第36話 破壊要塞シシシリアの最期 ~そしてこれから始まるスローライフについて~

 マントを羽織り、スカートの丈を調整して、ブラウスのリボンを結び直したら準備完了。

 現在シシシリア艦内では警告音が鳴り響いている。


「もぉー。なんでルッツくんまで倒れてるのかなー。わたし女子だよ? この2人抱えて行くのー?」


 殺人犯が死体遺棄について悩んでいるように見えるのは気のせいであり、心優しき女子高生が頼りない男子のお世話を焼いているところです。

 紗希が「どうしよっかな」と悩んでいると、マントを装飾している宝石の1つが光り、目の前にロリっ子のホログラムが現れた。


「わぁー! ミリアちゃん!! なんでなんで? それもオペペペラの機能!?」

「えとえと! 紗希様のマントについている、宝石がありますよね!」


「うん! ある! この肩から胸の辺までに程よくキラキラしてるヤツ! カッコいいよねー!! わたしのお気に入りポイントだよ!」

「そのその! 左の胸のところにあるピンクな宝石ですが、あたしの胸についているブローチと同じ通信装置だそうです! たった今、ノリーオ様が教えてくださいました!!」


「ほへぇー。どれだろ?」

「あのあの! 左の胸の先っぽのところについているヤツです!!」


 紗希はマントを確認する。

 いつも翻していたので気付かなかったが、きちんと整えたら胸の先端部分にピンクな、綺麗なピンク色をした宝石が確かに存在した。


 紗希は「うん。わたし、アポロチョコレート好きだったけど。いま、嫌いになったかな!」とその宝石の形を見て思った。


「ミリアちゃん」

「ほわわわわわわわ!」



「今度さ、畑中さんに言っといてね! やっぱり投げますって!!」

「理由は分かりませんが! 分かりました!!」


 覇者のマントを作ったのは精霊王です。

 シシシリアをクルミトークで意気投合したモッコリンドに与えたのも精霊王です。


 精霊王殺害編の予定はありませんのでご了承ください。

 だってじいさんにセクハラされた紗希ちゃんが投げるだけだもの。どうせ。



 それからミリアは「ルビー様とレア様が、脱出用に強襲揚陸艦おっぱいの用意を整えておられます!!」と伝えた。

 紗希は「オッケー!!」と答えて、ダメな男子を2つ引きずりながら移動を開始したが、「なんで今、おっぱいって言ったの?」と疑問を抱く。


「あー! 紗希様!! あぅぅぅ! なんかポロポロになっている人が2つも!! ルビーもそっちに行けば良かったですぅ!!」

「ヘイ! 紗希! おっぱいの用意できてるので! パーリーでぇーす!!」


「ありがとー! ……ねぇ、なんでみんなしてさ、おっぱいって言うの?」



「紗希がさっき命名したじゃないですか! おっぺぇ! フレキシブルなネーミングでぇーす!!」

「レアさん、訛ってますぅ。あと紗希様、普通におっぱいって言ってました……。あぅぅ! ルビーにはおっぱいがなくてすみません!! 豚になれない雌ブタです!!」


 顎に手を当てた紗希さん。

 「あ。言ってる。確かに」と思い出して、「じゃあ、もう良いよぉ!」と諦めた。



 リリンソン兄弟をオッパオ改めおっぱいに叩き込むと、ルビーと紗希が乗り込んだ。

 レアはそのまま扉を閉める。


「あれ? レアちゃん?」

「……アタシはここで、おっぺぇを押します。無理な着岸をしたから、誰かが残らなければ。……紗希、ルビー。とっても楽しかったでぇーす!」


「ひぅぅ!? レアさん!? そんな! レアさぁん!!」

「また会いましょう!!」


 レアが力いっぱいおっぱいを押すと、エンジンが稼働し始めオペペペラへ向かい飛び立った。


「うぅぅ。レアさん……」

「ルビーちゃん! 泣き顔可愛い!! もっとちょうだい!! なんか心が清らかになる!! 穢れた男子の相手してきたから!!」


「さ、紗希様……!! レアさんが犠牲になったのに……!! なんてドSの極み……!!」

「うんうん! やっぱりルビーちゃんはね、純朴でピュアなドMでいて欲しい!! ほら、見て! あそこ!」


 そこには、爆発するシシシリア。

 バラバラに粉砕されると、粒子になって大気に溶けるように消えていく。


 失陥する時は自然環境に配慮されている太古の要塞シリーズ。


 そこから普通に翼を広げて飛んでくるレア。

 ルビーはきょとんとしたあとで、悔しそうにキュッと目をつぶった。


「あぅぅぅ! 弄ばれましたぁ!! そう言えば、さっきもルビーの体をむちゃくちゃにしてたんでしたぁ!! レアさんのばかぁ!! んっ。この気持ち良さ。ありですね!」

「どんどんピュアじゃなくなっていくね。けど、良いんだ。わたし、そんなルビーちゃんも好きになってみせるから」


 おっぱいがオペペペラに無事帰還すると、ミリアとクリスタが出迎えた。


「ただいまー!! ふぃー!! やっぱりミリアちゃんを抱きしめると、気持ちが穏やかになるねぇー!!」

「ほわわわわわわわ!! お帰りなさい! 紗希様ぁ!!」


「ちょ、なんでぇ!? なんで足を掴むのよ!? 私はもう帰るからぁ!! ヤメろぉ!! うわああ! 待ちなさいよぉ!! ねぇ、私忘れ物届けに来ただけで!!」

「またまたぁー! そんなこと言いながら、構って欲しかったんでしょー? ツンデレさんめー!! ちゃんと待っててくれたし!!」



「は、はぁ!? 勘違いしないでよ!! 私はただ、艦長に挨拶しないで帰るのは失礼だと思ったから、一言だけマナーをぉぉぉい!! なんであんた! 普通にスカートの中をガン見してんのよぉぉ!! 帰るぅ!! 離せぇ!! ここ変態しかいないんだもん!! そもそもおかしいのよ、あんた!! なんで雪の妖精を素手で捕獲できるの!? ルワイフルの最強種よ!? だぁぁぁ! スカート捲るな!! 助けてぇぇ!!」


 クリスタはツンデレではなく、照れ屋なだけの礼儀正しい妖精だった。



 こうして、シシシリアを撃墜したオペペペラ。

 世界の平和を守る戦いを終えた空気だが、たまたま観光気分でシシシリアを見に来た紗希たちがモッコリンドに攻撃されただけで、特にルワイフルは関係ない激戦であった。


 帰り際にポギール王国の争乱を確認したところ、未だにクルミを投げ合っていたのでオペペペラ重力砲で鎮圧。

 「ルッツくん! 適当に挨拶しといて! わたし絶対に行かない!!」と気分を害した紗希の代わりに、自分で自分を回復魔法で治療したルッツリンドが名代として国王に謁見。


 「フハハハハハ! 騒乱を鎮めたのは、女子高生!! 来海紗希よ!!」とちゃんと御遣いを果たしたのに、「クルミとな! 何というオープンエロスな名前!! よし、国を挙げて英雄として奉ろう!!」と国家規模の良くない判断が下される。


 「ポギール王国の英雄! クルミの紗希!!」と自分が来海と紗希の別居をさせられたことと、『巨乳の紗希』と言う必殺仕事人の通り名みたいなヤツがポギール王国では、「絶対にすごいクルミの美少女だ!」「ああ! 名前にクルミって付けるなんてただ事じゃない!!」と顔出ししないアイドル的な人気を博し始めたため、いつも身だしなみに気を遣う紗希艦長がミニスカートにも関わらず乱暴に足を組んでから、不機嫌そうに言った。


 「絶対にポギール王国は行かないから。わたし」と。


 そのままオペペペラは本来の目的である異世界観光へと航路を戻し、ルワイフルの空を飛ぶのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから半年が経ち、今日もオペペペラは絶好調で航行中。


「あのあの! モッコリさん!! どこですか!?」

「ブゥーハハハハ!! こちらに! ミリア様!! 余のことはモッコリと気軽にお呼びくださいませ!! そして気軽に頭をお踏み下さいませ!!」


「ほわわわわわわわ!! 無理です!! あたし、奴隷ですよ!!」

「臣をお救いくださったのはミリア様!! なれば、このモッコリンド! 余生は全てミリア様に捧げる所存! さあ! モッコリとお呼びください!! モッコリいたしましょうぞ!! その立派なクルミを揺らしながら、この愚かなモッコリンドのモッコリをお踏み下さい!!」



「えとえと! モッコリさんを呼び捨てにすると紗希様に怒られるので無理です!!」

「くっ! あの貧しき女め!! どこまでも余の覇業の邪魔をする!!」



 来海紗希はカラッとした性格なので、ぶん投げて締め上げたモッコリンドに対して遺恨はなかった。

 が、兄の治療によって意識を取り戻したモッコリンドが第一声で「ぶぅあああ!! 貧乳殺人鬼ぃ!!」と叫んだため、普通に新しい遺恨が生まれた。


 それを助けたのがミリア。


 「あのあの! 紗希様ぁ! あたしの体を売るので、喧嘩はおヤメください!!」と瞳を潤ませるロリっ子の前では、紗希の柔道も無力であった。

 その結果、モッコリンド・リリンソンはオペペペラの雑用として乗船を許可されたのだ。


 そして定期的に失言をして投げられている。

 今もゴスッと音がしたが、多分制裁の音だろう。

 プロレス技を使えば問題ないという高度な判断。



 1つの物語の終わりと、新しい物語が紡がれ始める。

 そんな転換期。


 新たな門出は別れと表裏一体。

 ルワイフルとさらば。クルミにお別れを。


 全てのおっぱいにありがとう。


 最終話ではありません。

 次が最終話です。

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