第25話 ミリアちゃんの奴隷たち ~奴隷が勝手にやったって言ったら大丈夫です! ふっふっふ!!~

 ラミーが言った。


「ところで、うちはもうあの竜族に入札したのか?」


 実に普通の発言だったが、金よりも価値がある言葉でもあった。


「わわっ! うっかりしてた!! なんかゴツゴツしたおじさんっぽいけど、レアちゃんの一族は全部買うんだもんね!! 入札!! あれ!? なにこれ! エラーが出た!! ねぇ、このパネル壊れてるんじゃない!?」


 機械に疎い子は自分の不手際でもとりあえず「壊れた!!」と言います。


「えーと。紗希様。残金が1万ニップルプルを切っていますけどぉー」

「なんでぇ!?」


「うひぃ!? あ、ありがとうございますぅ!!」

「ご、ごめんね! ルビーちゃん!! 怒鳴るつもりはなくて!! わー。嬉しそう」


 ルビーが満足したので、ミリアが解説する。

 というか、言うまでもなく全員が理解している。


「あのあの、紗希様! 普通にお金が無くなりました!! 紗希様、竜族の皆さんは全員で4人! 1人につき20万ニップルプルあれば買えたはずなのです!!」

「はっ!! ……これが噂で聞いたことがある、インフレってヤツだ!!」



「紗希。インフレって私に分からないけど、お金が無くなったのは紗希の無駄遣いじゃないか?」

「……ホントだ!! ……けど、ラミーさん!! 聞いて!! わたし、お金自由に使っていいってシチュエーション初めてで!! ……ソシャゲのガチャが問題になってた理由を、現世から離れてわたしは理解してしまったよ!! これは止められない!!」


 ホスト遊びとか覚えたら絶対にヤバい紗希ちゃん。

 何となく、ダメな母親の遺伝子が彼女の中にチラりと見えた気がした。



 紗希に良いとこを見せたいルッツリンド・リリンソン。

 「フハハハハハ!! ここは私に任せよ!!」と言うなり、自分から奴隷競売中のベルトコンベヤーに飛び乗った。


 参加者がこんな頭おかしい暴挙に出る事は想定されておらず、オートメーション化された競売システムはどうなるのか、主催者にも分からない。

 竜族の1人目がスーッと舞台袖に消えていく。


 パネルには「売約済み」の表示が出ていない。

 どうやら、誤作動が起きたというよりは、商品が通過する前にルッツリンドが飛び乗った事で競売対象が竜族からリリンソン皇国の第一皇子に移行したようだった。


「何してるの、ルッツくん!!」

「いや、リリンソンが行かなかったら他の客に買われていたから、これは結果オーライじゃないか?」


「ルッツくん、すごい!! 咄嗟の機転が利く男の子ってかっこいい!!」

「フハハハハハ!!」


 満足そうなルッツリンドだが、商品になった自覚はない様子。

 ルビーが興味なさそうに呟いた。


「ルッツリンドさん、買われちゃうんですね……。短い間でしたけど、クソお世話になりました」

「あ゛っ! ほんとだ!! ルッツくんがパネルに表示されてる!! うああ! 今回はわたしのせいだから、すっごく罪悪感!! でも、ルッツくんって超のつく有名人でしょ!? 9500ニップルプルなんかじゃ買えないよ! どうしよー!!」


 ミリアがポチポチと端末を操作すると、「ご成約!!」と盤面に表示された。

 紗希は首を傾げる。


「なんで? ミリアちゃん、何か裏技使った?」

「いえいえ! ルッツリンド様、0ニップルプルスタートでしたので! 1ニップルプル入札したら買えました!!」



「あ。そうなんだ……。わたし、ルッツくんに膝枕くらいしてあげよ。なんかすごく申し訳ない気分だよ」

「えとえと! ルッツリンド様を買うメリットがないので!!」


 ルッツリンド・リリンソンの時価、1ニップルプルと判明する。

 1ニップルプルは日本円に換算すると10円です。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ルッツリンドのハッスルで事なきを得たものの、次に流れて来たのはレア。

 絶対に高値が付く、竜族の姫君。


「うああああ!! またピンチだ!!」

「見ろ。紗希。……リリンソンが、レアの入ったケースを物理で押しとどめているぞ。あれなら、とりあえず入札はできないな」


 大活躍中のルッツリンド。

 普通の神経ならば衆目の集まる舞台の上ではっちゃけるにも限度はあるが、彼は覇者として3年の時をやりたい放題してきたのでメンタルに限度がなかった。


「フハハハハハ! レアよ!! このルッツリンド・リリンソン! リリンソン皇国が第一皇子によって」

「うるせぇ! てめぇ! さっきの頭おかしいグループの一員か!! 舞台、降りろ!!」


 そこに出て来たのはレアたち一族を全員拉致った賞金稼ぎたち。

 相当イライラしているように見えた。


「ねね、ミリアちゃん。奴隷商人のみんなみたいに、賞金稼ぎの人も実は良いことしてたりする? 絶滅しそうな希少種を保護してるとか!」

「奴隷商人は良いことしてませんよ? けど、賞金稼ぎさんたちは、平和に暮らしている種族を無許可でさらって来て、市場に流すのです! あたしたち商人はそれを全て買います!!」


「んー。要するに、奴隷商人は保護団体だけど、賞金稼ぎは普通に狩りとか誘拐してるってことだよね? あっ。出品者の欄、全部同じ人の名前だ!! そっか! あの賞金稼ぎの一団が今回単独で奴隷を売ってるんだ!!」

「紗希様が出す商品を全部買ってしまったので、怒っているのではとルビーは思うのですがー」


「なんで?」

「えとえと! あたしたちは先ほど、賞金稼ぎさんたちの商売を邪魔しているので! そんな人がまともに売買契約を締結するとは思えないのでは! あたしだったら絶対にそう考えます!!」


 紗希艦長、顎に手を当ててシンキングタイムへ。

 既に悪い顔をしている。


 約1分で結論が出た。


「ね? 奴隷がやった事って、誰の責任になるのかな?」

「あのあの、普通は買った奴隷商人が責任を負います!」


「わたしたちもあのベルトコンベヤーに乗ったら、商品になる?」

「えとえと! なります!」


「ラミーさん! ルビーちゃん! どっちか、この機械を壊したりできる? わたしたちのヤツだけ無事な状態で」

「さすがにそんな器用な事はできない。精霊だって万能ではな」



「ルビーはできますけどぉ。指先から熱線を飛ばせるので、端末に繋がっているコードを焼けばいいですよね? 何故か有線なので。すぐやりましょうか?」

「ヤメろよ、ルビぃぃぃ!! せめて私ができないって言う前に名乗り出ろよ!! 私が無能になった後で追い有能してくるな!!」


 ラミーさんが叫んでいる間に、ルビーちゃんがコードを焼き切りました。



「よし! じゃあ、ルビーちゃん! ラミーさん!! わたしたちもベルトコンベヤーに乗るよー!! ミリアちゃん! 買い付けよろしくっ!!」

「ほわわわわわわ!! 紗希様! ルールの抜け穴を見つけるならまだしも! 自分で穴を作ってそこを潜るなんて!! 奴隷商人の才能が溢れています!!」


 ルッツリンド・リリンソンから覇者とオペペペラ艦長の座を譲り受けた来海紗希。

 彼女は自覚していないが、既にやりたい放題のレベルがルッツリンドに匹敵していた。


 何なら、突破していた。


「あ゛っ!! ダメだ! ミリアちゃんに全責任取らせる事になっちゃう! けどぉ! ライセンスって譲渡できないんだよね!? しまったぁ!!」


 紗希が珍しく、すぐに反省する。

 この作戦は、奴隷商人ミリアが色々なアレを被るという大きなデメリットがあったのだ。


 ミリアは答える。


「あのあの! そもそもあたしの家、破産してますので! 同業者さんからも嫌われてますし! 失うものは特にないので、全然平気です!」

「そうなの!? ミリアちゃん、一時的に悪者扱いされるんだよ!?」


「ふっふっふ! ミリアの家は代々奴隷商人をしてきた悪の中の悪!! 今さら誰に後ろ指さされようと気にしないのです!! ふっふっふ!!」


 悪い顔を頑張っているミリアの表情が大変可愛らしく、紗希は羽が生えたように軽い足取りで舞台に向かったのち、無事にミリアに買われた。

 ルビーは「いいなぁ。ミリアさん。ルビーも責任押し付けられたいなぁ」と指を咥えた後に「けど! 奴隷になれるなんて!! 郷のみんなに自慢できますぅ!!」と駆けて行った。


「……私が最後! ミリア!! 私はどうすればいい!?」

「あ。すみません、ラミー様。お金がなくなりました。紗希様に全額入札しないと失礼な気がして!! 残った1ニップルプルはルビー様に!!」


「えっ!? ……そう。じゃあ、私は普通の犯罪者として暴れて来るよ」


 ラミーが「前科持ち」と言う名の個性をゲットしそうだが、好き放題できる環境は準備万端。

 何人が投げられるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る