第24話 人身売買に手を出す女子高生
「さて。具体的にはどうしよっか」と紗希が口に出した。
ここから2話くらいかけて作戦会議と準備に時間を費やすのかと思いきや、そんな展開にしないのが来海紗希。
彼女は常に最短距離を行く。
「お金がいるよね。ミリアちゃんち、破産してるし。ねね、ルワイフルって大陸全土で同じ通貨? それとも、モコン界は物々交換的な感じ? そもそもオペペペラにお金ってある? 移動しながら話そっか。ミリアちゃん、奴隷買うのってどういう手順? 資格とかっているんだよね、職業として確立されてるんだから。はい! 答えが出せる人から発言!!」
だいたい思い浮かんだ疑問を全部一気に口から出して、後は各々が意見を競わせている間に現着を済ませようと言う、時短系女子高生。
複数のバイトを掛け持ちするからには、効率は最重要事項。
『はい。ノリーオです』
「おお! 畑中さんが1番!! さすが元社会人で今は引きこもり!! 経験値が違う!!」
『時間がないようなので、要点をまとめてお伝えします』
「あっ! 待って、畑中さん!! ちょっと1回通信切って!!」
『え!? 何か問題がありましたか?』
「良いから! それで、すぐにかけ直してください!!」
畑中は「は、はい」と疑問形な了承という器用な返事をして、数秒後に再び通信回線を開いた。
紗希は「うむ! やっぱりだね!!」と頷く。
「畑中さんの通信機! ミリアちゃんの左胸についてるヤツ!! 着信する度にぶるぶる震えるの!! これはとても素晴らしい発明だと思う!! ミリアちゃんにずっと付けていてもらいます!! 確認終了!!」
『あの、差し迫った状態で時短を掲げた来海さんが、ものすごく私的な欲求のために時間を無駄にしたような。あ。すみません、何でもありません』
音声のみの通信なのに、なんだか女子高生に睨まれた気がした畑中さん。
大事な確認が終わったので、巻きで情報共有スタート。
『ルワイフルは全地域で同じ通貨が使われていまして、15年前に電子マネー化が済んでいますのでコインや紙幣もまだ存在していますが、端末で決済可能です』
「思ってたより近代的だった!! それで、お金ってどのくらいあるの? ルッツくん!!」
「フハハハハハ!!」
「あ。そっか。分かった」
ついに笑った時の雰囲気で全てを察するようになった紗希。
今の「フハハハハハ」は「私は覇者だったゆえ、どこの店に行っても顔パス! よって残金など気にした事がない!!」と続くものだったらしい。
「畑中さんに聞くのが早い! でもおじさんのセリフばっかり続くとわたしのモチベーションが下がるから、手短にお願いします!!」
『ええ……。実は通貨の管理も最長老の樹で行っているので、電子マネーを偽造して無限に増やせます。とりあえず、100万ニップルプルくらいミリアさんの端末に送金しておきます』
紗希の表情が暗くなった。
なんだか通貨の響きが嫌だったらしい。
『あ。ニップルプルは別に地球で言うところの乳首とは関係ないですよ? だってプルプルしないじゃないですか、乳首。いや、人によってはするのかな? 来海さん、ご存じですか?』
「……畑中さん」
笑顔の紗希。
オペペペラクルーは全てを察した。
「あ! 羨ましいですぅ!!」と目を輝かせるルビー。
彼女も適応完了したご様子。
「来週、そっちに行きますね! 一本背負いしてあげます!!」
『えっ!?』
戸惑うのは一瞬。直後、通信が途絶した。素早い損切りは大事である。
「紗希様、紗希様! 100万ニップルプルの入金、確認しました!!」
「ぐぅぅぅ! ミリアちゃんがニップルとか言うと、プルプルとか言うと!! くっ!! わたし、屈しそう!!」
その後、勝手に屈した紗希。
ミリアから、奴隷商人は免許制であり、1人がライセンスを提示すれば何人でもオークション会場に入れるとのこと。
「奴隷を運ぶのには人手が要りますから! 大事な商品です!! 5人くらいで慎重に運んで、揺れによる酔いなどを防止するのです! すぐに栄養を与えて太らせるために! ふっふっふ!!」と、ロリっ子は胸を張った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
アンドゥーのオークション会場は既に賑わっていた。
ツクターン自治領はルワイフル経済の中心であり、何でも売れるし何でも買える。
「ひぅぅっ。ギラギラした目の男の方がたくさん……」
「ルビー。お前、また言うな? アレなセリフを」
「はああっ! ラミーさんとセットで競売にかけられて、悪い人に買われて、まずはお前からだ小娘とか言われて!! ふへへへへっ」
「私を巻き込むな!! というか、巻き込んだならせめて私から召し上がられるべきだろう!? なんで私、買われたのに放置されてるんだよ! 無駄遣いするなよ!!」
おのぼり精霊コンビは好調な様子。
紗希がほっこりしながら見つめていると、ルッツリンドがミリアを連れて手続きを済ませる。
ルッツリンドは奴隷を買っていたので、実はミリアに次ぐ事情通。
「フハハハハハ!! 紗希よ! 全ては整った!!」
「あ。そうなの? やるじゃん」
「紗希様、紗希様! もう競売は始まっています! 竜族の皆さんは目玉商品なので、後半だと聞きました! ちなみに、各席に備え付けられているタッチパネルでオークションに参加できます!!」
「あ! そうなんだぁ! ミリアちゃんは物知りだねぇ!! じゃあ、やり方教えてー!!」
ミリアを抱えて、先頭のビップ席へと歩いて行った紗希。
「ルビーは珍しい生き物なので、先頭の席なんかに座ったらうっかり買われるのでは!? 急いで行かなくちゃ!!」と炎髪少女が後に続く。
残ったルッツリンドの肩をラミーが叩いた。
「おい。リリンソン。お前、少しずつ紗希に雑な扱いされ始めてるぞ」
「フハハハハハ! それこそ信頼と友好の証であろう!! 親しくなれば礼儀がなくなるのはリリンソン皇国では常識よ!!」
リリンソン皇国の第一皇子に日本の常識を教えたら、彼は挫けるだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うああああ!! なにあの子!! 人魚っぽい!!」
「はい! 人魚さんです! 人魚さんは飼育が難しいので安価で取引されます! 労働にも向かないので、主に鑑賞用としての用途しかほわわわわわわ!! 紗希様ぁ!! どうして入札しておられるのですかぁ!?」
「あっ! ご、ごめん!! なんか手が勝手に!!」
「フハハハハハ! 紗希は優しいからな! 放ってはおけぬのだろう!! 良きかな、良きかな!!」
ミリアが主の方を向く。
なお、彼女は奴隷商人でありながら奴隷でもあるので、オペペペラクルーは全員を主だと考えている。
「ルッツリンド様!」
「フハハハハハ!!」
「紗希様は聞いておられません! 下手くそに口説く暇があったら止めてください! もう8人買っておられます!! ほわわわわわわ! 紗希様ぁ! エルフさんはもう3人買いましたぁ!! ルッツリンド様! できないなら黙ってください!!」
「抜かしおる!!」
ただし、主にも序列はある。
その後、紗希は男女問わず12人の奴隷を買った。
それまでに出品されていた人数は13人。
ナメクジ型の獣人だけスルーして、あとは全部買っていた。
アンドゥーの奴隷オークションは司会者が「さあ! 本日の目玉!!」などとマイクパフォーマンスで煽ったりせず、淡々と商品が流れて来て決済が済むと粛々と舞台袖に消えていく。
そして、ついに竜族が流れ始めた。
急に会場が熱気で満ちる。
「おい! うちは冷暖房完備だぞ!!」
「うちは1人につき2人の専属執事をつける!!」
「バカどもが! 我が家は個室だ!! バストイレは別!! 浴室乾燥もあるぞ!!」
なお、買い付け人たちは竜族の言葉で叫んでいる。
別に叫んでアピールして、商品に気に入られても買えるわけではないのだが、「奴隷は買う前から印象が大事です! 大切に扱う意思を伝えないと、初日から完全なフォローができません!!」とミリアは語った。
「ミリアちゃんちがおかしいのかと思ったら、ルワイフルの奴隷商人がおかしいんだった! もう名前変えたら!?」
珍しい種族を買って、大事に育てるのが奴隷商人。
大事に扱ってくれる富裕層などに売りつけて、大金を得る。
その得た大金で新しい奴隷を買って大事に育てるのだ。
ふっふっふ。
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