第7話

「今日は、かぼちゃ羊羹を作りましょう。」


かぼちゃは、先日に収穫したばかりで、余っているようだ。


「美味しそう。」


羊羹は、それ程、好きではないけど、芋羊羹や、かぼちゃ羊羹は別だ。

てか、あれ別物じゃない?


「お嬢様に料理をさせる気ですか?」


リリアーヌが文句を言ってきた。


「リリアーヌ、静かにできないなら、何処かへ行ってもらえる?」


私が強く言うと、リリアーヌは、お口にチャックのポーズをとって壁際に戻っていった。


「かぼちゃをふやかした物がありますので、潰してください。」


私は、ダリアに言われた通りに作業を行った。

こういう潰したりするのは、結構、好きな作業だ。


塩を少々入れて、潰していく。


ダリアが鍋で準備した水に寒天や砂糖、ミルクを混ぜ合わせた物を、少しずつ投入し、更に混ぜていく。


混ぜ~、混ぜ~。


よく混ぜ終わったら、型に入れて冷蔵庫へ。


あれ?これ直ぐ食べれなくね?


「では、いつもの場所へ行きましょうか。」


「ねえダリア、今作ったものは直ぐ食べられないのじゃなくて?」


「ええ、私が午前中に作った物がありますので、それを食べましょう。」


「今、作った物はどうするの?」


「奥様に差し上げます。」


「そ、そうなんだ・・・。」


わざわざ、作る必要あったの?

よくわからんが、まあいいか。


テラスへ行くと、ダリアが紅茶を用意してくれた。

リリアーヌは黙ったままだ。

何か言いたそうだったが、気にしない事にした。


「美味しいっ!」


「喜んで貰えて何よりです。奥様もきっと、お喜びになりますよ。」


「そうかしら?」


「お嬢様が作ったとなれば、喜ばれること間違いなしです。」


「そうであればいいのだけど・・・。」


「お嬢様は、何故、奥様の束縛が多いと思われますか?」


「それは、私が勝手に教会へ行ったからでは?」


「それなら、リリアーヌが既についていますから。」


「うーん・・・。」


「奥様はずっと娘を欲しがっていました。」


「え?だったら二人目の子供を。」


「土地持ちの貴族ではありませんから、二人目が男の子だったら、苦労します。そう言った理由で、後継ぎが生まれた貴族が次をつくらないのは、よくあることです。」


「へえ~。」


「奥様にとって、お嬢様は待望の娘なんですよ。」


そう言われると、スケジュールをほぼ白紙状態にした事は、少し後悔した。


「少しは、奥様の我がままに付き合ってあげてくださいね。」


「そうね。そうする事にするわ。」





翌日、紅茶の匂いに目が覚めると、そこに居たのはダリアだった。


「えっと・・・、リリアーヌは?」


「クビになりました。」


「そ、そう。」


さらばリリアーヌ。

短い間だったけど、あなたの事は忘れないわ。

つうか、忘れられないだけなんだけどね。


「嘘です。」


「えっ?何が?」


「本日は、エルミナが休みの為、リリアーヌが奥様の側仕えを担当しています。」


「何で?」


「?」


「普通だったら、担当がないダリアが、お母様の側仕えになるんじゃないの?」


「今日は、夜会がありますので。」


「???」


「他家に出向く場合は、リリアーヌが同行するようになっております。」


「・・・。」


なんでやねん・・・。


「リリアーヌは、相手が貴族であっても毅然と対応しますし、他家の使用人からも恐れられていますので。」


リリアーヌ、あんたって・・・。


「今日は家庭教師の予定もなく、午前中は空いていますよね?」


「ええ、そうね。」


「でしたら、奥様とお茶会を致しませんか?」


「えっ、午前中に?」


「午後から奥様は、お出かけになりますので。」


「午前中にお茶会なんて、するものなの?」


「ええ、別段おかしい事ではないですよ。」


「そう、お母様のご都合があえばね。」


「了解しました。」


ダリアは、そう言って恭しく礼をした。


なんだろ、安心感があるわ。

本気でチェンジをお願いしてみようかしら。

でも、リリアーヌが怖いから、やめておこう・・・。





「これをアウエリアが作ったの?」


「と言っても、ダリアと一緒にです。私は混ぜただけなので。」


「とても美味しいわ。」


お母様の機嫌は、すこぶるいいみたいだ。


「奥様、お嬢様の服が少し少ないように思います。」


ダリアが言った。


「ええ、そうね。作らないといけないとは思っていたのだけども。」


「服屋を呼んで仕立てては如何でしょう?」


「でも、アウエリアは、そういったことは好きではないでしょう?」


「えっと、お母様と一緒でしたら、色々と選んでもらえたら嬉しいです。」


「まあっ!」


うわっ、お母様のバックに満開になった花々が見えるっ!


「さっそく手配するわ。リリアーヌ、アウエリアのスケジュールを確認してから、日程調整をお願い。」


「畏まりました。」


うん、リリアーヌは不服そうだ。

無表情だが、何だかわかる。





後日、早速服屋が来た。

あれ?レントン商会へ行くのはどうなった・・・。



この世界の服には大いに不満がある。

まず最初に着るのがシフトドレス。

緩やかな寝巻のようなもので、これは別にいい。

次にコルセット・・・。

これだよ、体を締め付けるような言うなれば、メジャー養成ギブスかっ!


で、その上に着るのがシークレットドレス1。

これはコルセットを付けているのが、わかりにくくする為の物。

で、これが1~3まである・・・。


その上がモルディングドレス。

これは形を整えるもので、見た目のデザインには一切関係がない。


で、無地のアンダードレス。

これいる?


で・・・、アンダーデザインドレス。

ここでようやく見た目に関係があるドレスが。


そして、ようやくドレスに行きつくのだが。

パーティー用は華やかなもので、普段用は若干落ち着いたデザインになってるのだが・・・。


普段からこんなに着込む必要ある?

なんなのこれ。


ちなみに伯爵令嬢時代は、一人で着込んでいたので、着る服は大幅に減らしていた。

面倒だし・・・。


「あのシークレットドレスって必要ですか?」


「まあっ!お嬢様、貴族令嬢にとっては常識ですよ?」


服屋のおばちゃんに全否定された。


「あなたは着込んでいるの?」


「私は平民ですので。」


着てへんのかいっ!


「うちは、伯爵家や子爵家といった多くの貴族とお付き合いがありますので、任せて貰えれば、間違いありません。」


うちは、侯爵家なんだけど・・・。


結局、この日は気に入るものはなかった。

というか、私の選択肢0だったので。


それから3つの服屋を呼んで貰ったが、私が気に入るものは何一つなかった。


「すみません、お母様。何度もお付き合いして頂いて。」


「いいのよ。娘と二人で服を選ぶなんて至上の喜びよ。」


至上って・・・。


「でもこのままじゃあ、いつまで経ってもアウエリアの服が増えないわね。どうしましょう?メルディにでも頼んでみましょうか?」


「奥様・・・。」


あっ、エルミナが喋った。


「メルディなら、アウエリアと気が合いそうじゃない?」


「付き合いで断れず貴族の仕事を2件程受けたことがありますが、2件とも意見の相違でキャンセルとなっています。」


エルミナが淡々と説明した。


「お母様、メルディって誰ですか?」


「エルミナの姉よ。服屋を営んでるのよ。平民の富裕層向けらしいわ。」


「へえ、では、次はメルディを呼んでみましょう。」


「お嬢様・・・。」


エルミナは、何だか嫌そうだった。





「いつもエルミナがお世話になっております。」


メルディが恭しく礼をした。

エルミナに似て美人だ。

更に言えばエルミナと違い表情が豊かだ。

じゃないと中々商売は出来ないわよね。


「この度はお声掛け頂き、誠にありがとうございます。」


「本当は何度か呼ぼうとしたのだけど、その度にエルミナが反対するのよ。」


「姉に貴族向けの衣装は無理です。」


エルミナが言った。


「まあ、いいじゃない。娘の普段着を見せてくれる?」


「畏まりました。」


シフトドレスの上にコルセットが巻かれる。


「コルセットって必要かしら?」


とりあえず聞いてみた。


「ええ、必要ですよ。特にお嬢様の年齢ですと、今から成長いたしますので、体形を整えるのに必要不可欠です。」


「なるほど・・・。んっ、ぐわっ・・・。」


コルセットがきつく巻かれる。

ちょっ、もっと緩くてもいいんじゃ?

今までの服屋とは、一味も二味も違う強さだ。


え?もしかして?


「ね、ねえ、メルディ。私、太ってるの?」


「・・・。」


ギャーーーっ!!

まじかっ!

えっ?私、悪役令嬢よ?

ナイスばでぃいは、約束されてるんじゃないのっ!?


私の頭の中で、歌が流れ始めた。


かなりきてる~、太って~る~、ナイスばでぃいは夢の夢♪


なんじゃそりゃっ!!

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