第29話 フェイト、いきまーす!!


 いよいよ戦いの幕が上がる。

 今日の相手は未知数の力を持っていて、全然底が見えない。

 こんな経験をするのは二度目で、しかもこんなに短い期間で繰り返すなんて思いもしなかった。

 世界はこんなにも広かったんだと改めて実感する。


「よし!」


 パチンと自分の頬を叩いて気合いを入れた。

 体力も、魔力も、気力も回復している。

 ムカつくあんにゃろーのせいで研ぎ澄ませていた集中力は途切れたけど、逆に変に気負わなくて済んだ。

 お礼は言わないし、万が一言おうものならニヤニヤした顔をするに違いない。

 控え室の外から聞こえてくる生徒達の歓声を入場曲代わりにして、私は太陽の下へと歩き出した。




 ♦︎




「始まるな」


 次の試合があるため、今日は観客席ではなく控え室とステージの間にある通路から観戦する。

 俺の相手であるレヴィアは自分の戦いに集中するためかこの場におらず、俺一人だけがここにいる。


『さぁ、泣いても笑っても今日が決着がつくぜ!』


 実況の声が聞こえてくるのでいよいよ試合開始の時間だ。


『まずは昨日副会長を倒して新しいクイーンの席に座った一年生のお姫様。フェイト・サウザンドウォール!!』


 紹介をされてステージの上に立ったレヴィアは程よい緊張感を持ったまま真剣な表情だ。

 魔力の流れもいい感じで、彼女本来のポテンシャルを出し切れるだろう。


『フェイト・サウザンドウォールには期待してるから頑張ってくれよな!』


 とうとう実況も隠すつもりがなくなったな。

 周囲もフェイトに大歓声を上げている。

 美少女で強さも兼ね備えているとなれば人気が高まるのも当然か。


『対するは現生徒会長にして、今回の戦挙でも圧倒的な強さを見せつけているこの男。イブキ・アラガミだ!』


 名前を呼ばれてステージに上がるイブキだが、観客からの声援はフェイト以下。


『今日も全力を出さずに舐めプするのか? 可愛い後輩相手には本気をだすなよイブキ・アラガミ』


 実況に続くように野次を飛ばしているのは昨日イブキに負けた連中だな。

 去年一年生ながら生徒会長になったこともあり恨みを多く買っていたのだろう。

 鞘に入った剣を握ったまま俯いているので表情は窺えない。


『じゃあ、始めるぜ。準決勝一試合目! デュエルスタート!!』


 千手を取ったのはフェイトだ。

 相変わらずの凄まじい魔法の構築速度に加えて膨大な魔力が攻撃力を高めている。

 アディリシア戦と同じ戦法だが、王道でステージの全範囲を巻き込む攻撃は回避が出来ない。


「〈極獄炎大火球ギガフレイム〉」


 恐るべき特級魔法がみるみるうちに編み出されていく。

 たったの一日でこの魔法を使えるまで魔力が回復しているのは流石としか言いようがない。

 そういえば、いつも触手で魔力を吸い尽くしても翌日にはケロっとしていたなフェイトは。


『昨日見せた特大の魔法だぜ! あまりの圧力にイブキ・アラガミは動けない!!』


 対峙していたイブキは剣を握ったまま鞘から抜く様子はなく、それどころか構えすらとっていなかった。

 いくら身体能力が高いとはいえ、あの魔法を受けきるつもりか?


「いっけぇー!」


 そうしている間にフェイトの準備が整い、巨大な太陽がイブキに迫る。

 接近戦になれば勝てないと考えた彼女は一撃で勝負を決めにきた。

 使える魔力のほぼ全てを注ぎ込んだ魔法は脱力したままの男に正面から衝突した。


『ド派手な炎と爆発だ! いくら最強の男でもこれは立ち上がれないか!?』


 マック・クロウが実況席から身を乗り出してステージを覗き込む。

 観客席も騒めき、煙が晴れるのを待つ。

 肩で息をしながらフェイトは片手を突き出したまま警戒を続ける。

 残りの魔力では上級魔法を一度使えるかどうかだが、果たしてどうなるか……。


「……」


 この場にいる全員が固唾を飲む中、シルエットが浮かび上がった。


『な、なんということだ! ニュークイーンの最強魔法が生徒会長を上回った!! 最初に決勝へ駒を進めたのはフェイト・サウザンドウォールだぜ!!』


 イブキは剣を手放した状態で意識を失い、地面に倒れていた。

 灼熱の炎に身を焼かれて酷い火傷を負った男は駆けつけた救護班の手で担架に乗せて運ばれていく。

 学園最強の称号を持っていた男はこうして呆気なく敗退したのだった。


「…………」


 大魔王の末裔がその力を見せつけて勝利したことに観戦していた生徒はおろか職員までもが拍手で祝福をする。

 そんな中、ステージの中央に立ち尽くしたままのフェイトはとても不満そうな顔でイブキが退場した方を見ていた。




 ♦︎




「フェイトさんお疲れ様でした」


「……次の試合頑張りなさいよ」


 一言だけ会話をしてフェイトさんはツカツカと控え室へと戻って行く。

 彼女を見送ると、声をかけただけなのに手が汗ばんでいたのに気づきました。

 フェイトさんは怒っている。

 いつもアスくんに文句を言いながら魔法を撃つ時とは違う本気の怒りです。


『続く準決勝二試合目は同じ一年生対決。レヴィア・スノウフェアリー対アスモデウス・ラスト!!』


 去っていった彼女のことが気になるけれど、今は自分のことに集中しないと!

 深呼吸をして小走り気味にステージへ進みます。

 昨日の今日でこんな大勢の人に見られているのはやっぱり怖いです。

 でも、この試合はアスくんが相手だからそこだけは安心出来ます。


『はっ? アスモデウス・ラストがいない?』


「え″っ!?」


 驚いて思わず汚い声が出てしまいました。

 実況席から慌てているような会話がマイクに乗って聞こえます。


『あー、置いてあったメモによると、お腹痛くてうんこに行くから遅れます……だそうだぜ』


 も、もう! 何やってるんですかアスくん!!





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