第8話
「アウエリアは別に太ってはないわ。ちょっとポッチャリしてるだけよ。」
お母様が、そう慰めてくれたが身内のそれは、太ってると同義語だ。
「お嬢様は太りました。」
リリアーヌが止めを刺してきた。
「ダリアとお菓子を食べるようになったのが原因かと。」
なるほど、それも一理あるが。
10歳と言えば子供だ。
子供は己の体力も考えず、走り回る。
その消費カロリーは大人が考えている以上に多い。
しかし、私の中身は、多分大人だ。
子供の様に駆けずり回ったりしない。
くっ・・・、今更、ダリアの美味しいお菓子が止められるものかっ!
「お母様、私もビルと一緒に剣術を習いますっ!」
ビルは私と一緒に勉強しているのとは別に、剣術を家庭教師に習っていた。
「「えっ?」」
お母様とリリアーヌが声を上げた。
「貴族令嬢が剣術を?」
「剣術が得意な貴族令嬢もいるでしょ?」
いるのかな?
「そういえばあの女も・・・。」
そう言って、お母様の表情が険しくなった。
お母様、あなたがあの女っていうのは、きっとあのお方ですよね?
頼みますから、そういう言い方をやめてください。
「万が一の時、剣術を習っていれば、身を守れます。」
万が一の時なんて来て欲しくはないが。
「でもねえ・・・。」
「お母様、私がこのままおデブちゃんになっても?」
「・・・。わかったわ。その代わり剣術の先生に向いてないと言われたら、やめること。」
「はい。その時は、別の手段を・・・。」
「乗馬はいかかでしょう?ダイエットにも最適ですよ。」
メルディが提案してくれた。
「では、剣術と乗馬を習います。」
「乗馬は、屋敷の兵の誰かに言っておきましょう。」
うちは領地なし貴族ではあるが、私兵は大勢いる。
領地持ち貴族と比べれば数は少ないが、それでも屋敷を守れるだけの兵を抱えている。
私のダイエット計画の草案は終了し、服の試着に戻る。
メルディの服には、余計なものがない。
コルセットはあるが、他の余分なものは、全て排除していた。
「こんなに少なくていいの?」
「コルセットを薄く丈夫なものにしていれば、デザインに関係のない衣服は不要です。」
すばらしいっ!
「姉さん・・・貴族には貴族の・・・。」
「意味のない衣服を重ねることに何の意味が?」
おおーっ!メルディ。あなたは本当に素晴らしい。
「そんな事いうから、キャンセルなんて目に合うのよ。」
「私は、私の服を求めてくれる人だけでいいの。」
「感動しました。メルディ、是非、私の服を作ってください。」
「畏まりました。」
さっそく私は、自分の意見をメルディにぶつけた。
それは前世から、私が抱えている大いなる不満な部分を!
「メルディ、私の服なのだけど、全部、右ボタンに変えてくれるかしら?」
「それは駄目です。」
なっ!!
さくっと却下された。
えっ、なんで?
「貴族令嬢たるもの、左ボタンは常識です。」
な、なんてこったい。
貴族の常識に囚われない素晴らしい人だと思ったのに・・・。
「お嬢様は自分で服が着たいのですね?」
「そ、その通りよ。」
「駄目ですよ、それは。」
くっ・・・。
そもそも左ボタンは、服を着させてもらうのが前提で作られたもの。それをアメリカの権威ある雑誌が、載せた事により、女性は左ボタンとなってしまった。
が、日本は違う。
日本は鶴の一声、いや、すけべ禿の一言で決まった。
そもそも日本で、人に服を着させて貰うなら、和服だろ?何故に洋服まで、着させて貰う必要があるの?
くっそ、すけべ禿めっ!
女体盛を考案した、すけべ禿は、当時こう言ったらしい。
「欧米では女性は左ボタンですが、如何いたしましょう?」
「ふむ、ええんじゃないか?脱がしやすいじゃろ?のう。」
そう言って、下卑た笑いを浮かべたとか、浮かべたとか。
全くけしからんっ!時代が時代なら女性の敵間違いなしっ!
ああ、憧れの右ボタン・・・、異世界でも駄目か。
「お嬢様、デザインは、どういたしましょう?」
「出来るだけ動きやすく・・・。」
「普段用ですものね。ご希望にそえる様に致します。」
「あと、平民街に行っても、目立たないような服も欲しいのだけど?」
「平民街に行くのに、どうしてそのような服を?」
「護衛が居ないし、気軽に街中を歩きたいのよ。」
「平民街と言っても王都ですから・・・、しかし悪人もゼロではありませんよ?」
「だからこそ、目立ちたくないのよ。」
「うーん・・・、奥様、如何いたしましょう?」
「平民街へ行くのは、主人も許可しているわ。アウエリアの希望に沿う物を作ってくれる?」
「畏まりました。では、何着か、作ってまいりますので。気に入った物をご購入下さい。」
うあ、楽しみだなあ。
特に、平民っぽい服がっ!
ダリアとお茶会中に私はダリアに聞いてみた。
「ねえ、ダリア。孤児院に持って行けるような、お菓子はないかしら?」
「うーん、そうですねえ。いつも食べているような物は相応しくないと思います。」
そうだね・・・、材料がそこそこ高価なものを使ってるしね。
「持って行きたいのですか?」
「ええ、出来れば。」
私の様な大した役に立たないような人力だけでは、役に立ってるような気がしない。
「しかし、サントンが休日も手伝いに行っているようですし、そこまで孤児院を気にかけなくてもいいのでは?」
「ちっ」
背後から舌打ちが聞こえた。
言うまでもなくリリアーヌだ。
しかし、サントンやるわね。
人妻だったら、どうしよう・・・。
リリアーヌが喜ぶだけだ。
「孤児院に持って行ってもいいような物があれば、教えて頂戴。」
「わかりました。考えておきましょう。」
「お嬢様、あまり食べられますと、太りますよ。」
リリアーヌが背後から刺してきた。
ぐぬっ、おのれリリアーヌめ。
「大丈夫よ。剣術と乗馬を習うんだもの。」
「お嬢様は気にするような年齢ではないと思いますが?」
「ダリア。10歳っていうのはね。デブになる為のゴールデンエイジって言われているの。正念場なのよ。」
「始めて聞きましたが・・・。」
「普通の10歳っていうのは、その辺を駆けずり回ってるでしょ?」
「そう言われれば、確かに。」
「私は駆けずり回ってないわ。だから剣術と乗馬でカロリーを消費させるのよ。」
「なるほど。しかし、あまり無理はなさらぬように。」
さて剣術の授業初日。
「姉さん、大丈夫?」
ビルが心配そうに話しかけてきた。
「大丈夫よ。多分・・・。」
そんなに怖い先生なのかな?
それにしてもビルは可愛い。
ソネアのメインターゲットになった暁には全力で応援してあげよう。
うんうん。
家庭教師の先生は、何故か王宮騎士の人だった。
何で、外部から?
「お嬢様も今日から始めるとの事ですが、最初に言っておきます。俺は厳しいですよ。」
「・・・。」
うん、乗馬に専念するか・・・。
30分後。
キン、キン、キン。
私は防戦一方。
おい、おっさん。
(と言っても20代後半だと思われるが。)
厳しいにも程があるだろっ!
私は必死になって、家庭教師の攻撃を剣で受けていた。
剣の持ち方や構えなど、最初の基本は10分程度、実践あるのみの脳筋家庭教師めっ!
「よし、いいでしょう。」
何がいいんだよ、この脳筋がっ!
たった一日だが、私は辞める。うん、無理だ、これ。
「お嬢様は筋がいい。」
「え?」
おい、向いてないと言ってくれ、頼むから。
自分からやると言い出した手前、私が剣術の授業をやめることは出来なかった。
くっ・・・、これが自業自得という奴かっ!
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