第1話
乙女ゲーム「黄昏のソネア」。
腐女子に大人気だった恋愛シミュレーションゲーム。
普通の乙女ゲームより、トゥルーエンドなのに悲恋で終わるルートが多いのが特徴だ。
主人公は男爵令嬢のソネア。
美人で、聡明で、剣の腕も一流という実際に存在したら女子に嫌われる事間違いないのだが。
もちろんゲーム内でも虐められる。
その虐める筆頭が、アウエリア・レン・フォールドさん、つまり私だ。
舞台になるのは、貴族の子女が通う貴族学院。
15歳から3年間通う事になるのだが。
全てのルートで処刑される哀れなアウエリア・レン・フォールドさん。
これを回避するには、ソネアを虐めなければいい?
いやいや、あの噂に聞く強制力なんてものが働けば、虐めてなくても処刑ルートにまっしぐら何て事も。
そこで、私は考えた。
うん、そもそも貴族学院に通わなければいいじゃない?
現在の私の年齢は8歳。
母親は、産まれて直ぐ亡くなっており、家族は父と継母だ。
父は、私には何の興味もないようで、将来は、どこぞの貴族へ嫁に出す感じだ。
継母の方は、私にどう接していいかわからないようで、殆ど接触は無い。
うん、終わってんな、この家。
父にも母にも見放されたに等しい私が、屋敷内をウロウロしようが、文句を言う人間は、誰一人いない。
父親の書斎さえ入っても、汚したり書類の棚を倒したりしない限り、何も言われない。
8歳の私は、屋敷内でコソコソと、いや堂々と証拠集めに奔走した。
周りからは、子供がウロチョロしているので、不審に思う者も居たであろうが、私は静かに事を運んでいた為、大人たちの邪魔になる事は無かった。
私は周りからも完全に放置されていたので、屋敷の外にも自由に出ることが出来た。
そんな私が出入りしていたのが教会だ。
前世の私は神を信じていなかった、多分。
今も信じているわけでもない。
じゃあ、何故?と思われるだろうが懺悔だ。
私は、懺悔室に入り教会のマザーに懺悔した。
「マザー、恐らく私の家は悪事を働いています。」
「貴族であれば、やむ得ない事もあるでしょう。」
「私が告発すれば、家は取り潰されるでしょう。」
「告発するのですか?」
「はい・・・。」
「しかし、それでは、あなたは貴族ではなくなりますよ。」
「はい・・・。」
「将来が不安なのですか?」
「はい・・・。」
告発すれば貴族ではなくなる。
これで、簡単に処刑回避だ。
しかし、貴族で無くなった後が大変だ。
「ふふふ、私に懺悔しに来たという事は、貴族でなくなった後は、孤児院に入りたいという事ですか?」
マザーには、全部お見通しだったようだ。
「お願いできるでしょうか?」
「貴族のような暮らしは出来ませんよ?」
「はい、宜しくお願いします。」
「いつでも、お待ちしていますよ。」
きっとマザーは子供の戯言と思っているだろうが、私は本気だ。
それからも直直と教会を訪れ、家からチョロまかしてきた物を寄付した。
うん、これぐらいしていれば大丈夫だろう。
そんなある日、少し薄暗い路地裏に蹲って体育すわりしている子供を見かけた。
って私も子供だが。
銀髪で顔はいい。
ん?
よく見ると知ってる人物だった。
と言っても知り合いではない。
まさか、こんな所にロードナーが居るとはっ!!
ロードナー、「黄昏のソネア」では唯一、犯罪者の攻略対象者だ。もちろん悲恋ルートまっしぐらではあるが。
私との関係は・・・?
確か私があくどい事を頼んだ令嬢が、雇った中に居たぐらいか。
うむ、直接的な関係は皆無だ。
「ねえ。どうしたの?」
私が、そう呼びかけると、チラッとこちらを見た後は、また蹲った。
ぐぅ~。
小さくお腹が鳴る。
私じゃないっ!
「お腹が空いてるの?」
何も答えない。
仕方がないので、ポケットに入ってたビスケットを渡す。受け取ると何も言わずに、一気に食べる。
何か言えや・・・。
ゴホッ、ゴホッ。
咽たようだ。
「ゆっくり食べないと。」
私がそう言うと、ゆっくりと食べだした。
身なりはボロボロ、体も痩せぎす。
正直、この国では珍しい銀髪でなければ、ロードナーとは、判らなかったくらいだが・・・。
ロードナー・・・だよね?
「ねえ?名前は?」
「ロ、ロードナー・・・。」
おっし!当たってた!
「一人なの?」
コクリと頷いた。
「じゃあ、ついてきて。」
私はそう言って、無理やり手を引っ張って教会へと連れて行った。
マザーの元へ、ロードナーを連れていくと、マザーは膝を付けて、ロードナーを抱きしめた。
恐らく、一目で孤児だと判断したのだろう。
私もそう思ったし。
「大丈夫よ、もう大丈夫だから。」
そう言って、ロードナーを優しく撫でていた。
いつの間にかロードナーは泣いていた。
そして、マザーの服をしっかりと掴んでいた。
うんうん。
もうちょっと待ってなさい。
私も直ぐに孤児院に入るから!
そうして、2年の歳月をかけて、私はフォールド家の悪事を全てまとめ上げ、証拠も手に入れた。
書類の数字や、内容を10歳の子供がわかるわけないと思われているのだろう。
残念でした、私には前世の記憶が朧げにあるのだ。数字を読むのもお手の物だ。
結論から言えば、私の家は真っ黒だ。
本来なら王家の認可が必要な取引まで、無認可で行なっている。
こりゃあ潰されるよね。
親に証拠を突きつけ改心してもらうなんて生易しいものではない。
最初から、親に出す気なんてないけどね。
この国の宰相は清廉潔白で、曲がった事が大嫌いだ。
何故知っているかというと、ゲームの設定がそうだった。何せ宰相の息子は攻略対象の一人なのだ。
私は迷うことなく、全ての書類を宰相に提出した。
結論から言うと、私の計画は失敗した。
何故こうなった?
フォールド家は取り潰し。
父は幽閉。継母は貴族では、なくなった。
ここまでは、想定内。
私はフォールド伯爵領内の孤児院へ行くはずが・・・。
名前が変わった。
アウエリア・レン・フォールドから、アウエリア・ピザートへと・・・。
ピザート家は、侯爵家であり、現宰相の家だ。
つまり、私は、宰相の養女となった。
ピザート家の一人息子、ビル・ピザート。
黄昏のソネアの攻略対象であり、父親に似て正義感が強い。
ビル・ピザートのルートは、ハッピーエンドで終わるもののアウエリア・レン・フォールドさんは、処刑。
なんでやねんっ!
しかも、このルートでアウエリア・レン・フォールドさんの悪事を次々と解明していくのがビル・ピザートだ。
そんな、そんなこいつが義弟だと?
私とビルは同じ年であるが、生れ月は私の方が早かった為、私が姉となった。
「義姉さん、宜しくね。」
美形ではあるが、まだ10歳。
可愛らしさも兼ね備えていらっしゃる。
うん、私に可愛い弟が出来ましたっ!
いや、ここ喜んじゃ駄目でしょ?
こいつは敵よ、敵っ!
私の計画は破綻した。
平民となって貴族学院へ行かなくていいという、完璧な計画が・・・。
こ、これがゲームの強制力という奴かっ!!!
平民になるどころか、伯爵令嬢から侯爵令嬢へランクアップしとる。
どうしてこうなった・・・。
しかも、義弟は私を慕ってくれているようだし、義父も義母も私に対して超優しい。
ここは天国かっ!
しかし、このままでは貴族学院が回避できない・・・。
駄目だ、何も思い浮かばない。
優しい義弟に、優しい義父、優しい義母。こんな環境が私から思考を奪っていく。
うん、ソネアとお友達になろう。
そんな超消極的作戦しか、もう思い浮かばなかった。
しかし、平和な日常が貴族学院へ入るまで続くと思われていたが、世の中、そんなに甘くは無かった。
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