第14話 たわわな胸を守るため
「いや、勝つとは思ってたけど何したのよアンタ」
決闘が終わり、観客席に紛れていた彼女達の元へ向かうとフェイトが顔を引き攣らせていた。
ジョバンニの取り乱しようと失禁した姿を見ていたからだろう。
「まだ秘密だ。いずれお前に使うかもしれんな」
「絶対にやめてよね!」
素早く俺から距離を取るフェイト。
媚薬はあくまで夜の場を盛り上げるためのものであって今回のような使い方は特別なんだがな。
「コイツの魔法って得体が知れないわね……」
ぶつぶつ独り言を言いながら教師に担架で運ばれていくジョバンニを見送るフェイト。
運悪く搬送を担当していた教師達は粗相をした臭いに嫌そうな顔をしていた。
「あの、アスモデウスさん」
昨日の決闘で怪我した箇所を包帯で覆っていたレヴィアが声をかけてきた。
「ありがとうございました」
「感謝されるようなことはしてないぞ。俺が勝手に決闘を挑んだだけだ」
お礼の言葉を口にする彼女に俺はそう言った。
決闘にレヴィアの意思が入る余地はなく、気絶していた彼女を賭けの対象にしたのだから感謝される筋合いはない。
「そうですね。でも、結果的にわたしは助けられたのでお礼は受け取ってください」
フェイトが何か言っていたのか、レヴィアはにこやかに笑みを浮かべた。
仕方あるまい。ここは素直に気持ちを受け取ろう。
「これで二回も助けられちゃいましたね」
「気にするな。友人なのだから助け合うのは当然だろう」
「友人……」
レヴィアは少し考えるように俯くと、顔を上げて俺の目を真っ直ぐに見た。
「決闘でアスモデウスさんが勝ったからわたしはあなたの物になるんですよね」
「それは方便だな。奴を決闘に引っ張り出すのに言っただけで、俺自身はレヴィアを縛るつもりはない」
実際のところ、決闘誓約を結んだのはジョバンニであって対象になったのは奴がレヴィアと結んだ決闘誓約の破棄だ。
今のレヴィア自身は何の契約にも縛られていないフリーの状態にある。
「ねぇ、私も縛るつもりないわよね」
「お前は直接俺に負けたから駄目だ。俺に勝てるまで破棄はできないぞ」
「ちっ」
どさくさに紛れて聞いてきたフェイトを一蹴すると舌打ちが返ってきた。
最初から俺に敵意があって焼こうとしてくる女は縛りつけておくに決まっているだろ。
それに、大魔王関連のことを知るにも彼女との繋がりはあった方がいいしな。
あとはその方がフェイトの反応が面白いというのもあるがこれを言うとまた気温が上がるので黙っておくとしよう。
「そうなんですね……いいなぁ……」
今にも俺に噛みつこうと歯を剥き出しにするフェイトを見ながらレヴィアがポツリと何か言った気がする。
「あの、アスモデウスさん。お願いがあります」
「なんだ?」
「わたしを弟子にしてくれませんか? 今回みたいなことが今後もあるかもしれないし、もっと強くなりたいんです。そのためにわたしを側に置いてください」
先程までの悩むようなそぶりから一転、真剣な顔でレヴィアがお願いしてきた。
確かに今回のジョバンニのような連中がこれからも彼女目当てで決闘を挑んでくるかもしれん。
このたわわなおっぱいに誘惑されて劣情を煽られるのは男として当然のことだ。
俺でさえつい目で追ってしまうのに一般人が抗えるだろうか? いや、無理に違いない。
魔法が使えるようになり、素質もあるとはいえ今のレヴィアでは勝てない相手も多いだろう。
俺の知らない所で彼女が他の男の手に落ちることを考えると脳が破壊されそうになる不安もある。
かつての俺なら不倫や浮気を推奨していたかもしれないが、真っ当な家庭で育った未だと嫌厭してしまうんだよな。
「……俺とレヴィアでは使える魔法が違うから当てにはならないが、戦術や体術なら教えてやろう」
そんなことにならないように俺が彼女を育ててやらねば。
「ありがとうございます!」
「うげっ。本気なのレヴィア? こんなエロガッパなんてやめときなさい」
弟子入りを認められ、嬉しそうにするレヴィアを引き止めようとするフェイト。
ちっ、余計なことを言うな。
黙らせるために触手で口を塞ぐか?
「いいえ。わたしはアスモデウスさんがいいんです。優しくてカッコよくて強いなんて素敵じゃないですか」
「レヴィアは見る目があるな。ふはははは」
まさかのカウンターをくらい、フェイトは俺を褒めるレヴィアを信じられないものを見るような顔をした。
「ねぇ、アンタどんな魔法使ったのよ」
「俺は何もしてないぞ」
どうやらコイツには俺の魅力が伝わっていないようだな。
千年前であれば俺の物になるということはこの上ない名誉だったというのに。
「アスモデウスさん。今日は決闘に勝ったお祝いをしましょう!」
「レヴィアの弟子入り歓迎会も兼ねて宴を開くか。支払いは俺に任せておけ。金になりそうなものがちょうど良く手元にある」
「アンタその魔剣……まぁ、負けたなら文句言えないわよね。私にも奢りなさいよ」
こうして決闘は終わり、俺達は闘技場を後にして学園の外へと向かうのだった。
♦︎
それは圧倒的な強さだった。
わたしが苦戦した魔剣も、彼の前では子供が振り回すおもちゃのような扱いだった。
決闘が始まってすぐにジョバンニが見当違いな場所を攻撃した時に隣にいたフェイトさんが難しい顔をしていた。
「あの魔眼、やっぱり厄介ね」
入学初日にフェイトさんが彼との決闘をした時にも見せた魔法だ。
彼の瞳が妖しく光り、見るもの全てを惑わせる。
かくいうわたしも彼に声をかけたのはあの瞳に吸い寄せられるような感覚があったからだ。
「触手の腕は斬っても再生するのね。焼いて断面を塞げば……」
わたしは彼が勝つか負けるかハラハラしているというのに、フェイトさんは自分が戦うことを想定しながら決闘を眺めていた。
その様子は落ち着いていて、どこか楽しげにも見える。
「フェイトさんはアスモデウスさんの勝利を信じているんですね」
「違うわ。信じるとかそういう実力差じゃないものアイツは。逆にジョバンニが勝てる方が奇跡よ」
わたしにはフェイトさんの言う実力差というのがよくわからなかった。
彼女はこの場にいる誰よりも彼と多く戦って彼を知っている。
そんな彼女が言うのだから間違いないんだろうと自分を納得させる。
「ちょ、あの怪力は初めて見るわよ。それに近づいた時に何かした? 急にジョバンニの動きが……」
決闘は終始、彼の優勢で進んで終わった。
手も足も出せずにジョバンニは敗北した。
「わざと剣を使ったわね」
「そうなんですか?」
「アイツの実力なら触手だけでもどうにかできたでしょうね。魔力を全部奪って私みたいに無力化できたのにしなかった。ふーん、そういうことね」
何かに納得したかのように頷くフェイトさん。
「昨日の意趣返しのつもりかしら」
「あっ」
そう言われてわたしもやっと気づいた。
ズボンにしみを作って気絶しているジョバンニの姿は昨日のわたしに似ている。
彼が狙ってやったのだとしたら、それはわたしのことを思ってのことなのだろう。
「スカッとするわね」
「……はい」
ちょっとだけ、ほんの少しだけわたしはフェイトさんに同意した。
彼にお礼を言って弟子入りを頼み込んだのは自分にとっても意外なことだった。
なんだかもっと彼のことを知りたいと思う気持ちが湧いてくるのが分かる。
これはわたしにとって初めての気持ちで、胸がドキドキするのだった。
誰も助けてくれずに家の中で泣いていた過去のわたしに伝えてあげたい。
あなたが想像していた王子様は外の世界にちゃんといるんだよって。
「おい。どうかしたかレヴィア?」
「いいえ。なんでもないですアスモデウスさん」
優しくてカッコよくて強い彼の側にこれからもいれるようにわたしも頑張って強くなろう!
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