第2話

アウエリア・ピザート。


以前の私と違い、今の名前にはミドルネームが無い。

この世界のミドルネームは、領主を意味しており、いうなれば、今のピザート家は土地なし貴族だ。

ピザート家の元は領地持ちの貴族だったのが、宰相となった時に、弟に家督を譲り、土地なし貴族となったそうだ。

王都で働く貴族には、そういった事が多々あるみたい。


ということで、私は、現在王都に住んでいる。

フォールド領が田舎だった為、都会感が半端ない。

私は、一人で王都を満喫していた。

買い食いなんてしたいけど、金は持っていない。

さすがに以前の様に家からチョロまかすなんて事は出来ない。


養女には、養女なりの遠慮というものがあるのだ。


王都は、大きく分けて貴族街とそれ以外に分類される。私が今、目指しているのは、それ以外、つまり平民たちが多く暮らす場所だ。


マザーに紹介された教会へ入ると、思っていたのと随分違っていた。

王都の教会だから、さぞ凄いのだろうと思っていたのだが・・・。


「田舎と代り映えは、なかろう?」


教会の神父さんが言った。

歳は、かなりいっており、おじいちゃんと言っても言い過ぎではないくらいだ。


「都会だから、もっと凄いのかと。」


「まあ、ここは平民の為の施設じゃからの。」


「貴族は別に教会が?」


「うむ。貴族街に大聖堂がある。」


「なるほど。」


「それにしても随分と信心深いんじゃな?その若さで。」


「いやあ・・・。」


すみません。神様を信じてません。

私は、頭をかくしかなかった。


その後、隣接する孤児院を案内してもらい、簡単なお手伝いをして帰宅した。

金も物も無いから、私が提供できるのは労働力だけだ。

といっても10歳の女の子がやれる事なんて、たかがしれているけどね。


私が屋敷に戻ると。

屋敷内は騒然としていた。


何だ、これ?事件でも起きたのか?


私が飄々と屋敷内をうろついていると、私を見つけた義母が走って寄ってきた。


「お母様、何かあったんですか?」


ガシっと私に抱き着いて来た。


「アウエリア、無事だったのね・・・。」


「は?」

何だ、これ・・・。



私が孤児院を訪れている時、私が居ない事に気が付いた使用人が、屋敷内を捜索。

何処にも居ない事を、義母に報告し、その後、大騒ぎに。


報告を受けて早めに帰宅した義父に、私は事情聴取されることとあいなった。


「アウエリア、何処へ行っていたんだ?」


「教会です。」


「大聖堂か?」


「いえ、普通の教会です。」


「何て事を・・・。」


義母が口で手を多い、驚いている。


ん?私は、外を出歩いてはいけなかったのだろうか?

犯罪者の娘だから?

それならいっそ、孤児院に預けてくれればいいものを・・・。


「私には教会へ行く自由もないのでしょうか?」


「自由だなんて、私たちは、あなたを束縛なんてしてないのよ?」


「はあ・・・。」


じゃあ何が問題なのだろうか?


「普通、10歳の貴族令嬢が、屋敷の外を一人で出歩いたりしないものだ。」


「え?そうなんですか?私は8歳の頃から、自由に出歩いてましたが?」


「「えっ?」」


「田舎と違って、王都は物騒なんでしょうか?」


そうか、前世でも都会は、魔界都市なんて呼ばれていて、薬物や犯罪が、そこらじゅうで蠢いてたからなあ。

そう考えると私の行動は軽率だったかも。


「よし、この話は後日にしよう。色々と意見を集めてみるから。」


義父がそう締めくくると、その日の事情聴取はあっさりと終了した。



翌日。

とりあえず、屋敷の外に出る事は自重し、私は、屋敷内を散策することにした。


それにしても、さすが宰相の屋敷だけはある。庭だけでも、どんだけ広いんだというくらい広い。

東京ドーム何個分?って東京ドームの広さがわからんわっ!あれって皆、大きさを把握してるんだろうか?


屋敷の庭には、花畑は、もちろんのこと、普通の畑までもある。


へえ、色んな野菜を作ってるんだ。


私が畑を見ていると、声をかけられた。


「こんな所に子供とは、珍しい。」


「あ、すみません。畑を管理してる方ですか?」


老婆だし、屋敷内でも見たことないし、恐らく管理してる方なのかと思い、聞いてみた。


「あんたが噂のアウエリアお嬢さんかい?」


「噂ですか?」


「ああ、昨日一人で王都内をうろついたんだろ?」


「ええ、まあ・・・。」


そうか、屋敷内総出で捜索したって言ってたもんな。そりゃあ知らない人は居ないか。

もしかして、私、ちょっとした有名人?屋敷内限定だけど・・・。


「野菜が珍しいかい?」


「いえ、田舎育ちなので、珍しくはないです。」


「田舎育ちと言ったって貴族だろ?貴族の子供が畑を見たことがあるのかい?」


「私は8歳の頃から、屋敷の外を出歩いてましたから。」


「え?」


「え?」


ん?そんなにおかしい事か?

教会に行く途中でも、同じ年代の子が出歩いていたんだが・・・。


「人攫いにあったら、どうするんだい?」


「そんな割りにあわない事する人居ますかね?人身売買は、この国では禁止されていますし、そんなに子供が欲しければ、孤児院に居ますよ?」


それでなくても、孤児院に入れない孤児もいる。

大体、貴族の子供を身代金目的で、誘拐なんかした日には、連座処分で数千人から、下手したら何万人という人が処分される。

はっきり言って、割りにあわない。


「なるほど、お嬢さんの言うことも最もだ。しかしね、犯罪者が皆、利に聡いと思ったら大間違いだよ。後先考えずに何をするか判ったものじゃない犯罪者は大勢いるからね。」


ふむ、確かに畑の管理人が言うこともわかる。

私も自分が普通であれば、危険なことかもしれないと思っただろう。

しかし、私には自信がある。

危ない目に合ったり、死んだりしない理由が。


何故なら、私が「黄昏のソナタ」の悪役令嬢アウエリアだからだ。


うむ、私が死ぬのは18歳。

それまでは、安泰だ。


って何で、確実に18歳で死ぬのよっ!

せめて、延命ルートを用意しときなさいっつうの。


悲しいかな100%シチュコンプした私だから、知っている。悪役令嬢アウエリアさんに延命ルートが無い事を・・・。


「どうやら、覚悟をもってるようだね。まあ、そうじゃないと自分の父親を告発なんてしないだろうがね。」


「ははは・・・。」


笑うしかない、こんな時はね。


「気に入ったよ。私はエヴァーノ。元は筆頭側仕えだったけどね。今は引退して、使用人の館に住まわせて貰ってるよ。」


「へー、そうなんですか。」


「畑は何となく作ったりしてみたんだがね。今じゃあ屋敷で料理に使うまでに、なったのさ。」


「じゃあ、私が食べてる野菜は、ここで?」


「そうだろうね。」


「へえ。」


畑を見回すと、カボチャがいい感じで実ってた。


「明日はカボチャを収穫しようと思ってる。お嬢さんも手伝いな。」


「えっ?」


「野菜の収穫をした事あるんだろう?」


「何故、そう思います?」


「畑を見渡して、収穫時期のカボチャに目を止めたからさ。」


「ははは・・・。」


フォールド領の孤児院には、小さな畑があった。そこを手伝っていたので、収穫の経験があるわけだけど。

私、わかりやすいのかな?



その晩。

食事の前に、義父、義母、私の3人での話し合いが行われた。


「王都の貴族、それから地方の貴族と情報を集めてみたんだが、子供が屋敷の外へ一人で出歩く事は無いようだ。」


態々、調べてくれたんだ・・・。


「アウエリア、教会へは行きたいのかい?」


うーん・・・。

別に懺悔をするわけでなく、何というか伯爵令嬢時代からの流れで何となくって感じなのだが。


「できれば。」


今更、教会通いを辞めるのもなあ。

せっかくマザーから紹介して貰ったわけだし。


「わかった。」


義父は、そう言って、一人のメイドを呼んだ。


「リリアーヌ、今日からアウエリアの専属側仕えとして働いてくれ。」


「畏まりました。」


年の頃は、20代。

物静かな美人さんだ。


側仕えやメイドと言えば聞こえはいいが、要は監視役じゃない?

しかし、異論を唱えることは私には出来ない。

何せ、養女ですから・・・。


こうして、私に専属メイドが着くこととなった。

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