第28話 雪の妖精郷へお邪魔します!! 誰か乗ってください!! ~雪の妖精・クリスタさんは乗りたくない~

 ポギール王国の町並みは、中世ヨーロッパ風。

 で、あって欲しかったというのが来海紗希の感想。


「なんかちょっと近代的過ぎるよー。そりゃ、お金が電子化されてる時点で覚悟はしてたけどさ? 車がチューブ状の道路を走ってるとか、ドラえもんの作られた22世紀の世界観じゃん。これ、わたしの思ってたのと違うなー」


 超先進文明国家、ポギール王国。

 ドラえもんと攻殻機動隊とPsychoPASSを足して、3で割らなかったような都市がそこかしこに存在していた。


「ひぅぅ! なんかすごく怖いです……!」

「待て、ヤメろ! ルビー! 感想なら先に言わせてくれ!! 頼む!!」


「あ、はい。どうぞー」

「ふふっ! 勝ったな!! 見たか、紗希! まるで人の営みを機械が支配しているようだ!! これは良くないな! やはり自然と共に生きるのがベスト!!」



「およ? わたし、SFも全然イケるので、これはこれで良いですけど? ただ、予想と違ったのが悔しかったのでちょっと落胆してただけですよ! ね、見て!! ミリアちゃん!! なんか、メカっぽい服の子がいる!! ミニスカ!! ああっ! あっちの子! 絶対にアンドロイドだぁ!! やっぱ1回、少しだけ寄ってく!?」

「くぅぅぅ!! 殺せェ!!」


 先手の方が不利だと誰か教えてあげて欲しかった。



「ひぅぅぅ! きっとルビーは珍しいので、捕獲されて! なにか得体のしれない管で体をまさぐられるんですね……!! 隅々まで調べられて!! ふへへへへへっ」

「ぐぬぬ! それはちょっと見たいっ!! だって、モコン界にいなかったもんね! 触手さん!! じゃあ、メカ触手さんの出番だよ!!」


 そしていつもは引くくせに、ルビーに同調する紗希。


「フハハハハハ!!」

「そっか!!」


 こちらは、長年連れ添った夫婦のやり取りみたいになったルッツリンドと紗希。

 レアは加入間もないので、じっくりどうぞ。


「あそこに見えるのが王宮でぇーす!」

「うへぇー。タワーじゃん。宮じゃないよね。けどなぁ、超未来都市もなかなかそそるんだよねぇー!! ほら! 未来先取りし過ぎて、機能性もデザイン性もよく分からないけど、なんか奇抜で露出のあるエッチな服が広く流通してたりするじゃん!!」


「はぁぁー! 分かりますぅー!! ルビー、無理やり着せられたいです!!」

「くぅぅー!! わたしもルビーちゃんに無理やり着せたい!!」


「だけど紗希さん、ポギール王国は医療技術が発達していて、人口の95パーセントが高齢者ですよ? 高齢者の定義は80歳オーバーでぇーす!!」

「そうなの!? ロリババアチャンスじゃん!!」


「フハハハハハ!!」

「え゛っ!? 見た目もお年寄りなの!? 美容技術の需要ないの!? しかも性欲が薄いから、子供が全然できないの!? ええー!?」


 ラミーが呟く。


「なんでリリンソンのヤツ、高笑いだけで紗希に意を酌んでもらえるようになってるんだ!! くっ! 殺せ! というか、殺す!!」


 楽しそうな艦橋で、1人マジメに仕事をしていたロリっ子が告げる。


「紗希様、紗希様ぁ!! 雪の妖精郷の上空に入りましたぁ!!」

「そっかー! じゃ、ポギール王国はいいや!!」


「ちなみに、オペペペラの出力が現在ダウンしています!! このままでは、6分と20秒後に墜落します!!」

「へー。……え゛っ、なんでぇ!?」



「雪の妖精さんたちから、エンジンの噴射口にゴリゴリ雪詰められています!! 全然溶けないので、エンジンは全基停止しました! 稼働を続けたら爆発しますので!!」

「ダメじゃん!! このパターン! ラミーさんのとこを思い出す!! けど! 小さい妖精さんが集まって、頑張ってマフラーに雪詰めてるのなんか可愛い!!」


 実はオペペペラにとって、墜落の危機は初めての事態である。



 無敵要塞が落ちる。

 それはまずいと紗希艦長は指示を出した。


「この中で飛べる人! はい、手を挙げて!!」

「アタシ飛べます! 背中の翼は伊達じゃないでぇーす!! 羽を飛ばして、首を刎ね飛ばしてきまぁーす!!」


「レアちゃん。韻踏んだからってそんな残虐なことしないでね? ドジっ子が殺意持って攻撃するとか、絶対に過失致死案件以上じゃん。あれ? 他に飛べる人はー?」


 ルッツリンドとミリアは人間。

 ルビーは飛べない。

 ラミーは沈黙。


「あのあの!」

「おおー! ミリアちゃんのナビが来たー!! なになに!?」



「ラミー様、精霊郷でオペペペラに飛びながら鏡投げつけておられたような!!」

「え゛っ!? ……人違いじゃないか!?」


 ラミー、出番なのに腰を上げない。



「フハハハハハ! 雪の妖精はルワイフルでも屈指の強者ばかりが生まれる種族! ラミーよ、臆したな! フハハハハハ!!」

「だ、黙れ! バカ!! リリンソン!! 紗希! こいつも飛べるぞ!! 私知ってる!!」


「と、飛べませんー!! 鏡の精霊は小卒ですかぁー! 人は空を飛べませんー!! 人体の仕組みを学んでからものを言ってくださいねぇー!!」

「知ってますぅー! でもお前はそもそも人っぽいだけで、リリンソン皇国から来た異世界人ですぅー!! 魔力で体浮かせるくらい余裕ですぅー!!」


「魔力で浮いた時点で魔法使ってるから、他の魔法が使えなくなるんですぅー!! バカなんですかぁー!! 空飛ぶ囮にしかなれませんー!!」

「そんなこと言ったら、私なんて飛んで魔法使っても、ほとんど相手の攻撃待ちの反射させるヤツしか使えなのでやっぱり囮にしかなりませんー!! 鏡投げつけたって叩き割られて終わりですぅー!!」


 オペペペラが激しく揺れた。


「紗希様ぁ!! メインモニターが曇って見えません!!」

「ルッツくん!」


「フハハハハハ!! 抜かしおる!!」

「やーい! リリンソンのばーか!! 死んで来い!!」


「ラミーさんも!!」

「くっ。殺せ……!!」


 レアがルッツリンドとラミーを両脇に抱えて、上空に飛び出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 竜族の姫がまず大きな翼を羽ばたかせた。

 竜巻が起きると、体長40センチほどの妖精たちが吹き飛ばされていく。


「来海紗希さんより皆さんの惨殺を依頼されました! レアでぇーす!!」


「フハハハハハぁぁぁぁぁぁぁ!! 落ち着けぇ、レアぁぁぁぁ!! あと助けてぇ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁああ!! ちょ、私も助けてくれ!! レア! 最初に私たちを惨殺するなよ!! お前、個性の塊だな! サイコパスじゃないか!!」


 フレンドリーファイアをキメたレア姫。

 そんな彼女の前にキラキラ光る青い髪の妖精がやって来た。

 彼女は不遜な態度でレアを指さす。


「なによ、あんた!! 竜族が何の用!? 言っとくけど、本気出したらあんたなんか一発でやっちまえるんだからねっ!!」

「相手にとって不足なしでぇーす!!」


 オペペペラの映像投影機能が発動して、紗希のホログラムが出現する。


『ついに来たよぉ!! ツンデレさん!! 待ってたぁ!! わたし、来海紗希! あなたのお名前は!? 身長とスリーサイズは!? オペペペラに乗りませんか!!』

「な、なに、こいつ!! そう言えば、無敵要塞とか言うのがあるんだっけ。まさか、この戦艦なの!? あとあんた艦長でしょ!? なんで余裕あるのよ!!」


『あー!! その悔しそうな顔!! 最高です!! もっと見たい!! あ゛っ!! 待ってください! もしかして! もしかしてぇ! 八重歯生えてたりします!? もう名前はいいので、口開けてもらっていいですかっ!!』

「え、なんなの、こいつ。怖い。よく見たら精霊王のマントしてるし。けど、侵略させないからねっ!! 私はクリスタ!! 雪の妖精の姫よ!!」



『ありがとうございますっ!!!』

「なんで嬉しそうなのよ!! っていうか、角度的にスカートの中がずっと見えてんだけど!! なに!? どういう方向性でうちは侵略されるの!? あんた、痴女じゃん!!」



 紗希はそれから、オペペペラに乗るとどういう特典があるのかを超早口でプレゼンした。

 クリスタは少しずつ青ざめていく。


 元々が青く白い雪の妖精なのに、それをより青くさせる紗希艦長。

 ひとしきり話したところで、ひょこっとロリっ子が顔を出した。


『あのあの! あたしたちはただ、紗希様の希望で観光しに来ただけです! ちょっとだけお邪魔できませんか? 侵略目的ではありません! 事実、ポギール王国の争乱を普通に無視して来ました! 侵略するなら、まずはそちらで戦力を補強するはずです!!』


 ミリアちゃん、今日も大活躍。


「うっ。確かに……。えっ。じゃあ、マジで私たちを見るためだけに来たの!? ここ、大陸の西のはずれよ!?」

『はいっ!! それって、クリスタさんの魅力と何か関係ありますか!?』


 クリスタは仲間に指示を出して、詰めた雪の除去をしたのちオペペペラを着陸させるために誘導を始めた。

 言葉にならない危険を感じたらしい。

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