第29話 雪の妖精ナンパしたのに。冷たくフラれた。 ~似たような要塞があるからそれでも見に行けとか言われた~

 雪の精霊郷は幻想的な風景が広がっており、「そう! ベタだけど、雪に覆われた国って絶対に必要だと思う!!」と満足そうにオペペペラから降りて来た紗希。


「あばばばば……。ささささ、寒いですぅ……。ルビー、これちょっと無理ですぅ」

「ほわわわわわわ!! ルビー様、しっかりしてください!! えとえと、あたしのコートならありますから着てください!! それから、マフラーもあります!!」


 防寒着でモコモコになったミリアとルビーが降りてくると、紗希は「うあああああ!! モフモフなロリっ子来たぁー!! しかも、クルミとノットクルミぃ!! これは黄金比! 黄金比です!! 写真撮ろう! 並んでー!! はい! あー! 自然な感じで良いよ、ポーズとか取らなくて! 連射してるからねっ!!」と一連の行為に及んだ。


 言うまでもないことだが、オペペペラにはスマホの充電器がとっくに設置されている。

 畑中さんが一晩でやってくれました。


 撮影会を終えた紗希は「ふぃー」と額の汗を拭った。

 クリスタがドン引きしながら確認する。


「あ、あのさ。ここ、気温マイナス70℃くらいなんだけど。なんであんた! 汗かいてるのよ!!」

「えっ!? 興奮したからですけど!? あ! 改めましてー! 来海紗希です!!」


「不思議そうな顔して来たんだけど!! それ、こっちの顔よ!! ってかあんた! なにその恰好!! 脚、むちゃくちゃ出してるじゃん!! 生足だし!!」

「あ、はい。だって、女子高生艦長で生きていくつもりなんです、わたし。だから制服を着替えるってまずいじゃないですか? はっ!! 分かった! タイツ!! タイツの女子高生が好きなんですね!! たはーっ!! 盲点だったぁー! ごめんなさい、気付けなくて!! 良いですよね、タイツ!! どのデニールが好きですか!? うあああ! アンドゥーで買っておけばよかったぁぁぁ!!」



「ヤバい。こいつ、マジでヤバいわ。なんかさっきからおっぱいって連呼してくるし!! 完全に変質者よ!! みんな! 家にこもって鍵かけて!! 出て来ちゃダメよ!!」

「おおー! クリスタさん、世話焼きタイプのツンデレさんだー!! ここは、子供産ませてヤンママにしたい!! それで、お買い物に行って、あらぁ、妹さんのお世話して偉いわねぇ! とか店のおばちゃんに言われて! わ、私、母親なんですけど!? とかツンツンしたあとに、おススメは? 全部買うから。とかデレさせたい!! わたし、おばちゃんの役やりますね!!」


 無敵艦長・来海紗希さん。このやり取りで無事に雪の精霊郷を制圧完了させた。



「うん。ごめん。いきなり襲ったの、謝る。お客として歓迎もする。だからお願い。命だけは助けて……!!」

「な、なな、なぁぁぁー! なんか涙目のツンデレさんに! 八重歯あるし!! ありがとうございます!!!」


 変態だが比較的コミュニケーションに秀でているルビーと無敵副官ロリっ子ミリアの2人が寒さに負けてくっついたままプルプル震えているので、このままだとクリスタが精神的に追い詰められてヤバい。


 そこに大きな翼が近づいてきた。


「遅れましたー。ルッツさんとラミミン探してましてぇー!!」

「おい! ヤメろ!! 私にパリピなあだ名つけるな!! それ、結果的に名付け親のレアが目立って、こっちは下手すると本名忘れられるヤツだろ!!」


「フハハハハハ! さっむ!! フハハハハハ!! あ、ダメだ」

「みんな揃ったー!! わたしたち、オペペペラって戦艦でルワイフルの各地を回りながら、色んな種族の子と交流して、ついでに平和維持活動をしています!! よろしくお願いいたしまーす!! はい、みんなも一緒に! ご挨拶!!」


 ガタガタ震えながら頭を下げる一同。

 クリスタは悟った。


 「この子、世界を滅ぼしに来たんだわ」と。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 雪で造られたドーム。

 要するに巨大なかまくらに招かれたオペペペラクルーたち。


 中は気温がマイナス3℃ほどに保たれており、この程度なら訓練された北海道や北国の人たちは寒中水泳とか寒風摩擦とか余裕だと紗希艦長が言った。

 言ったのは紗希艦長なので、責任はルッツリンド・リリンソンが負います。


「それで、あんたたち。マジで観光に来たの?」

「ほわわわわわわ! 急に押しかけてしまいすみません!! ノリーオ様にお願いして、ご連絡しておくべきでした……!!」


「ちょっと、あんた!! 名前は!?」

「ほわっ! えとえと、ミリアと言います!!」


「そう! ミリアね! 仲良くしましょ! クリスタって呼んでいいわよ! ……だから、絶対にどっか行くんじゃないわよ。あんたがいなくなると、ヤバいってハッキリ分かったから!」

「え、えとえと。クリスタ様ぁ」


「なに? 何でも聞くわよ!!」

「あのあの、あたし、ちょっとお手洗いに……!!」



「ダメよ!! そこでしなさい!!」

「ほわわわわわわ!!」

「ああ! ズルいですよ、ミリアさん!! なんですか、その羨ましいいじめ!! ルビーもまぜてください!!」


 クリスタの指示で3分の突貫工事が行われ、雪造りのトイレが出来た。



 それから、紗希についての情報をミリアから聞いたクリスタ。

 だいたいの理解を済ませる。


「私たちって僻地に住んでから、そのルッツリンド・リリンソンとか言うヤツの話もちょっとだけ聞いたかなーくらいの認識なのよね。へー。今ってそんな感じなんだ?」

「えとえと、紗希様はルワイフルに平和をもたらすために尽力しておられる、立派な方です!!」


「……ミリアが言うとなんか説得力あるわね。まあ、確かに悪いヤツじゃないって言うのは分かったけどさ」


 紗希は妖精たちに冷たい郷土料理を勧められて「寒い時に冷たい料理も良きですなぁー!!」と堪能中。

 隣で「激ウマでぇーす!!」とレアも続く。


「お、おおお、おい。リリンソン。特別に、特別にだが。肩を抱いてやろうか?」

「ふ、ふは、フハハハハハ! さては人肌恋しいか、鏡の精霊よ! 抜かしおる!!」


 ラミーとルッツリンドは濃厚接触中。

 肩を組んだだけでも奇跡なのだが、もう1時間ほど放置しておけば服を脱いで抱き合うくらいまではいきそうに見える。


「美味しかったー!! ごちそうさまでした! クリスタちゃん!!」

「え。あ、うん。あの、私さ。38なんだけど」


「そうなんだ!!」

「ほわわわわわわ! あちらのレア様は117歳です! クリスタ様!!」


「あ、そう。うん、じゃあ別にかしこまらなくて良いわよ。で、何したいのよ、紗希は」

「名前呼びが来たぁー!! 早い!! ツンデレなのに!! これはタイムアタック新記録出ちゃったね!!」


 興奮する紗希をいさめるミリア。

 クリスタにはミリアがこの世界を救う救世主に見えたらしい。


「あ、そうそう! クリスタちゃん! お願いがあります!!」

「ん? まあ、わざわざ私たちに会うために大陸をほぼ横断して来たって言うし? 言ってみなさいよ。聞けることなら叶えたげるわ」



「オペペペラに乗ってください!!」

「ねぇ! あんた、異世界人だからここの言葉理解できないの!? 私、聞けることならって言ったわよね!? 普通、コロニーの長をいきなり拉致ろうとする!?」


 ラミーが「えっ!? 私、自分から乗ったけど!?」とビクンビクン震え始めた。



 クリスタの意思は固かった。

 来海紗希、初めてフラれる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」

「すっごいため息ついてくるし!! なによ、私が悪いの!?」


「クリスタちゃん、可愛いしさ。小さいしさ」

「ふふんっ! まあね! それは認めるわ! 紗希、見る目あるじゃない!!」


「空飛べるしさ。要するに、私が急にしゃがんだらパンツ見放題だしさ。ちょっと無理やり迫ったら、そのフリフリのドレス脱がせられるかもだしさ」

「ごめん。やっぱあんた、見る目はあるけど見てるものがヤバ過ぎだわ。もう帰ってくんない?」


 クリスタは紗希にお帰り頂くため、とっておきの情報を出した。


「あのね! ここから南! 要するに大陸の南西の先っぽ!! そこに行ってみなさい!!」

「クリスタちゃんが先っぽとか言うと、なんか興奮するね!」

「ふへへへへっ! 分かりますぅー。冷たい先っぽでルビーを冷やしてくださぁーい。ちょっとずつお願いしまぁーす!!」


「この変態ども!! もぉ帰れ!! 地図あげるから! そこに、なんかあんたたちの乗ってる要塞? 戦艦? とにかく似たようなのがあるってうちの子が報告して来たの!! 先週のことだから、まだあるんじゃない? ほら! なんか楽しそうな観光スポットでしょ!!」


 紗希は「ほほう。なるほどー。確かに!」と頷いた。


「じゃあ、クリスタちゃんは諦めるよ……」

「ホント!? なんかもう、色々理不尽だけど! うん! すごく嬉しい!!」


「最後にさ、ちょっと高く飛んでくれないかな!?」

「……帰れぇ!!」


 雪の妖精郷の観光が終わる。

 クライマックスっぽい情報の片鱗が顔を出したのだが、淡雪のように儚く溶けてなくなった。

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