。」


私は素直に応じた。


一旦、自室に戻り、リリアーヌから、あの後の事を、報告してもらった。


ヘスティナは、エンリを商会まで護衛してもらい、スザンナには、色々と馬具の注文をしたとの事だ。


クロヒメの面倒を見て貰ったので、お金を支払うと言ったが固辞されたそうだ。

じゃあという事で、馬具を色々と注文したそうで。

大喜びで帰っていったという事だから、まあいいでしょう。


「私は、暫くは屋敷から出れそうにないわ。」


「暫くで済めばいいですけど?」


リリアーヌが不吉な事を言った。


暫くって、どれくらい?

ふと、前世の記憶から、暫くの意味を探ったが。

あんまり時間が掛からない時と、時間的にある程度長く続く時と、両方で使われていた便利な言葉。


Oh!no なんてこった・・・。

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