第18話 スター獲得への道。
俺、アスモデウス・ラストの第二の人生の故郷は魔族領の中でもかなりの田舎だ。
そもそも我が家があるのはモンスターが棲みつく森の中で、母さんの親の更にその親の代から淫魔族は人が訪ねてこない深い森の中に引きこもった。
彼らにとって外の世界での扱いは耐え難いものであり、淫魔族としての本能さえも抑制して隠れながら暮らしていた。
家から半日で着く村の連中も同じように住処を失ったはぐれ魔族が作ったものだが、そんな彼らの中でも淫魔族のヒエラルキーは低かった。
父さんと出会うまで母さんは心細い思いをしながら暮らしていたらしい。
そんな環境だからこそ出産というのは不安が付きまとう。
淫魔族の長だった俺からすれば、普通の魔族よりも淫魔族の出産は難産になりにくいのは当たり前の知識だが、両親はそうは思っていない。
俺を産む時でさえ父さんと母さんは神経を擦り減らしていたとか。
結果として誕生した俺は何の苦労もなく、両親の手を煩わせることなく成長したが、次の子が同じだとは限らない。
『母さんは心配ないと言ってるけど、父さんとしては万全の状態で出産をしてもらいたいんだ。なぁ、アス。どうしたらいいと思う?』
文面から伝わる父さんの不安。
魔王だった頃なら部下に全てを任せていた俺だが、今世ではそうはいかない。
こうなったらさっさと貴族の身分を手に入れて優秀な医者を派遣でもしなくては!
「何よそんなに焦って。条件を満たしてないならいくら強くても無理よ」
食後のデザートに注文したプリンに舌鼓を打ちながらフェイトが話す。
爵位を授与される絶好の機会である学園内トップの権力者を決める生徒会戦挙がもうすぐ開かれるというのに、俺は足踏みをしている。
「それと、スターを獲得するのって凄く難しいのよ。学年の上位十人に入る成績かつ、誰も成し得ていないような功績がいるわ。スターをくれる教員の好みもあるから白服のアンタじゃまず貰えないかもね」
ここでも出ているのが白服という出自の差か。
「何故教員は白服を蔑ろにする。師であるなら教え子は平等に扱うべきだろう」
「大魔王学園で教員になるやつなんて学生時代に赤服だった連中ばかりよ。白服が目立ったり功績を上げることを良しとしないの。赤服は強さの象徴。白服は弱さの証。入学時点で決まっているわ」
「で、でも、制服が変わった生徒がいるっていう話も聞いたことありますよ!」
フェイトの話を聞いていたレヴィアが興味深いことを口にした。
「あぁ、それは意味が違うわ。赤服から白服に落とされた生徒が過去にいたって話よ。在学中に実家が没落して爵位を失ったらしいの。それで赤い制服は相応しいないって落とされたの」
しかし、僅かな希望はフェイトによって否定された。
話の続きを聞くと、その生徒はこれまでとの扱いの差に耐え切れずに学園を自主退学したそうだ。
「白服が赤服になるなんて夢のまた夢ね」
「そんな……」
あっさりと厳しい現実を言うフェイトの言葉にレヴィアが肩を落としながら俺を見た。
「心配するなレヴィア。前例が無いからといって諦める理由にはならん。無ければ作るまでのことだ」
「よくそんな自信が湧いてくるわね。まぁ、それくらいの強欲さが無かったら私がぶっ倒すのに相応しくないわ」
実は俺がどんな反応をするのか楽しみにしていたフェイトは、フッと笑って最後のひと口を食べた。
「その言い方だと何か良い情報を知っているのか?」
「参考になるかはわからないけど、今の生徒会長は赤服の中でも最下位に近い身分らしいわ。貴族として大した実績がないただ古いだけの家柄。それでも学園最強の称号を手にしているわけだから、立候補できれば機会はあるかもしれないわよ」
「なるほどな。フェイトは俺を励まそうとしてくれたわけか」
「はぁ? な、なんで私がアンタなんかを励まさなきゃならないのよ!」
図星だったのか彼女は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
素直に人を応援できないというか、いちいち人を焚き付けるような言い回ししかできないようだ。
だが、それが今の俺には効果が一番ある。
「なんだい。難しい顔してたかと思ったら解決したのかい? アスモデウスちゃん」
気を取り直して何か方法がないかを探そうと考えていると、声をかけてきた人物がいた。
給仕服を着装して複数ある手に雑巾を持っている恰幅のいい中年の女性だった。
「食堂のおばちゃんか。すまないな。生徒会戦挙のことで悩んでいたんだ」
よく学食を頼んだ俺に大盛りをおまけしてくれている多腕族のおばちゃん。
彼女は昼休みも半ばを過ぎて空席ができた食堂の清掃をしていたようだ。
「あれま。一年生なのに出るのかい?」
「いいや。出たいのは山々だが立候補に必要なスターが手に入らなくてな」
食堂のおばちゃんに話してもなんの解決もしないと思うが、わざわざ心配して声をかけてくれたこの人に事情くらいは話してもいいだろう。
「なるほどだね。この学園の先生方は意地悪な大人が多いからねぇ〜。でも、それならおばちゃんがちょっと力を貸してやろうじゃない」
自信ありげに胸を張るおばちゃん。
俺達三人は互いに顔を見合わせ、ウインクをするお茶目な妙齢の彼女の言葉に耳を傾けるのだった。
♦︎
「解決しちゃったわよ本当に」
「いいえ。まだ紹介してもらっただけですから」
複雑そうな表情のフェイトとレヴィアの二人と向かっているのは広大な学園の敷地内にある作業小屋だった。
場所は普段授業を受けている校舎から二十分近くも歩いた場所だ。
「でも、スターを獲得する方法が見つかったのは大助かりね」
「あぁ。あのおばちゃんには一生頭が上がらないかもしれんな」
満面の笑みで親指を突き出して見送ってくれたおばちゃんを思い出しながら木で作られた小屋のドアをノックする。
すると、小屋の中から物音がして小柄な人物が中から姿を現した。
「なんじゃい。この年寄りに何か用か?」
小柄な眼鏡をかけた老人は背が低めのレヴィアよりも更に小さかった。
背中は丸まっており、俺達の顔を見上げるのも辛そうだったが、その腕は同じよりも逞しく太かった。
「ドワーフのゲンで間違いないわね?」
「そうじゃ。ワシがこの学園の用務員をやっとるゲンだが、お前さんらは?」
ゲンと言う名のドワーフの男に、俺達は食堂のおばちゃんから聞いた話をした。
「なるほど。ワシの悩みを聞いたおばちゃんが寄越したってわけじゃな」
「あぁ、そうだ」
食堂のおばちゃんが教えてくれたのはこの用務員のゲンが最近仕事で悩んでいるということだった。
彼は長年、この大魔王学園で働いていたが、近年では年を取って対処できない問題がいくつか発生してしまったらしい。
それを俺達の力で解決してはどうだ? というのがおばちゃんの提案だった。
「うーん。確かにワシは用務員兼学園の教師もやっとるな。授業の人気は全くないがの」
スターを生徒に与えられるのは学園で働いている教師だけだ。
それを知っていたおばちゃんがゲンの手助けをすればかけ合ってくれるかもしれないと気づかせてくれた。
「ゲンさんのお手伝いをしたらスターって貰えたりしますか?」
「それは勿論じゃ。スターを与えられるのはズバ抜けて優秀な者や学園に貢献した者。ワシの仕事は学園の施設の管理だから立派に貢献できるぞ」
スターを貰えるかもしれないこの手伝いを受けない理由はない。
「ただ、手伝ってもらいたい仕事は少し危険での。学生には荷が重いかもしれんぞ?」
「任せてくれ。体の丈夫さと強さには自信がある」
「そうか。なら頼もうかの」
立ち話もなんだからと俺達はゲンに小屋の中に案内された。
ドワーフの彼に合わせて設計された場所のようで、小屋の中はこぢんまりとしていた。
丸太を加工した椅子に座るとゲンが悩み語り出した。
「実はの、学園にいくつもある演習場の中に森林をテーマにした場所があるんじゃ」
演習場は魔法の実技をする際に利用するが、学ぶ魔法によって場所が変わることが多々ある。
岩場や湖畔、草原に闘技場のような場所と種類が豊富で、これらの演習場がいくつもあるので学園の敷地の広さはかなりのものになっている。
「森林とはいえ雑草を刈ったり、余計な木は切り落としたりしてたんじゃが、どうもそこにモンスターが棲みついてしまったのじゃ」
学園内にモンスター。
もしもそれが本当なら教師が対応すべきでは? と思ったが、このゲンは教師でもあったな。
「まぁ、それ自体はたまにあることだから特に気にはしていなかったんじゃが……」
「何かあったのね」
「あぁ。そのモンスターというのがかなり特殊な種類だったのじゃ。昔のワシなら兎も角、こうも年をとると中々駆除できなくて困っておった」
確かにゲンというドワーフは弱そうには見えない。
腕の筋肉だけ見てもかなり重い武器でも振り回せるだろうが、老化すれば体力の低下は免れないな。
「他の教師に相談もしたが、理由をつけて断られて途方に暮れていたところじゃ。危険はあるが、お前さんらが手伝ってくれるのは助かる」
「任せろ。モンスターの討伐なら得意だ」
俺は自信満々に宣言をし、ゲンの手を掴んで交渉成立の握手を交わす。
狩人である父さんに森での動き方は教わっていたし、モンスター程度ならそう苦戦することもない。
「それじゃあ頼むぞい。早速案内するから着替えて貰おう」
こうして俺はスターをゲットするためにゲンからの依頼を受けた。
まさか、これがフェイトとレヴィアにとって大きな受難になるとはこの時は知るよしもなかった。
そして俺は、バニーガールの素晴らしさと着衣エロにガッツポーズをすることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます