第22話 生徒会からの来訪者。
「ねぇ、あれって……」
「一年生には無理じゃ無かったのかよ!?」
ひそひそと会話するクラスの連中の視線が俺の制服の胸元へと向けられる。
彼らが注目しているのはゲンからもらったスターだ。
「かなり噂になってるわよ。新入生がスターを手に入れたって」
「しかも三人もですからね。担任の先生も見て驚いていましたね」
それだけ珍しいということだろう。
スターを与えられるのは学年毎に数人しかおらず、大半の生徒は自分に関係のないものだと思っている。
だというのに、今年は通常取得できないはずのこの時期に三人も持っているのだから、視線を浴びせられるのは当然のことだ。
「あとは立候補をするだけか」
確か、立候補をするには生徒会戦挙の管理委員会とやらに顔を出しに行かなければならないと記載されていたな。
早速、今日の昼休みにでも訪ねてみるか。
そう思って朝礼後、一限目の準備をしようとした時だった。
「こちらにスターを授与された生徒がいると聞きましたが、どなたかしら?」
よく通る声が教室の入り口から聞こえた。
クラスの全員が声の主の方を向く。
「げっ」
隣に座るフェイトが苦々しい顔をして声の主の女を見る。
まず目に入ったのは顔を上半分覆い隠す特徴的な黒いマスクで、腰ほどまで伸びた長い紫色の髪はぐるぐると毛先が巻かれ、大人びた赤い口紅が艶やかさを演出している。
制服の色は赤く、右腕には腕章がつけられおりスタイルは抜群だった。
胸と尻はよく突き出していて、スカートの下に見える黒タイツからは良い匂いがしそうだ。
「あぁ、それは俺だがお前は誰だ?」
問いに対して返事をすると、周囲からお前はあの人を知らないのか!? と驚くようなリアクションがあった。
よほどの有名人なのか?
「わたくしはアディリシア・レイヴンクロー。上級生の顔と名前くらい覚えていた方がいいですわよ」
知らないのは恥だとでも言いたげな声色で女は言う。
その物言いに一般の者なら反感を覚えるのだろうが、腕を組んだ状態だと胸が強調されてエッチだなと考えていた俺は気にしなかった。
「そこにいる彼女から何も聞かされていませんの?」
女が指差すのは俺の隣で他人のふりをしようと顔を逸らすフェイトだった。
「おいフェイト。お前の知り合いか?」
「知らないわよあんな偉そうな女」
嫌悪感を微塵も隠さない声だった。
どうやら過去に何かあったようだな。
アディリシアと名乗った女はつかつかと俺達の席に歩み寄って来た。
「久しぶりの再会ですのに随分な態度ですわね」
「私がアンタに愛想よくする理由なんてないでしょ。たかが公爵家の令嬢のくせに」
「今は貴女の先輩で、生徒会の副会長ですわ。少しは敬いなさい」
バチバチとした視線がぶつかり合う。
フェイトからはメラメラと燃える炎の幻影が見えるが、アディリシアはそれをものともせずに吹き飛ばそうとする嵐に見えた。
「フェイト。彼女とどういう関係だ?」
「腐れ縁っていうか、貴族の集まりでよく顔を合わせていたのよ」
ここのところ忘れがちだったが、フェイトは大魔王の血族で魔族のプリンセスだ。
貴族の中で最上位の立場であり、平民からすれば遥か雲の上の存在だ。
そんなフェイトとこうして嫌味や皮肉を交えながら話せる旧知の中となると、必然的に地位の高い者になるが公爵とはな。
魔王軍の最高位に近い幹部ではないか。
「それでわざわざ下級生の教室に何の用なのよ」
「生徒会としての仕事ですわ。スターを授与された貴女達三人を呼びに来ましたの」
腕につけた腕章を見せつけるアディリシア。
現生徒会のメンバーで公爵家の令嬢ということは彼女もまたスターを手に入れている学園の実力者か。
「昨日の騒動について事情聴取をしますのでこれから生徒会室へ来なさい。拒否は認めませんわ」
さも当然のように言うということは生徒会にはそれだけの権力があるのだろう。
授業については教師に事情を話せば欠席扱いにはならないそうだ。
生徒会室に向かえばこの学園のトップである生徒会長にも会えるということで俺は大人しく彼女の指示に従うことにした。
「ちっ。相変わらずムカつくやつね」
アディリシアに案内を任せ、彼女の後をついて歩いているとフェイトが悪態をつきながら呟いた。
「お前、あの女と何があった」
「昔から何かと難癖つけて私に絡んでくるのよ。やれ礼儀がなってないとか、やれ魔法が優雅じゃないとか色々よ」
爵位が高いとはいえ、面と向かって大魔王の関係者に物申すとは強かな女だな。
「それに腹が立って何度も魔法をぶつけ合ったわ。おかげで何箇所か屋敷を壊して怒られたけど」
嫌な思い出よ、とフェイトは語る。
このフェイトと魔法で勝負をする……。
それだけでアディリシアの実力の高さが窺えるな。
「まぁ、私が勝ったけど」
「全部わたくしの勝利ですわ。嘘をおっしゃらないでくださるかしら?」
「「はぁ?」」
お互いの乳を張り合って睨み合いを始める両者。
黒いマスクで顔を半分隠しているとはいえ、整った容姿をしているアディリシアと黙っていれば姫に相応しい美しさのフェイト。
そんな連中が青筋を浮かべながら女性がしてはいけない顔をしていた。
「射撃は私の方が命中率良かったですけど?」
「貴女の場合は的ごと全部燃やしてるだけですわ。わたくしと違ってエレガントさがありませんもの」
「エレガント? 魔法障壁を素手で殴り飛ばそうとしたゴリラのどこに上品さがあるのよ」
「素手じゃありませんわ。ちゃんと魔法を使っていましたもの。そんなこともわからないのですか?」
「うざっ。あったまきたわ。顔貸しなさいよ」
「貧相な胸の方が何か仰っていますわ〜」
「私は普通サイズよ! その駄肉削ぎ落としてやる!!」
酷い。なんて低レベルな争いだ。
「あははは……。止めた方がいいんですかね?」
「好きにさせとけレヴィア。関われば巻き込まれてこちらに被害が出る」
心配そうな顔をするレヴィアの頭に手を置いて撫でておく。
フェイトが二人に増えたと考えれば間違いなく止めるのに苦労するだろう。
「生憎と貴女と違ってわたくしは仕事で忙しいですの。勝負したいなら戦挙の場まで待ちなさい」
「やってやろうじゃない。全校生徒の前でアンタに勝って副会長の座から降ろしてあげるわ」
顔馴染み二人の言い争いは目的地に着いたことで一旦終わりになるようだ。
「こちらですわ」
アディリシアが足を止めたのは普段俺達が座学を受けている教室のある校舎、その最上階。
長い廊下の一番奥にある両開きの見事な装飾が施されている扉の前だった。
「ここが生徒会室か」
「ええ。基本的にこの部屋に入れるのは生徒会メンバー以外に教師か来賓、管理委員会の生徒だけ。普通は立ち入りが禁止されていますわ」
同じ学生が通う学園の中でも特別な場所なのだとアディリシアが説明する。
「それでは中へ。生徒会長がお待ちですわ」
扉が開かれ、いざ学園のトップとご対面の時間が始まる。
さぁ、俺が目指す席に座る者がどんな奴なのか確かめさせてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます