第15話 魔王の本気。色欲魔法奥義!!


「今日からよろしくお願いしますねアスくん!」


「おう。……アスくん?」


 ジョバンニとの決闘から二日が経ち、レヴィアの傷も学園の治療技術で完治したので今日から師として鍛えてやろうと思っていたが。


「やっぱり急に馴れ馴れしかったですか? 仲良くなるならあだ名で読んだ方が距離が縮まるって本に書いてあったので……」

「いいや、気にするな。親以外からその名で呼ばれたのは初めてでな。新鮮な気持ちに戸惑っただけだ」


 千年前、俺のことを気軽に呼び捨てするのは同じ魔王達くらいだった。

 彼ら以外にとって俺は畏怖すべき存在であり、あだ名で呼ぶなんて恐れ多い行為だった。

 それがクラスメイトと初めての友人から呼ばれるとは心が躍るな。


「じゃあ、よろしくお願いしますねアスくん」

「任せろ。俺の手にかかればお前も一流の戦士に育つさ」


 元気いっぱいでやる気に満ちているレヴィア。

 敗北のせいで自信を無くし、立ち上がれなくなる者が多い中で彼女の上を目指そうという気持ちは眩しいな。

 既にこの学園では新入生同士による決闘である程度の序列が決まりつつある。

 白服の生徒は赤服に敗北し、赤服同士でも爵位の高い方が力を増している。

 入学して一年目というのはかなり重要で、来年以降に決まってしまった実力の差を逆転させるのは難しいのだとか。


「フェイトさんは今日いないんですか?」

「あいつなら決闘をしているぞ。相手は上級生らしいがな」

「えぇっ!? 大変じゃないですか、応援しに行かないと!」

「その必要はないだろ」


 慌ててフェイトを探しに行こうとするレヴィアを引き留める。

 今から走ったところで無駄だと言おうとすると、ドォン!! と爆発音と共に火柱が演習場のある方から立ち上った。


「ほら見ろ。あれはフェイトの魔法だ。開始直後の一撃が決まれば耐えれる奴はまずいない」

「こんな離れた場所にまで音が聞こえるなんて……」


 念のために〈色欲の魔眼〉を使ってフェイトの魔力を探るが、全然ピンピンしていそうだった。

 相手の方は……まぁ、死んでいないだろうし学園の医務室に運び込めばどうにかなるだろう。


「凄いですね。流石は大魔王さまの血族です」

「なぁ、レヴィア。大魔王がなんの種族なのかお前は知らないのか?」

「うーん……わたしも大魔王さまについてはあまり詳しくないんです。ただ大きな翼を生やして空を飛んで山よりも大きなモンスターを持ち上げたり、海を二つに割ったりできたって伝説は本で読んだことあります」


 大魔王について益々謎が深まった。

 血縁であればフェイトと同じ種族かもしれないが、あいつが何の種族か聞いていなかったな。


「アスくんは大魔王になるって言ってましたよね」

「あぁ。俺は出生して大魔王になる。そうなれば今の大魔王には席を空けてもらわないと困るな」

「大魔王さまと戦おうとするなんてそんなの魔族の中じゃアスくんくらいですよ」


 大魔王の容姿や正体について詳しい情報は少ないが、奴が作った数々の伝説は各地に点在している。

 それらを一つ一つ紐解いて突き止めるのもいいが、やはり最短は武勲をたてての出世だな。


「俺はどんどん強くなって上を目指す。弟子入りをするからにはレヴィアにも魔王クラスくらいにはなってもらわなくてはな」

「あははは。冗談……じゃないみたいですね。頑張ります!」

「いや、冗談だ」

「もー! あんまりにも真剣な顔をするからわからなかったじゃないですか!」


 ポカポカと俺の胸元を叩くレヴィア。

 そんな彼女の距離が近くていい匂いが鼻をくすぐる。


「落ち着け。まずはコツコツと修行をしていこう。俺だって最初から強かったわけじゃない。毎日の鍛練が大事なんだ」

「はい、わかりました師匠! まずは何からするんですか?」

「そうだな……。じゃあ、最初はレヴィアがどのくらい動けるか耐久テストをしてみよう。今から俺の攻撃を頑張って避けてくれ」


 俺はレヴィアと向かい合い、〈触手腕テンタクルアーム〉を発動させて片腕を触手にする。


「さぁ、お前の実力を見せてもらうぞ!」




 ♦︎




「ふぅ。今日もいい湯加減だった」


 その日の夜、レヴィアと放課後の鍛練を済ませた俺は夕食と入浴の後に寮の近くを散歩していた。

 風呂上がりの火照った体が夜風に晒されて気持ちいい。


「しかし、男女別の大浴場とはな。折角の風呂は女と一緒が良かった」


 かつて色欲魔殿と名付けた城では日替わりでハーレムの女達と入浴していた。

 風呂場に酒を持ち込んだり、火照った体同士でそのまま行為に及んで楽しんでいた。


「中央都を探せば混浴の温泉が見つかるか? いっそ自分で掘ってみるという手も……」


 混浴を見つけたらフェイトやレヴィアを是非誘ってみたいものだ。

 ……フェイトが一緒なら風呂釜の温度がとんでもなく上昇して食材のように煮込まれそうだ。


「今日もレヴィアへの修行が終わったら怒っていたからな」


 決闘を終えて合流してきたフェイトが目にしたのは触手に捕まえられて体を撫で回されるレヴィアの姿だった。

 真面目な修行の一環であり、俺にとってお楽しみの時間だったのに結局別メニューへの切り替えを余儀なくされた。

 まぁ、その後に俺に挑んできたフェイトもレヴィアと同じ触手で粘液塗れにしたが。


「明日はどんな内容でセクハラ……コホン。鍛練をしてやろうかな」


 月明かりに照らされながら俺は人通りの少ない場所へと入り込んでいく。

 こんな夜遅い時間は学園の規則として学園の敷地内にいなくてはならないが、場所は指定されていない。

 他の生徒が休んでいる間にこっそり強くなりたい物好きなんかが偶に見つかるが、俺のお目当ては人目につかないエリアだ。


「……さて、そろそろ姿を見せろ。俺の様子を窺っていたのは気づいている」


 数ある演習場の一つ、街灯が自らの支柱を照らすくらいしか光源が無い場所で俺は暗闇に声をかけた。

 初めてレヴィアから声をかけられた時と同じように気配や魔力を察知していたのだ。

 ただし、彼女の時と違うのは今回の相手の方が気配遮断能力が高いことである。


「殺気をずっと向けていれば馬鹿でも気づく。いい加減にしたらどうだ?」


「ただの学生とは思えない警戒心だな」


 暗闇の中から返事があった。

 息を潜め、影に溶け込むようにしていた曲者が俺の前に姿を現した。

 それも一人ではなく、十人の黒ずくめの集団だ。

 全員に共通しているのは正体を隠すために黒い布で顔を覆っていることか。


「潜伏がお粗末だな。まぁ、俺の魔眼にかかればどんな奇襲も無意味になるのは当然か」


「別に構わん。我らは貴様の息の根を止めれさえすればそれでいい」


 俺を殺すために雇われた暗殺集団。

 こんな連中が侵入するなんて学園側の警備体制はどうなっているのだろうな。


「本気か? この俺を殺すなら魔王でも連れてくるんだな。そんな雑魚以下な負け犬を外してな」


 黒ずくめの集団の中の一人を俺は指差す。

 魔眼で魔力を感知した際に見覚えのある魔力の流れを見つけたのだ。


「いいや。貴様がここにいるのは自らの手で復讐をしたいからか? ジョバンニ・マーケイヌ」


「当たり前に決まってんだろうがクソ淫魔野郎!」


 正体を当てられ、黒い布を外して顔を出したのは俺に決闘で敗北したエルフだった。


「魔力を見れば他の連中も全員エルフか」


「あぁ。テメェを殺すためだけに連れてきた親父の私兵だ。現役の魔王軍の兵士だぜ?」


 ペラペラと口が軽いのは頭が空っぽだからなのか。

 それとも本物の軍人を連れてきて俺を怖がらせようとしているのか。その両方か。


「それがどうした。雑兵をいくら集めようがお前ら程度では俺の首は取れんぞ」


「強がってんじゃねぇよ。オレがテメェに負けたのは不殺の決闘のルールがあったからだ。なりふり構わない本物の命の掛け合いならオレらエルフが淫魔なんかに劣るかよ」


 下衆な笑みを浮かべるジョバンニの言葉を合図に黒ずくめ達が俺を取り囲み、暗器を手に取る。


「まずはテメェを殺す。そしたら次はテメェの女達だ。犯して泣かせて、オレのものにならなかったことを後悔させてやるよ。イヒヒヒヒ……」


 復讐のターゲットにされているのは俺だけではなくあいつらもか。


「テメェのせいでオレの学園での評判は最底辺になっちまった。魔剣を使っても白服のハーフ淫魔に負けたとあっちゃエルフの名折れだ」


「それがお前の実力だろう。痛みに恐怖し、粗相をした姿は実に見事な道化っぷりだったぞ」


「テメェら! こいつを今すぐぶっ殺せ!」


 俺とジョバンニの会話を聞きながらじわじわと距離を詰めていた黒ずくめのエルフ達が一斉に襲いかかる。

 半数は直接暗器で俺の首を狙い、もう半分は逃げられないように魔法の準備をしていた。


「やれやれ。困った連中だ」


〈色欲の魔眼〉発動。

 妖しく光る瞳が敵の魔力の流れを写し出す。俺はまず最初に迫ってくる刺客の手を掴むと思い切り振り回して他の刺客の攻撃を防ぐ盾にする。


「ぐあっ!」


「そら、受け止めてやれ」


 仲間の刃に突き刺された男を魔法の準備をしていた連中へと投げる。

 相手が怯んだ瞬間に、俺は素早く走り出して暗器を出していたエルフの顔面を蹴り飛ばした。


「ぎやぁっ!」


「綺麗な顔が台無しだな」


 足裏に刺客の鼻と頭蓋が砕ける感触があった。

 三人目の刺客は何かしらの毒を塗ったナイフを投擲して来たが、俺はそれを避けることなく指で掴んだ。


「生憎と生まれつき毒は効かなくてな。だから申し訳ないが返すぞ」


 くるりとナイフを回転させ、力いっぱい投げ返す。

 するとナイフは元の持ち主に突き刺さるどころか脇腹を貫通して飛んでいった。


「げ、解毒……」


 毒はかなり強力だったのか泡を吹きながら倒れた刺客。


「クソっ! 接近戦がダメなら魔法を使え!」


 前衛が潰されて怖気付いたのか次々に複数の属性の魔法が飛んで来た。

 爆発音と共に俺の姿が煙に包まれる。

 警戒をしながらも刺客達は確かな手ごたえを感じていた。


「──やったか? と期待させたのなら謝ろう」


「「「っ!?」」」


 俺の声を聞いて驚く刺客達。

 煙が晴れた先に倒れていたのは自分達と同じ格好をしていた黒焦げのエルフだった。


「揃いも揃って俺を直視していたな。雇い主から情報の共有はされていなかったの?」


〈色欲の魔眼〉による強制催眠で刺客の一人を俺と誤認させていた。

 この魔眼は通常は対個人戦に使うものだが、俺くらいの使い手になると同時に複数の敵と視線を合わせることなど造作もない。

 魔力の消費こそ激しいが、今日はレヴィアとフェイトの二人から魔力を頂戴していたならな。負担にすらなっていない。


「次はどうする? キチンと俺を狙わないと同士討ちするだけだぞ」


 催眠を受けたせいかエルフ達の動きが鈍る。

 当然だ。奴らにとっては今自分が見ている景色が本物なのかすら確証が持てていないのだから疑心暗鬼にもなる。

 それが俺の狙いだというのに。


「そちらから来ないのならこちらから行くぞ」


 敵の勢いを削いで隙が生まれたところで色欲魔法を発動させる。


「お前達は学生ではないから手加減というものは無用だな」


 決闘でお互いの命を奪ってはならないのが校則だ。

 しかし、黒ずくめの刺客達はジョバンニの手引きによって不法に学園へと侵入した外部の者だ。

 ルールに縛られて加減をしてやる必要はない。


「二度と俺や俺の女に手を出せないようにしてやろう。これからお前達が目にするのは魔王の絶技だ」


 色欲魔法〈触手腕テンタクルアーム〉。

 色欲魔法〈触手腕テンタクルアーム〉。

 色欲魔法〈触手脚テンタクルレッグ〉。

 色欲魔法〈触手脚テンタクルレッグ〉。


 両手両足の全てを触手へと変化させる。

 この状態だと俺の機動力は下がってしまうが、細分化していく触手のおかげで手数は何十倍にも増える。


「一手、二百五十本。一足、二百五十本。合わせて千の我が触手が極楽浄土への扉を開かん──」


色欲魔法奥義・絶頂性技〈真数千触手サウザンドテンタクル〉。


「あ、あぁっ……」


 腰抜かし、動けなくなるジョバンニを含んだ十人の刺客達へと伸びる触手。

 視界を埋め尽くす波のような触手の一つ一つに俺の感覚がリンクしており、更に〈色欲の魔眼〉によって敵の魔力の流れを見極めて個人に合わせた攻めの突きを繰り出す。


「案ずるな。命は奪わないが、理性は溶かしてもらうぞ」


 触手から分泌される粘液はジョバンニに使った媚薬を薄めたもので、触手の繭に捕まったものはあらゆる刺激を快楽として受け入れる。

 そうして、千本の触手にぐちゃぐちゃにされてしまった対象は全身を粘液塗れにして、真っ白に燃え尽き地面に崩れ落ちる。


「また、つまらないものを逝かせてしまった……」


 夜のベッドの上だろうが、血生臭い戦場だろうがこの奥義を受けた相手は快楽に溺れて戦意を喪失する。

 それゆえに俺は他の魔王から最低で、最恐で、敵に回したくない最悪の魔王と呼ばれていた。


 まぁ、部下の前で快楽堕ちする魔王とか尊厳破壊もいいところだからな。

 勇者が俺の魔法を封じたのもこの奥義対策だったりしたのだろうか?


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