最終話 無敵要塞で異世界観光しながら、女子高生がスローライフしてみた!!

 オペペペラの女子高生艦長。

 来海紗希は今日も司令官席に座って、執筆中。


「紗希! イモ焼いたぞ! イモ!! あと、グラタン作った!!」

「ありがとうございまーす。置いといてー」


「ふふっ。もう名前も呼ばれない。だが、私は知っている。紗希の生活の一部に完全なる融合を遂げた結果がこの扱いなのだと!! 冷めないうちに食べてくれ!!」

「はーい」


 鏡の精霊ラミー。

 最近は鏡を出すこともなくなり、やる事もないのでブラウスにジーンズを穿いてエプロンを付けて、普通に奴隷たちと家事をこなしている。


「ちょっと!! 誰よ! こんな色の出るヤツと白いブラウス洗濯機に入れたの!!」

「クリスタちゃん来たぁー!! それね、ラミーさんのスカートだよ! ツクターン自治領で買ってた! 赤って目立つだろ!! とか言って!」


「またラミーなの!? なんであいつ、洗濯物の仕分けもできないのよ!! あっ! じゃあ、下着をネットに入れなかったのもラミーね!? だってこのサイズのブラ使ってるのって、あいつだもんっ! とっちめてやるわ!!」


 雪の妖精クリスタ。

 シシシリア騒動のあと雪の妖精郷に戻ったところ、「せっかくだから2ヶ月くらいここで過ごそっか!!」と紗希に笑顔を向けられ、仲間たちに「ごめんね、みんな。私、行くわ。平気。心配しなくて良いから」と、諸般の事情を複合的に考えてオペペペラに乗船した。


 居住区の個室に洗濯機は設置されているのだが、割と全員ずぼらなので洗濯物は溜まる一方。

 ついに「平気だよ! 汗かいてないし! 2日くらい、イケるってばー!!」とか紗希が言い出したので、洗濯担当妖精としてダメなクルーたちの面倒を見ている。


「あ。ごめん。なんか見覚えあるなって思ったら、わたしのブラだ」

「あんたのヤツなの!? ねぇ、見た瞬間に気付きなさいよ!? 女子としての自覚ないの!? さすがに自分の下着くらい一目で分かって、恥ずかしがりなさいよ!! 許容範囲は二度見まででしょ!? 紗希、7回くらい見てやっと気付いたじゃない!! バカなの!?」



「クリスタちゃんのドレスの裾をガバッて掴んでさ、どうにか下に向かって全力で引っ張れないかなって考えてた!!」

「バカだった!! せめて捲れぇ!! 見るのパンツだけにしろぉ!! それされたら、全部脱げるじゃん!! そんな隙なんか普通の女子は生まれることなんかないわよ!?」



 常識妖精が増えたため、ミリアはオペペペラの操舵手に専念するようになった。

 今も紗希の視線は原稿とロリっ子のお尻を行ったり来たりしている。


「次にやったら、怒るからね!! 言っとくけど、今回だけだから!! いいわね!!」

「クリスタちゃんは優しいよねぇー。今回だけが今回で100回記念だもん! そっかぁ! これがママかー!! ツンデレママ!! 48歳だったもんね?」


「38だからぁ!! ああ、もう!! じゃあこっちの無地でフリルすらついてないのがラミーのかぁ!! ちょっとぉ! ラミー!! どこ行ったの!?」


 クリスタ母ちゃんがいる限り、オペペペラの秩序は守られそうである。

 ギリギリのラインで。


「紗希様ぁ! もう少しで綿毛の魔獣モッコモンの生息地です!!」

「おおー!! ついにモフモフ!! 執筆が捗りますなー!!」


 オペペペラは今日も観光中。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 艦橋にルビーが駆け込んできて、直後レアが飛んでくる。


「紗希様! 助けてください!!」

「どうしたの? なになに? あ! レアちゃんが服っぽいの持ってる!! 着せ替えっこだ!! わたしも入れてー!!」


「ヘーイ!! 紗希もトゥギャザー!! ルビーのおっぱいが膨らんできたので、ブラジャーつけさせまぁーす!!」

「えっ!? そうなの!? んー。ぺったんが魅力だったんだけどー。けど、今はクリスタちゃんがいるからなー。微乳もまた良し!! みーせて!! どんな感じに……ゔっ!!」


 倒れ込む艦長。

 マントを外しているので前のめりに行くとスカートがえらい事になるのだが、無言で駆け寄って来たミリアがそっと整える。


「待って! 待ってよ、ルビーちゃん!! ねぇ! 昨日も一緒にお風呂入ったじゃん!!」

「ひぅぅ!? は、はい!? えっ、なんでそこで怒られるんですか!? 理由が分からないと興奮できません!! 匂いのキツいルビーの方がいじめがいあります!?」



「なんでぇ!? なんで、そんなに胸が……!! クルミじゃん!! ミリアちゃんクラスのクルミになってるじゃん!! 一晩でぇ!! どーゆうこと!? ドーピングしたの!?」

「あ。そんなことですかー。獄炎の精霊は興奮が一定値貯まると成長するんです! ほら、うちの郷のみんな、全員ガチムチだったですよね? どうもルビーはガチムチではなく、ムチムチになるみたいで!! まず胸にきました!!」


 紗希艦長、瞳から光が失われる。

 2週間ぶり、今シーズン18度目であった。



「……わたし、別に自分の体形は気にしてなかったけどさ。それって単純に、比べるほど仲良しの子がいなかっただけみたいでさ。なんて言うか……こう……。胸が痛い……!! 定期的に痛むの!!」


 おっぱい番付が妖精を除くと最下位に落ちた紗希。

 ラミーも一緒なので、寂しくないね。


「フハハハハハ!! 紗希! どうした!! 胸の痛みか!? それはいかんな! 大病の兆しかもしれん!! よし、私が確認しよう! このルッツリンド・リリンソン!! リリンソン皇国が第一皇子!! 医術に関しても一通りの知識を付けておる!!」

「……ルッツくんか。んーん。平気。心配してくれて、ありがと」


 兄が来ると、弟も来る。

 実は結構仲良しなリリンソン兄弟。


「ブゥーハハハハ!! 兄上!! 愚かなり!! 紗希の胸が痛むはずがなかろう!! 肉体の成長の際に痛みが伴うことがままある!! しかぁし!! どう見ても紗希の胸は成長していないではないか!! 兄上! Cカップとやらは乳の序列下から数えて第3位のように言われるが、実際のところ着ている服がふわっとしていたら、無いも同然だ!! 現実と向き合うが良い!! 紗希!! ブゥーハハハハえべあぁぁぁぁぁぁぁぁんっ」


 紗希さん、無言で立ち上がりブレザーを脱いでからモッコリンドを捕まえると、やはり無言のタワーブリッジ。

 そこから続けてのバックドロップで黙らせた。


「フハハハハハ。愚弟よ。未だコミュ症か、お前は。いや、致し方ない。なにせ言葉の通じぬ異世界で15年。半年でコミュ力つけろと言う方が酷なもの。紗希、許してやってくれ。モッコリンドも悪気があったわけではないのだ。紗希の胸は可もなく不可もなく、やや不可だが、私はそんなやや不可な紗希のおっぱいを愛している」

「……ルッツくん!!」



「フハハハハハ!!」

「うるさいっ!!」



 原点回帰の背負い投げが美しく決まり、ルッツリンドが吹っ飛んで行った。

 この半年で第一皇子は受け身を習得したのだが、紗希のガチ投げは受け身とかでどうにかなるレベルではなく一直線に飛んでいくのでダメージは甚大。


「ぐっ、ヴォエェ……。なにぃ!? ルビー!! 昨日までガキだったのに! なんでそのクルミは!! ブゥーハハハハ!! これは素晴らしい!! しかも何も付けておらぬとはボーナスステージ!! 余の妻にしてやろう!! モッコリンドがモッコリしてきた!!」

「あ。大丈夫です。そういうガチのセクハラはルビー、ただキモいだけなので。紗希様、助けてくださーい」


「え゛っ!? あ゛っ!! ち、違うんですよ! ハハッ! 嫌だなぁ、クルミさん!!」

「発音がぁぁぁ!! ちがぁーう!! どりゃぁぁぁぁ!!」


 ミニスカ回し蹴りがモッコリンドの腰を完璧に捉えて、ゴギャッと音がした。

 声を上げずに倒れ込んだ第八皇子。


 クルーたちは「紗希、この半年で恥じらいがなくなったな」と思ったが、もちろん何も言わない。

 離れたところで倒れているルッツリンドだけで無言で親指を立てていた。

 「フハハハハ。今日もピンクか。抜かしおる」と辞世の句をしたためる。



 最後に投げてくれない辺りに、確かな変化を感じざるを得ない。



「紗希様ぁ!! 到着しましたぁ!! ほわわわわわわわ!!」

「あ。出なくて良いよ、ミリアちゃん」


「えとえと! でもノリーオ様が!! ご用だと思うのですが!!」

「はぁー。このプルプルだけがわたしを癒してくれる……。いいんだー。なんか肩凝るらしいしさー。走ったりすると痛いらしいしー? わたし、そういうの嫌だしー」


「フハハハハハ!」

「ブゥーハハハハ!!」


 無言で投げられるリリンソン兄弟。

 おかげで結びが投げ技に上書きされた。

 ご苦労、皇国のバカ皇子たち。


「まあいいや! よーし! みんな!! 今日はモフモフした子たちをたくさんモフモフしよう!! 可能ならオペペペラにお招きします!!」


 紗希はマントを羽織ると、バサッと翻した。


「オペペペラ! 着陸!!」

「はい! かしこまりました!!」


 こうして来海紗希の異世界ライフは続いて行く。

 半年で書き溜めた小説はもう4冊目に入ったところであり、彼女の部屋の本棚で大切に保管されている。


 『無敵要塞で異世界観光してみた』とタイトルが付けられるのは、彼女が満足した時の予定。

 まだ遠い未来の事だろう。




 ————完。

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