第11話
元々平民街にある教会への訪問が許可されている為、貴族街にある店に行くのは、あっさりと許可がおりた。
屋敷を出ると、リリアーヌが手を差し出した。
「何これ?」
「手を繋いで歩きます。」
えっ、やだ恥ずかしい。
何でいい年してって・・・私は10歳だった。
「マジで?」
「マジです。」
私は仕方なく、仕方なくリリアーヌに従った。
なんだ、この羞恥プレイは、まるで子供じゃないかっ、いや、子供だけども。
機嫌がいいリリアーヌと違い、私は店に着くまで恥ずかしい思いをした。
くそっ、これなら馬車を使えばよかった。
馬車を使うように言われたのだが、私は、ダイエットの為に、歩きを選んだのだが。
選択肢間違えた、リロードっ!!!
お店に着くと応対してくれたのは、40歳くらいのおっさんだった。
「いらっしゃいませ。」
今日は貴族らしい格好をしてる為、相手も丁寧だ。
「馬具をお探しですか?」
「ええ、聞きたいこともありまして。」
「担当の者を呼びましょう。少々お待ちください。」
そう言って店の奥の方から人を呼んだ。
「何?お父さん。また店番?」
どうやら担当者は娘さんらしい。
「こちらのお嬢様が聞きたい事があるそうだ。」
「ふ~ん、あら可愛いお嬢様ね。いらっしゃいませ、何をお聞きになりたいのでしょうか?」
「私の馬がブラッシングを嫌がるの。そう言った事はあるのかしら?」
「聞いたことはないですねえ。普通の馬は、むしろブラッシング好きですし。どういった馬なんですか?」
「どういったというか、人を寄せ付けない暴れ馬?」
「何歳馬ですか?」
「確か2歳かと。」
「うーん、3歳4歳で落ち着かなければ、去勢した方がいいかもしれませんね。」
「牝馬なんですが・・・。」
「牝馬で暴れ馬ですか、それは聞いたことがないですね。」
「ブラシって色々種類があるのかしら?」
疎覚えだが、確か、フェイスブラシなんて物があった気がする。
「そんなには、ないですね。」
無いかあ・・・。
「一度、馬を見せて頂いても?」
「ここに連れてくるの?」
「いえ、私がお伺いしますよ。今からはどうです?」
「私は構わないけど。」
「お父さん、ちょっと出かけてくるわ。」
そのまま、屋敷に向かう事になった。
「うわー、凄いお屋敷ですね。王都で、これだけ広大な屋敷なんて公爵家でも、無理ですよ。」
そもそも、公爵家なら、自領があるので、王都に領地は必要ない。
「もしかして、お嬢様は・・・。」
まあ、王都で領地かよっ!っていう屋敷を持つ家は、王家か、うちの宰相家くらいだろう。
「お姫様だったんですね。」
なんでだよっ!
お姫様なら王城でしょ?
「こちらは、ピザート家になります。」
リリアーヌが説明した。
「へえ、宰相家のお嬢様・・・?えっ?一人息子って聞いた覚えが。」
「ピザート家はお嬢様と弟君の一男一女です。」
「そうだったんですね。」
馬具屋の姉ちゃんは、領地の広さに驚いていて、空返事だった。
しかし、自分で思っときながら馬具屋の姉ちゃんって凄いな。バグ屋・・・前世だったら裏家業の人やん。
「暴れ馬なので、あまり近づかないように。」
クロヒメの厩舎を訪れ、リリアーヌが説明した。
クロヒメは、訝しげな瞳で馬具屋の姉ちゃんの方を見つめていた。
「うあっ、惚れ惚れするような黒一色ですね。とても美しい。」
「ふふんっ。」
なんだクロヒメ、悪い気はしてないようだな。
あんた、ちょっとチョロインじゃない?
「触るのはマズいですよね?」
「どうかしら?」
私は、トコトコとクロヒメの傍に行き、頬を撫でた。
「機嫌は、いいみたいよ?」
馬具屋の姉ちゃんは、クロヒメの様子を見ながら近づき、注意しながらクロヒメの頬を撫でた。
「随分と賢い馬ですね。」
べた褒めだ。チョロインのクロヒメは、陥落だ。
「ブラシを見せて貰っても?」
馬具屋の姉ちゃんを別の厩舎へ案内して、ブラシを見せた。
「若干、硬めですね。これを嫌がってるのかも。」
「そんなに硬いかしら?」
馬用なら、こんなもんじゃないかなと思ったのだが。
「山羊毛を使った柔らかな物もありますので、それを持ってきましょう。しかしブラシを嫌がるのなら、馬具も嫌がりませんか?」
「さあ?一度しか着けた事がないのだけど。」
「どなたが?」
「リリアーヌよ。」
「嫌がりませんでしたか?」
「私が着ける時は、大人しくしておりました。」
「そうですか。ブラシを嫌がるなら、ゼッケンも変えた方がいいかもしれませんね。」
ゼッケン?競馬で言う番号の事よね?
「ゼッケンって何?」
「ああ、ごめんなさい。ゼッケンというのは鞍の下に敷く物です。」
なんと・・・。番号の事かと思ってた。
「鞍はどうですか?お嬢様には大きすぎませんか?」
「確かに、安定はしなかったわ。」
まあ、振り落とされまくったのは鞍のせいではないが。
「では、馬具一式お持ちします。気に入っていただければご購入ください。」
中々、商魂たくましいね。
翌日、馬具屋の姉ちゃんが、当家を訪れた。
はええよっ!
クロヒメの厩舎の前には、私とリリアーヌ、そして馬具屋の姉ちゃん、その他大勢。
その他大勢というのは、厩番の人と兵士な人達である。
その他大勢は遠巻きに私たちを見てる感じだ。
「ほら、クロヒメ見て、このブラシは柔らかいのよ。」
そう言って、馬具屋の姉ちゃんは、ブラシを掌に充てて、柔らかさをアピールした。
「ぶるん?」
本当に?と言ってるのだと思う。知らんけど。
馬具屋の姉ちゃんは、頬の傍にブラシを持って行った。そして当てることなく、その場で待機した。
クロヒメは恐る恐る頬を寄せる。
自分から、動いてブラシをゴシゴシと頬に当てた。
「ね、柔らかいでしょ。」
「ぶるんっ。」
問題ないようだ。
「じゃあ、ブラッシングするね。」
そう言って馬具屋の姉ちゃんは、ブラッシングを始めた。
クロヒメは気持ち良さそうだった。
私も途中から代わってもらい、ブラッシングした。
ブラッシングの後は馬具の取り付けだ。
ゼッケンはかなりいい素材を使ってるらしい。鞍も女性用で、今までの鞍と比べても小さい。
子供用は需要がないので、無いみたいだ。
「リリアーヌさん、手伝ってもらってもいいですか?」
「畏まりました。ただお嬢様が、乗るのは、まだ控えて貰ってもいいですか?」
「了解しました。」
なんだ、乗れないのか。
着々と装着が行われる。
クロヒメは大人しい。
「クロヒメ、私が乗ってもいい?」
馬具屋の姉ちゃんが、クロヒメに聞いた。
特に何も反応はない。
馬具屋の姉ちゃんは、華麗にクロヒメに乗ると颯爽と駆け出して行った。
何と言っても、姿勢がいい。ピンと真っ直ぐ背筋が伸びてる。
テレビで見たことあるな。
私が感心してるように、その他大勢も感心していた。
素人の私が見ても凄いと思えるって事は、経験者にとっては余計、そう思えるのかも。
戻ってきた馬具屋の姉ちゃんが言った。
「とても賢い馬ですね。それに人嫌いではないようです。」
「そうなの?」
「恐らく男嫌いなのでしょう。今までガサツに扱われた事が原因だと思います。」
馬具屋の姉ちゃんは、クロヒメから降りて、頬をさすりながら言った。
「なるほど。厩番に女性はいるの?」
私はリリアーヌに聞いた。
「いえ、厩番は全員男性です。付け加えるなら、当家の兵士も全員男性です。」
「困ったわね。」
「これまでも何とかなっていますし、直ぐに困ることにはならないかと。」
「まあ、そうなのだけど。」
厩番の件は、お父様に相談するか。
結局、ブラシと馬具一式、全てを買い上げることにした。
我が家の兵士たちも浮足だっており、何やら馬具を購入する流れの様だ。
まったく、男って奴は・・・。
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