第13話
「そう言えば下働きの子に、動物好きの子がいましたね。」
ダリアが、クロヒメをブラッシングしながら言った。
「ほう、そういう人材がうちに。」
「今度、お嬢様に紹介しましょう。」
「ええ、お願いするわ。」
女性しか世話ができないのだ、人材は一人でも多い方がいい。
後日、紹介された下働きの子は、酷く怯えていた。
それもクロヒメにではなく、私に・・・。
なんでやねんっ!
「お嬢様、こちらが下働きのアンです。」
ダリアがアンを紹介した。
「ア、アンです。」
年のころは、16,7歳という感じで。
何故10歳の私に怯える?
怖いか?
悪役令嬢にありがちな、キツネ目だし?
いや、まだ10歳だから可愛いで許される範囲だと思うのだが・・・。
「アンは馬の世話はしたことあるの?」
「た、たまに厩番を手伝ってます。」
「へえ、そうなんだ。じゃあクロヒメの事も知ってるわね?」
「ち、近づかないよう言われてました。」
「そう。」
アンをクロヒメの元へ連れて行った。
いつも通り、クロヒメは初めての人間を見る時は、その人間をじっと見つめる。
一挙手一投足見逃さぬように。
「クロヒメは賢いから、一度覚えたら大丈夫よ。」
「は、はい。」
私はクロヒメの頬を撫でながら、アンを促した。
アンも無事、頬を撫でることが出来た。
ブラッシングで注意することはブラシだけなので、滞りなくブラッシングも終了した。
「アンも仕事がありますから、空いた時間にお世話をお願いします。」
ダリアがアンにそう告げた。
アンは、恭しく礼をして自分の仕事に戻っていった。
やっぱり、クロヒメは、馬具屋の姉ちゃんが言う通り男嫌いだったんだな。
私は、そう確信した。
偶にはエヴァーノの所へ顔を出そうとリリアーヌを引き連れて屋敷を出ると、私は驚いた。
突然、黒くて大きいものが現れたからだ。
言わずもがなクロヒメなんだけど。
私の顔に頬を寄せてくる。
「クロヒメ、自由すぎよ、あんた・・・。」
私は呆れた。
こんなに自由気ままに厩舎を抜け出していいのだろうか?
私がエヴァーノの元へ歩き始めると、クロヒメも私に並んで歩き始めた。
「あんた、今から行く畑で、勝手に野菜食べたら、馬肉にされるわよ。」
一応、注意しといた。
理解してるか、わからんけど・・・。
「おや、お嬢さん、珍しいね。なんだい、その馬は。」
「えーと、クロヒメって言うの。アーマード家から当家に預けられた馬よ。」
「おやおや、同郷じゃないか。艶々しい黒で、美しい馬だねえ。」
「ふふんっ。」
美しいと言われて喜んでいるようだ。
本当にチョロインだな、あんたは・・・。
「触っても大丈夫かね?」
「ええ、大丈夫よ。」
エヴァーノは、クロヒメを優しく撫でた。
「そうだ、ちょっと待ってな。」
そう言って、エヴァーノは桶いっぱいに入ったリンゴを持ってきた。
リンゴを美味しそうに食べるクロヒメ。
私は、そんな食いしん坊のクロヒメから、畑へ視線を移した。
ふむ、まだ収穫できそうな野菜はないな。
それにしても広い畑だ。
エヴァーノが趣味で始めたはずが、その辺の農家と比べても遜色がない広さになっている。
「エヴァーノは農家になりたかったの?」
「いんや・・・、さすがに私もこんなになるとは思ってもなかったさ。周りから美味しい、美味しいと言われてね。」
なるほど、調子に乗っちゃったのね。
私は適度に畑の手伝いをして、屋敷に戻った。
もちろん、クロヒメを厩舎に戻してから。
メルディがやってきた。
待ちに待った服の出来上がりだ。
ふんふ、ふーん♪
「こちらが、お嬢様がご希望になった平民っぽい服装です。3パターン用意しました。」
なんだか不服そうなメルディ。
周りを見渡せば、エルミナ、リリアーヌまで不服そうだ。
にこやかに微笑んでるのは、お母様だけだ。
「どう?」
私は1パターン目を試着して、回ってみた。
「平民にしか見えません。」
リリアーヌが言った。
うん、いい出来だ。
というか着心地が半端ない。
なんだこれ、普段私が着ているものよりいい気がする。
「これ、めっちゃ着心地がいいんだけど?」
「はい、最高級の素材を使用しております。」
さ、最高級・・・。
「私の顧客は平民とはいえ富裕層です。その私が平民っぽいデザインをするのは、血の涙を流すくらいの屈辱なので、裏生地に、120%の力を込めました。」
うわあ・・、屈辱だったのね。
って、見えない所に、どんだけ力入れてるのよ。
お母様は気になったのか、他のパターンの裏生地を触っていた。
「とてもいい生地ね。私も一着作ってもらおうかしら。」
「奥様、いけません。」
エルミナが止める。
「裏生地はこれで、もちろん貴族が普段着るデザインにしてもらうわ。」
「畏まりました。」
メルディが恭しく礼をする。
私は平民っぽいデザインに大満足したので3着とも購入した。
しかし、これ幾らするんだろう・・・。
怖いので聞けない。
「メルディ、出来れば、アウエリアのお披露目のドレスを注文したいのだけど。」
「お披露目はいつでしょうか?」
「2年後よ。」
「畏まりました。アクセサリーに合わせたデザインが宜しいでしょうか?」
「そうね、そうしましょう。」
「お嬢様も成長なさるでしょうし、サイズ合わせは当分先で宜しいでしょうか?」
「ええ、あなたに任せるわ。」
「ありがとうございます。」
大きな仕事を受け喜んでいるように見えるメルディと違い、妹のエルミナの方は不服そうだった。
メルディが帰った後、お母様がエルミナに問いかけた。
「メルディに頼むのが嫌なのかしら?」
「姉は、貴族の常識に疎いので、いつ失態を犯すかと思うと。」
「大丈夫よ。メルディだって、ある程度の常識はあるはずよ。アウエリアに比べればね。」
私が比較対象ですか・・・。
「それは、そうですが・・・。」
えっ、それはそうなの?
まるで私が非常識みたいじゃない?
話はそれで終了した。
って終わんなっ!
嫌なことはサクッと終わらせるに限る。
という事で、剣術の授業をサクッと終わらせた私は、乗馬の日に備えた。
勝手に出歩いているクロヒメに、よくよく遭遇する為、暫くぶりの授業という気がしない。
教える役目は、ピザート家の兵士が行うが、そもそもクロヒメに近づけないので、役には立っていない。
基本は、他の馬に乗って習っているので、後は実践あるのみ。
いざ、クロヒメに乗馬っ!
リリアーヌに手伝ってもらい乗馬する。
今日のクロヒメは、大人しい。
と思っていたが、そうでも無かった。
ゆっくりと歩きだしたと思えば、いきなり加速。
最近、思いっきり走ってなかったのか、鬱憤を晴らすような速さだ。
私は、馬具屋の姉ちゃんの様に、背筋を伸ばし華麗な姿勢を保ちたかったが、それどころじゃない。
落ちないようにするのが精一杯だった。
ある程度、距離を走った事で、満足したのか、クロヒメはゆっくりとリリアーヌの待つ元へと向かった。
「クロヒメ、ゆっくりと。ゆっくりと歩きなさい。」
リリアーヌの指示に素直に従うクロヒメ。
「動かないように。」
静止したクロヒメから私を丁寧に降ろすリリアーヌ。
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
「何とかね。落ちない様にするのに精一杯だったわ。」
「クロヒメ、少しはスピードを落として走りなさい。」
リリアーヌがクロヒメに言った。
「まあ、仕方ないわよ。私か馬具屋のお姉さんしか乗れないのだし。」
「毎回、馬具屋の方に来て頂くわけにはまいりませんし、わかりました。私が暇を見て乗りましょう。」
「乗れるの?」
「普通の馬には乗れます。」
何その、出来る女的なのは・・・。
まあでも、リリアーヌの指示にはクロヒメも従うようだし。
「私が乗れない時は、頼むわ。」
「畏まりました。」
無事、乗馬の時間も終わりと思っていたが。
「アウエリア。」
「お、お母様?」
まさかのお母様の登場で、その場は緊迫した空気に包まれた。
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