第24話 開幕。生徒会戦挙!!


『イェーイ! テメェら今日はテンション上がってるかよ〜』


「「「イェー!」」」


『今年も熱いフェスティバルのシーズンがやってきたぜ!!』


「「「フゥ〜!」」」


『それじゃあ、さっそく挑戦者のエントリー! カモン、命知らずのバカ野郎ども!』


「「「カモーン!」」」


 耳が痛くなるくらいの声量が、闘技場の控え室まで響いてくる。

 この学園に通う生徒のトップを決める戦いなので、もっと厳粛に執り行われるかと思いきや、これじゃあまるで剣闘士の興行だな。


「うるさいわね。こっちは集中してるのに」


「これから全校生徒が集まっている場所で戦うんですよね……ごくり」


 フェイトは不機嫌そうに、レヴィアは祭りの熱に怖気付きかけていた。


「気にするなレヴィア。お前は対戦相手だけを見ていればいい。観客なんぞ雑草と思って無視しろ」


「がんばります」


「とにかく全力を出し切れ」


 拳を握り、奮起するレヴィアの肩を軽く叩いて気合いを入れる。

 この一週間、たった一週間だが俺は空いた時間があればレヴィアを鍛えた。

 何度も彼女を触手で捉え、コスプレさせて写真を撮り続けた結果、おかげでレヴィアのアルバム写真集が一冊完成した。


「フェイトは思いっきり楽しめ。気負わずに戦えばお前は勝てる」


「当然でしょ? それと、余裕ぶってるけど優勝するのは私よ! もう負けないわよ!!」


 いつもの調子で啖呵を切るフェイト。

 普段は他人に教えを乞わない女だが、因縁のあるアディリシアとの戦いに向けて俺に修行の相手を頼んできた。

 こちらは二冊完成し、屈辱に塗れて半泣きになった写真を撮れて満足したが本人にバレると焼き尽くされるので厳重にベッド下に作った結界の中に保管してある。

 色欲魔殿の宝物庫並みのセキュリティだからまず安心だ。


「アンタこそ、勝てるのよね?」


「勝つ。そのために来た」


 フェイトは因縁のため、レヴィアは俺達に置いていかれないよう、自分の実力を証明するため。

 俺は自分の夢を、家族を幸せにするためにこの戦挙に挑む。

 例えそれが厳しい勝負になると決まっていても勝たなければならない。


「行くぞ」


「「おー!」」


 控え室を出て、薄暗い通路を抜けると広い石畳のステージがあった。

 ジョバンニとの戦いでも使った場所だが、これだけの観衆がいると違う場所に思えるから不思議だ。

 ステージの上に俺達以外の立候補者も続々と姿を見せる。

 現生徒会長のイブキ、副会長のアディリシアの他にも十数名がいた。


『この生徒会戦挙は学園でアメージングな活躍をした野郎が集まって戦うトーナメント戦だぜ! 参加者は全部で十六人。勝ち上がったただ一人が生徒会長の座を手にする!』


 魔法を使って会場の壁に大きくトーナメント表が映し出される。

 今朝、くじ引きをして対戦相手を決めたのだが……。


「勝てば二回戦でアディリシアと当たるわね私。早い方が消耗が少なくて助かるわ」


「アスくんと同じグループです」


「フェイトや現生徒会メンバーと当たるのは決勝か」


 まずまずの引きだった。

 相手の手の内はを観察しておきたかったので一回戦でイブキと当たらなくてよかったな。


『勝敗はリングアウトか気絶、自己申告による降参で決まるぜ! ドクターストップはねぇから死なない程度に暴れやがれ!!』


 大会の日程は二日間で行なわれる。

 今日は二回戦まで行なわれ、明日が準決勝と決勝の予定だ。

 試合と試合の間にインターバルは設けられるが、消耗した魔力と体力は自力で回復させなくてはならない。


「ところで、さっきから思ったんだけどあのマイクを握った男は誰なんだ」


「戦挙管理委員会のマック・クロウって名乗ってたわ」


 パッと見た目では何の種族かはわからないサングラスの男。

 装飾品を首や手にジャラジャラとつけたモヒカン頭で柄は悪いが、会場の熱量を見ると盛り上げ役としては人気があるのだろう。


『じゃあ、ルール説明もフィニッシュしたし、さっそく生徒会戦挙を開始するぜ! 最初の試合は我らが生徒会の副会長。公爵家の令嬢にして、学園のクイーンとしても君臨するこのお方。アディリシア・レイヴンクロー! 対するは三年生出場者の中で紅一点。水魔法の申し子、セレン・アリエス!』


 顔合わせも終わり、名前を呼ばれた選手以外は控え室に戻るか観客席で観戦になる。

 俺は当然後者だ。


「去年の雪辱を晴らさせてもらうわアディリシアさん」


 矛先が三叉に分かれたトライデントを持つ赤服の女生徒。

 手のひらに薄い膜があったり、頬にエラらしきものが見えるので魚人族だろうか。


「あら? 去年、貴女と戦いましたっけわたくし?」


「忘れたとは言わせないわ」


「残念ですが、強くない相手のことなんてそもそも覚えるつもりがありませんの。今回も大人しく負けてくださいます?」


 アディリシアが挑発をすると、魚人の少女は口を閉じて腰を低く落とした。


『一回戦第一試合、デュエルスタート!!』




 ♦︎




「お疲れさまー」


「別に疲れていませんわ」


 控え室に戻り涼しい顔をしてタオルで体を拭くアディリシア。


「凄かったねー。一撃でリングアウトなんて」


 彼女の試合は一方的に終わった。

 試合開始と同時に相手は水魔法を使って激流に身を包んで突進してきた。

 手に持ったトライデントで敵を串刺しにする算段の相手だったが、アディリシアが手にしていた扇子をひと振りすると竜巻が発生し、敵は踏み止まれずに場外へ弾き飛ばされた。


「あの程度ではわたくしの風の守りは突破できませんもの。誰もわたくしに触れないまま全部終わらせてあげますわ」


「頼もしいけど、油断はよくないねー」


 油断もなにもアディリシアは過去にも同じ戦い方で勝ってきた。

 本番は明日の準決勝なので無駄な消耗はしたくないというのが本心だ。


「油断ではなく作戦ですわ。貴方へのリベンジのために」


「そうだねー。だからそんなアディに忠告」


『第二試合。フェイト・サウザンドウォール対ロア・アイアンフィスト』


 司会の実況音声が聞こえてくる控え室でイブキは首を傾げるアディリシアに釘を刺す。


『デュエルスタート!』


 直後、爆音と共に地面が揺れた。

 控え室の内部もガタガタと音を立てて揺れ、物が散乱した。


『勝者はフェイト・サウザンドウォール! なんと一歩も動くことなく一発KOだ!!』


 会場から聞こえてくる歓声が試合の凄さを物語っていた。


「大魔王の末裔は甘くないみたいだよ」


 イブキの言葉と試合の消化スピードを考えてアディリシアはため息を吐く。

 今日は考えていた以上に消耗させられそうだと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る