二章 生徒会戦挙編

第17話 目指せ、生徒会戦挙!


 大魔王学園に入学して一ヶ月が経った。

 勇者と再会を果たすため、没落した淫魔族を復興させるために転生した俺は同年代の子供達と同じ学舎に通っていたのだが……。


「この魔法の仕組みについて分かるかね? アスモデウス・ラストくん」


「外界と結界の内を隔離する魔法は核となる存在が必要だな。この例題は使用者とその武器に魔力のパスを繋げて境界線を引くことで発動を可能にしている」


「……正解だ。よく勉強をしているな」


「この程度、赤子の手を捻るよりも簡単だ。ちなみにだがここの魔力パスを分散させれば……」


「なっ、それではまともな魔法が! いや、あそこを強化さえしてしまえば更なる発展が!?」


 赤服贔屓で有名な教師の授業で俺は黒板に書かれた魔法式にアドバイスをしてやる。

 千年前にも存在していた魔法だが、現代では使用者の負担を減らして展開速度を早くすることに重きを置いているため強度不足に陥っている。

 当然のことを教えてやっただけだが、教師は黒板を齧り付くかのように凝視していた。


「ちょっと、授業中断させるのやめなさいよね」


「あの教師が勝手に自分の世界に入り込んだだけだ。俺は悪くない」


 自分の席に戻るとフェイトが不機嫌そうな顔で注意してくる。

 教師は新しい発見に好奇心を抑え切れないようで、授業は自習の時間となった。


「魔王軍の歴史や実技演習は楽しめるが、どうもそれ以外の座学は退屈に思えるな」


「アスくんは凄いですよね。先生が意地悪で難しい問題を出してもスラスラ答えちゃうんですから」


「コイツは極端なのよ。普通の常識は全然知らないくせに変な分野だけ詳しいんだから」


 他の生徒が課題に取り組んでいる中、俺達三人は周囲の迷惑にならないくらいの声量で雑談を始める。

 フェイトもレヴィアも出された課題は既に解いているので問題はあるまい。

 大魔王の血族として、貴族としてのプライドもあるのかフェイトの成績はとても優秀だった。

 一つだけ欠点があるとするなら実技の実習で使う魔法が過剰な威力なことくらいか。

 有り余っている魔力のせいか細かい調節は苦手らしい。


「先生でも知らないような魔法を自分が使うわけでもないのに解説できるのは凄いですね」


 自分の家族から幽閉されていたレヴィアだが、その遅れを取り返すべく猛勉強をしている努力家だ。

 知らない知識を得るのが楽しいと言うくらいには真面目に授業を受け、予習や復習を欠かさずにいる。

 最近では俺を除け者にしてフェイトがレヴィアの勉強を見てやっているそうだ。

 俺も誘えと言ったが、場所が赤服の寮の女子棟なので無理だと却下された。


「戦いにおいて必要なのは情報量だ。敵の得手不得手を分析し、有利に進めることで勝利を掴める」


「へぇ。たまにはそれらしいことを言うじゃない」


「例えば最近のフェイトは学食のデザートを食べ過ぎで体重が──」


「脂肪ごとアンタを燃焼させてやろうか!!」


 感心したのは一瞬だけ。

 フェイトは怒髪天の状態になり、教室の温度が上昇した。


「ごめんなさい。ごめんなさい。こちらにはお構いなく自習を続けてください」


 氷魔法を鍛練しているレヴィアが冷気を放って熱を冷まそうとする。

 彼女の特訓の成果のおかげでこの教室がサウナになることは避けられた。


「ダメですよアスくん。女の子に体重の話をしちゃ」


「わかった。以後気をつける」


「アンタ、レヴィアには甘いわよね」


 ジト目で俺を見てくるフェイト。

 そこは普段の俺への態度だな。

 いつも噛み付いてこようとするお前と比べたらレヴィアは癒しの存在だと。


「なんだ。フェイトも甘やかして欲しいのか?」


「アンタはお断りよ。どうせまたスケベなことをするつもりでしょ。レヴィアもこいつに体を触られたら私に報告しなさい。憲兵に突き出してやる」


 両手を広げて受け入れ体勢をとる俺を罵倒してくるフェイトだが、実は手遅れだったりする。

 実は鍛練が終わった後にレヴィアにはクールダウンのマッサージを行っており、ここ最近はマッサージ目当てでレヴィアが鍛練の負荷を増やそうとしてくるのを俺がストップさせているレベルだ。


「えっと……はい」


 すっかり俺のテクニックに骨抜きにされた自覚があるのかレヴィアは恥ずかしそうに俯いて返事した。


「ん?」


 彼女の態度に違和感を感じたのか、俺が普段何をしているのかを聞き出すためフェイトが詰め寄ろうとした時、授業終了を知らせる鐘が鳴った。

 昼休みになったので生徒達は腹を満たすために食堂へと移動を開始する。

 当然、俺達もだ。


「ほら、飯の時間だぞ」


「あとで聞かせなさいよね」


 どうか俺の幸せ確保のためにデザートを食べてその質問は忘れてくれと願う。

 三人並んで教室を出て食堂への道を歩いていると、何やら廊下に人が集まっているのが見えた。


「昼休み早々に決闘か?」


「多分、みなさん掲示板を見ているみたいですよ」


 学園側からのお知らせが貼り付けてある掲示板は学園生活に役立つ情報や教師からの手伝いの依頼、クラブ活動の募集と常に何かしらの貼り紙がある。

 しかし、わざわざそれを昼食に向かう足を止めてまで確認するかというと普通はしない。

 つまりは今日の掲示板には生徒達を惹きつける何かがあるのだ。


「ちょっと見せてくれないか」


「ひぃ、淫乱鬼畜男よ。逃げてぇ!」


 掲示板に近づこうと近くにいた女生徒の肩に手を置いたのだが、悲鳴をあげて逃げられてしまった。

 それだけではなく、他の生徒まで蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。


「よかったわね。これで見やすくなったわ」


「わたしはアスくんのこと鬼畜だなんて思ってませんからね」


 ざまぁ見ろとほくそ笑むフェイト。

 レヴィアの優しさからくるフォローだけが俺を癒してくれる。


「ふむふむ。生徒会からのお知らせみたいね」


「生徒会というのは学生で構成された学園内で強い権力を持った組織だったな」


「そうよ。そして生徒会のメンバーはいずれも大魔王学園トップクラスの実力者。彼らは皆、選ばれた戦士でもあるわ」


 力こそが重視される魔族において権力者や貴族というのは地位相応の実力が求められる。

 それは学生の身分にも言えることなのだろう。


「この貼り紙は生徒会戦挙のお知らせのようね」


「戦挙?」


 選挙であるなら分かるが、戦挙とは一体なんだ?


「他所の学校なら選ばれた者が生徒たちから投票を募って生徒会に当選するけど、大魔王学園は選出された生徒同士の決闘によって生徒会に入れるかが決まるのよ」


 フェイトの説明を受けながら俺は貼り紙の説明文を読む。

 生徒会戦挙に参加したもの同士でトーナメント戦を行い、勝ち抜いた勝者が生徒会長の地位につくようだ。


「生徒会長は学園最強の称号でもあるのか」


「えぇ、そうよ。会長になれば様々な特典を与えられるわ。その中で一番凄いのは大魔王軍から在学中に爵位を授与されることね」


 爵位の授与。

 つまりは貴族になれるということか。


「生徒会長の期間中だけだけど、学生で爵位を与えられたとなれば魔族の中でも大きな注目を集めるわ。場合によっては卒業後にあちこちからスカウトされるようね」


 ほほぅ。

 大魔王学園の卒業生になればその後の魔王軍入りが確実になると言われているが、生徒会長であればそのまま幹部入りも狙えるな。


「面白い話だ。大魔王を目指すため、俺もその生徒会戦挙とやらに挑んでみるか」


「あっ、でもアスくんこれ……」


 破格の条件で利益がある話に乗ろうとした直後、レヴィアに引き止められた。

 彼女は恐る恐るといった様子で紙を指差しいた。


「『なお、生徒会戦挙に参加するには学園のシンボルであるスターを所持していること』ですって」


「なんだそれは」


「アンタ入学時の説明聞いてなかったの? スターっていうのは学園でとても優秀な成績をとったり学園に貢献した生徒に与えられる勲章よ」


 呆れたわね、とフェイトが肩をすくめる。

 いいや、俺はそんな制度を聞かされた記憶が無いぞ。

 合格通知を投げ捨てるように渡されただけで……。


「わたしも説明聞いてません。もしかしたら白服の子には話していないのかも」


 ただの嫌がらせ白服が獲得できるわけないと判断されたのか。

 いいや、その両方かもしれんな。

 入学試験を担当していた奴の態度が悪かったのは覚えている。


「それは災難だったわね。ちなみに私達が最短でゲットできるのは半年後の期末テストよ」


「何だと!? それでは間に合わないではないか」


「あのね、普通は入学して一ヶ月で生徒会長なんて目指さないわ。こういうのに立候補しているのはエリートの赤服の中でも更に選ばれた人材よ。まだ経験値の足りない一年生の参加は危険なのよ」


 頑張って成績を上げて来年に期待することね、と言い残してフェイトは食堂へと向かおうとする。

 レヴィアも今回は諦めたのか参加条件を忘れないようメモするだけに留まった。


 しかし、俺には諦めきれない。

 なんとしても早く出世して貴族の地位を獲得したい理由ができたのだ。


「フェイト、レヴィア。俺は何がなんでもこの生徒会戦挙に出るぞ。そのために食後はスター獲得の情報集めを開始する!」


 実家から届いた一通の手紙。

 そこには母さんが妊娠したという嬉しい報告と、近くの村にいた医者が亡くなってお産が心配だという父さんの救援依頼だった。


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