第3話
お嬢様の朝は、メイドに起こされて始まる。
が、日本産まれ、日本育ちの生粋な庶民の私は、人に起こされる事に慣れていない。
伯爵令嬢時代も、勝手に起きて勝手に身支度をしていた。
それも酷いな・・・。
前世ではスマホにタイマー予約をしていたが、それに起こされるのさえ嫌だった。
大概、5~10分前には起床して、タイマーを切っていた。
ふっ、今日も勝ったな。
そんな感じで、一日が始まるわけだが。
リリアーヌが私の部屋に入ってきたのは、身支度を整えている最中だった。
「お嬢様、貴族令嬢たるもの側仕えが起こすまでは寝ていて貰わないと困ります。ましてや身支度を一人でなんて・・・。」
「昨日までは、一人でやってたわ。」
「では、明日からは貴族令嬢らしく。」
「リリアーヌが来るまで、寝てればいいのね?」
「はい。」
「だが、断るっ!」
いっぺん、言ってみたかったんだ、これ。
「・・・。」
リリアーヌは、何も言わず私をジーっと見つめた。
あ、圧力が凄いっ。
なんて目力なの。
目力を無視して、いそいそと身支度を整える。
リリアーヌは、その後、何も言わず私の後ろに立って、仕上がりを整えてくれた。
「お嬢様、お着替えをしましょうか。」
えっ?何言ってんのこの人・・・。
私の身支度を全否定かっ!
「ど、どういう事?」
「こんな服装で、外へ出るつもりですか?」
「外と言われても・・・。」
「貴族令嬢ともあろうお方が、こんな作業着みたいな服装を・・・。というか、こんな服、何処にあったんですか?」
「みたいななんて失礼ね。れっきとした作業服よ。」
バーンっと胸を張り威張ってみた。
「何処にありました?」
嫌だ、この人、目力が半端ない。
「エヴァーノに用意して貰ったのよ。」
「エヴァーノに?元筆頭側仕えの?」
「ええ。」
「何をするおつもりで?」
「カボチャの収穫よ。」
「・・・。」
朝食は、3人でとる事が多い。
義母、義弟、そして私の3人で。
今日は、義父も居て、4人での朝食となった。
「「「・・・。」」」
沈黙が。
何だろうな、一人で食べる食事より、皆で食べる食事中の沈黙の方がつらい。
「んー、その何だ。アウエリア、今日の予定を聞いてもいいかい?」
義父に聞かれたので、私は正直に答えた。
「カボチャの収穫を手伝います。」
「「「はっ?」」」
「エヴァーノに手伝えと言われましたので。」
「そ、そうか・・・。」
「その服はエヴァーノが?」
義母が聞いてきた。
「はい、作業着です。」
「そ、そう・・・。」
何とも言えない雰囲気だ。
ここで、義弟が、姉さま僕も手伝いますなんて言ってくれれば、この湿っぽい雰囲気も打破できるかもしれない。
カモンっ!弟よっ!
しかし、義弟は黙々と食事をとるだけだった・・・。
朝食が終わると私は畑へと向かった。
リリアーヌも、いつもの仕事着、いわゆるメイド服ではなく、作業しやすい服へと変えていた。
顔は、非常に不服だというのが明白(あからさま)だった。
「リリアーヌは、他の仕事をしててもいいのよ?」
「そんなわけにはいきません。私はアウエリアお嬢様専属ですので。」
そんな嫌そうな顔して傍に居られても・・・。
畑に到着すると、男女合計6名の人手が集まっていた。
「おや、リリアーヌじゃないか?どうしたんだい?」
エヴァーノがリリアーヌを見て声をかけた。
知り合いらしい。
元筆頭側仕えって事は、元上司かな?
「どうしたも、こうしたも、アウエリアお嬢様に収穫を手伝わそうなんて、非常識です。」
「お嬢さんが嫌がってないんだから、いいだろう別に?」
「いい訳ないでしょ。」
「あんたの頭の固さはダイヤモンド級だね、まったく。」
「エヴァーノ。ダイヤモンドの硬度は強いけど、靭性は弱いのよ。」
私が前世の知識をひけらかした。
「おや、そりゃあ良い事を聞いたね。リリアーヌの頭をどう砕こうかね。」
そう言って、エヴァーノは笑った。
「エヴァーノ、収穫を始めてもいいかい?」
集まってた人が、そう言ってきたので、収穫が開始された。
リリアーヌも不承不承ながらも、収穫を手伝った。
「お嬢ちゃんは誰の子だい?」
手伝いのおばちゃんが聞いてきた。
「誰の?」
「使用人の誰かって事だよ。」
「こちらはアウエリアお嬢様です。」
リリアーヌが私を皆に紹介してくれた。
「「「「えっ!!!」」」」
全員の手が止まる。
「作業の手を止めるんじゃないよ。」
エヴァーノの叱咤で、再び動き出す。
なる程、ここには使用人の子供も居るのか。
見たこと無いんだけど・・・。
「リリアーヌ、この屋敷には使用人の子供も居るの?」
「はい、殆どが手伝いか、託児室に居ますので、お嬢様と会うことはありません。」
「そっか。」
「ようし、こんなもんかね。サントン、調理室に運んどきな。」
「はいよ。」
サントンと呼ばれた男の人が荷車で、カボチャを運んでいった。
「さて、お嬢さん。労働の対価はお求めかい?」
「もちろん。」
「さすがしっかりしてるね。何が欲しいんだい?」
「カボチャを10個ほど。」
「10個も?何に使うんだい?」
「教会に寄付します。」
「教会にカボチャを?」
「ええ、教会には孤児院が隣接してますから、そちらに寄付します。」
「ああ、大聖堂じゃない方かい。それなら納得だ。」
空の荷車をサントンが運んでくると、エヴァーノがサントンに告げた。
「サントン、午後から荷車でカボチャを10個教会まで運んどくれ。」
「カボチャを?大聖堂に?」
「違う、大聖堂じゃない教会の方だ。」
「ああ、なるほど。一人で行けばいいのか?」
「お嬢さん、どうするんだい?」
「私も行きます。」
「いやいやいや、駄目でしょ?昨日の騒ぎはお嬢様が原因ですよね?」
サントンが反対した。
「その為のリリアーヌです、よね?」
私は、リリアーヌを見上げた。
「仕方ありませんね。教会へ行くことは旦那様もご承知済みですので。」
よかった。
「じゃあ、サントンお願いね。」
「わ、わかりました。」
「サントンは料理人だからね。下ごしらえがあるようなら、サントンに任せな。」
エヴァーノがそう言った。
「それはいいですね。カボチャは固いので切るのが大変ですからね。」
「そのぐらいでしたら、このサントンにお任せを。」
午後、教会へと赴く前。
私は、前世の記憶にあるコーデ力を頼りに、お嬢様服で平民コーデという無駄な技を編み出した。
高級な服を使いながら、何処にでもいるような平民風を装うという何という無駄技能でしょう。
サントンは料理人であり、服装は平民そのもの。
うん、それはいい。
問題は・・・。
「リリアーヌ、その服で行くの?」
「これが私の仕事着ですので。」
「さっきの服の方が良くない?」
「あんな姿で、屋敷の外に出歩くなんて、出来ません。」
拘りがあるのね・・・。
しかしこれ、どういうご一行?
サントンと私は、平民っぽく。
親子というより、年が離れた兄妹くらいか。
そこにメイド?
三蔵法師もビックリな、ご一行だよ。
どうすんのこれ?
荷車を引く20後半の平凡な男性。
10歳の平民っぽい女の子。
で、メイド。
ないないない。
ありえんわっ。
案の定、道中、目立つ目立つ。
「やはり、その様な姿をしていても、お嬢様には、隠しきれない貴族オーラというものがあるのでしょう。道行く人が皆、こちらを見ています。」
いや、あんただよっ!
メイドがカボチャ売りっぽい平民に、ビタッと着いてたら何事って思うでしょ。
私とサントンがやや俯き加減の歩き姿なのに、その私がメイドですという威風堂々とした歩き姿は、何なの。
何事って、そりゃあ思うわっ!
私とサントンは、恥ずかしい思いをしながらも、やっとの事で教会へと到着した。
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